キルソ村
「イリスの横に立つ者が私…。」
自信はあった、イリスと一緒に暮らしていく。
しかし、やはり一抹の不安は残ってしまう。
クリセルに預けた方が、イリスは幸せになれるのではないか。
だとすれば、イリスをとどめるべきではないのだろうか。
そんな考えが心の底にあったことは事実だ。しかし…
「もちろん、私のスキルも万能ではありません。間違いだって起こりうる。」
クリセルが読み取れるのはあくまで可能性である。
隣に立つべきものも可能性でしかない。
「しかし、こと今回の場合では、ほぼ間違いないと思っています。スキルを通しても、そして私の直感からも。」
さきほどのアリエに怒られていた時とは打って変わり、力強く話し始めるクリセル。
その瞳は、自信であふれていた。
「でなければイリスさんを手放したりしませんよ。」
まだ完全には諦めていないのか、クリセルはすこし名残惜しそうな顔をする。
そんなクリセルを横目に、少女は立ち上がる。
「あ、あのっ!」
ずっとおとなしくアリエの後ろで話を聞いていたイリスだが、突然立ち上がりアリエとクリセルの視界に入る。
「私って、そんなにすごくありません…。ゴブリンも倒せないし、一人じゃなんにもできない…。お母さんだって私のせいで…。」
声を詰まらせながら訴えるイリスは、何かにおびえているようにも見えた。
もしかすると、イリスはずっと同じ経験を繰り返していたのではないか?
この年で無詠唱で魔法が行使できるものなど滅多にいない。
鍛えれば花を咲かせる、そう思って買われたが、まったく芽が出ず邪魔者扱いをされる。
彼女にとって、期待されるほど辛いことはないのかもしれない。
「こらっ! お母さんのことはイリスのせいじゃないって言ってるでしょ!」
「ご、ごめんなさい…。」
それなら、アリエにできることは決まっている。
「それに私はイリスがすごい能力を持ってるから一緒にいたいんじゃない、イリスがイリスだから一緒にいたいの。だから…」
「ずっと一緒にいるから、覚悟しといてね!」
この短期間で、アリエにとってイリスは大切な存在と化していた。
自分の命すら、投げ捨ててもいいと思えるほどに。
そしてそれは…
「はいっ! 覚悟します!」
イリスにとっても同じだった。
これほど、人の愛情に接したのは、お母さんと過ごしていた日々以来である。
そのことは、イリスの失われた感情を取り戻すには十分すぎた。
二人の旅は、まだ始まったばかりである。
馬車は道を進んでいく。
「では、お二人にはもう少し行ったところで降りていただきます。」
おそらく、もう半日ほど行けばグリンドに着く。
手配がされる可能性があるため、グリンドとこのくらいの距離をあけることは仕方ないだろう。
「少し街道からは逸れますが、ここから西へ少し行くと、キルソ村という小さな村があります。今からそこへ向かいます。」
何もないところで降ろされると思っていたので、村まで乗せていってくれるのは僥倖だった。
「キルソ村ですか…。 あまり聞いたことがないのですが、どんなところですか。」
「それは聞いたことがないでしょう。人口は200人程度、店もほとんどなく人々は自給自足の生活をしています。 村というか、人が集まっているだけのようなところです。」
話を聞く限り、そうとうな田舎と思われる。
そうなると、ひとつ疑問が沸き上がる。
「クリセルさんはなんでそのような場所をご存じなのでしょう?」
店もほとんどないのなら自分の商店を展開しているわけでもなさそうである。
それなのにクリセルがその存在を知り、なおかつアリエ達をそこに住まわせようとしているということは、必ず理由があるはずである。
「まあそう思いますよね。」
アリエの指摘に苦笑するクリセル。
「実は、キルソ村には孤児院があるのですが、そこに住んで経営を手伝ってほしいのです。」
「孤児院…ですか? なんでまたそんな田舎に」
大都市には多くあるが、そもそも田舎にそこまで孤児はいない。
いたとしても、孤児院を造るのは考えにくい。
となると、大都市には建設できない孤児院があるということになる。
となると、一番考えられるのが、、、
「孤児院の生徒が特殊な子供たち、ということですか?」
クリセルは少し驚いたような顔をする、がもはや慣れたようである。
「アリエさん、あなたの推理力には感服しますよ。衛兵と比べ物にならない。」
感服というか、少しあきれているようにも見えるが…それはまあいいだろう。
「その通りです、あの子たちはあまり目立った場所にいてはいけないのです。」
「獣人の子供たちは」




