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ギルド嬢をやめさせられたので、個人商店で頂点を目指します  作者: るるっくす
別れ、そして出会い
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孤児院

 「あ、見えてきましたね。あれが孤児院です。」


クリセルの言葉でそっと外を見る二人。


そこには、うっそうと生い茂る森の中にひっそりと建つこじんまりとした建物があった。


クリセルの話通り、見た目は廃墟のようである。


また、周りの森林のせいで、よく見なければ気づかないほどである。


 「そういえば、孤児院ということは子どもたちの世話をしている人がいるということですよね?」


 「はい、その通りです。 名をルシエラと言い、子どもたちとは違って、彼女は純粋な人族です。」


クリセルの顔が一瞬のゆがみを見せた。


気のせいだろうか。


 「昔に孤児になっていたところを保護しまして、以来私の商会で働いています。孤児院の子どもたちの世話もその一環です。」


孤児の保護は昔かららしい。


そもそも、商人が自分の利益にならないことをすることは極めてまれである。


アリエの中で、クリセルの好感度がかなり上がった。


 「まあ彼女もかなり若いですからね、アリエさんの娘ぐらいの歳ですよ!」


アリエの体温が急上昇する。


それと同時に、クリセルに冷たい視線が向けられる。



クリセルは気づいていないが、今アリエは視線だけで人を殺しそうな雰囲気を帯びている。


女性の前で年齢の話をするとは、なかなか度胸がある。


クリセルには、どうやらそのような思考は欠落しているようだ。


アリエの中で、クリセルの好感度が急降下した。




孤児院に馬車が到着する。


同時に、建物の中から若い女性が出てくる。


彼女がルシエラなのだろう。


赤い瞳と赤い髪は美しさを際立たせる反面、一種の悲しさも帯びていた。


シスターのような服を羽織っており、はたから見れば完全にシスターである。


美しさとともに儚さがある、そんな存在に見えた。


 「クリセル様、お久しぶりです! 本日はどのような要件でしょうか?」


声には覇気があり、見た目とは少しギャップがある。


子どもを育てているのだ、それくらいの声量は必要不可欠なのだろう。


 「今まであなただけに孤児院を任せていましたからね、今日はお手伝いの人を連れてきました。」


ルシエラはアリエをじっと眺める。


普通の人であればなんとなくアリエを怖がってしまうためなかなか凝視することはできないのだが。


なかなかに肝が据わっている。


 「アリエ・ロロットです、よろしくお願いします。こちらは、娘のイリスです。」


 「ルシエラと申します、よろしくお願いします。イリスちゃんもよろしくね!」


急に話しかけられ縮こまってしまうイリス。だが…


 「よろしく…お願いします。」


なんとか返事はできた。


イリスも少しずつ成長をしているらしい。


 「では私はこれで、しばらく本部を空けてしまったので仕事が山のようにね…」


 「クリセル様ったら、また奥さんに仕事まかせっきりにしてきたんですか!? 怒られても知りませんよ?」


 「ははっ、心配は要りません! (もう怒られることは確定していますので…)」


横にいたアリエぐらいしか聞き取れない声で細々としゃべるクリセル。


その声には、悲哀があふれていた。


それを聞き、少し同情するアリエ。


だがそれ以上に…


 『いいこと聞いたわね。奥さんとなんとかお近づきになれないかしら。』


クリセルの奥さんに興味がわいた。


夫の商会の本部を取り仕切っているのだから、相当なやり手であろう。


そして、なんとなくではあるが自分と気が合いそうな気もする。


クリセルの知らないところで、包囲網が敷かれようとしていたのだった。



クリセルはすぐにその場を去っていった。


先ほどまでのワクワクとした子どものような表情とは打って変わり、まるで死人のような顔をしていた。


奥さんに怒られるのがよっぽど怖いのだろう。


 「ではアリエさん、改めまして今日からよろしくお願いします!」


 「ええ、よろしくお願いします。年齢のことは気にせず、どんどんこき使ってください。」


どれだけこき使われたとしても、あの頃よりは全然楽だろうから…


 「いえいえ、さすがにそんなことはできません。きっと私の方が教えてもらうことがたくさんあるでしょうし。」


 「子供たちの世話はやったことはないのですが… でも以前はギルドで働いていたので、そういうことならいくらでも聞いてください。」


 「それは頼もしいです! ぜひよろしくお願いします!」


自分が先輩であるにも関わらず、一切おごった態度を見せない。


後輩であるにも関わらず、先輩の言うことを全く聞かなかったあの頃の若者たちには見習ってほしいものだ。


ルシエラとはうまくやっていけそうだ、そう思うアリエ。


だが、なぜか心の奥底では、得体のしれない不安を感じる。


馬車の中でのクリセルの表情は、見間違いではなかったのか。  


なぜこのような感情を抱くのか、アリエには全く分からなかった。




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