社内トラブル&ドジっ子発言
新しい物語を始めます。
「それでは、日程変更のご連絡お待ちしています。いえ、それは問題ございません。
はい、その件はただいま社内検討中なので折り返し返答させていただきます。
はい、それでは失礼いたします。」
ガチャッ。
「ふぅー」
電話の受話器をそっとおいて、小さくため息をつく。
「千賀、朝11時にしてもう10回目のため息ですぞぉ。今日はどうした?珍しく元気ないね?朝の占い最下位だった?」
隣の同僚である夢子が心配そうに、私のご機嫌をうかがってくれる。
会社での私はもっとにこにこしてて、元気っ子の設定だもんね。
そして、占い大好き人間であることもご承知おきの通りでございます。
「まぁね、今日が、週の始まり月曜日っていうのもあるけど、
大きな原因は、昨日開催された大学時代の友達との飲み会かな」
同僚の夢子には正直に理由を話そうと思う。まぁ占いも最悪だったという事実はある。
「いいじゃん、大学時代の友達と飲み会なんて、会社の飲み会とは全く違って、気軽じゃない?」
「そうねかなり気楽だね。気楽だから月に1回は開催されるの。でも気軽な分、全員がガンガン自分のことを話すんだけど、
私だけ日常生活について話すことが無くて、私生活ではなんの変化もない1ヶ月だった。と言う現実を
突きつけられた感がしたんだよ。誰も悪くなくて、全くの意味不明だけど気持ちが落ち込んでしまった」
「それで、なんとなく落ち込んで、10回もため息をついてたんだ」
「うん、隣の芝生は青く繁っていたのよ.....」
私が卒業した大学は、日本でもそこそこの名門で友人は、官僚または弁護士になっているか、
大企業でバリバリのキャリアウーマンになっているか、
芸術系でそこそこの名前が通っているか、元々お金持ち家系に生まれて、大卒後お金持ちと結婚して、
主婦業は外注してやっておらず悠々自適に暮らしている奥様が多い。
私はというと、そこそこの出版社に勤めている、そこそこの年齢(31歳)のそこそこの社内SEである。
自分で望んだことだからいいんだけど....ちょっと忙しい。いや、結構忙しい。いや、超絶忙しい。
毎日同じような仕事をして、疲れ果て、同じ通勤経路を繰り返した1ヶ月なんぞ、誰も聞きたくないだろう。
私生活を話してこそ、友達と共感が生まれるのだが私には話せるほどの素晴らしい日常が無かった。
「先週起きた事件を話せばよかったじゃない。サーバー障害で徹夜対応した話。」
「夢子さん、あの友達集団にそのお話したときの空気が怖いわ。」
そんな話をしてもおそらくお友達に流されるよ。
「また、そんな友達にまで引っ込み思案発動してぇ....もう、これでもお食べっ」
そういって、夢子が1粒のチョコレートをくれた。
「これ、超高級のフランスチョコじゃん、いいのぉー?」
「いいよ、私が買ったわけじゃないお土産だからいくらでも食べて」
「あ〜、あのできる彼氏のお土産?海外出張とか?」
「うん、なんか良くわからないけどそうみたい。会社の中ではまぁまぁ若いし、
言うことなんでもハイハイ聞いちゃうから、雑用で海外に飛ばされることが多いって言ってたよ。
まぁ、いろんなお土産食べれるから嬉しいけどさっ」
彼氏が良く海外出張とは...私には寂しすぎて耐えられないかもしれない.....。
さすが多趣味の夢子様は、ご自身の時間を有効活用できそうで良いですね。
「私も夢子の彼氏みたいに優秀でなくて良いから、是非とも彼氏が欲しいわ.....」
「おい、それは未来の彼氏に失礼だぞっ」
仕事中ですが、気持ちがずーんと暗くなる。
最後に彼氏がいたことは、4年前だったなぁ。
同棲までしたけど、私がお母さんみたいになって、別に女作って出て行っちゃったのよね...。
あの頃は、30歳手前で結婚まで意識していたのに、荒れたなぁ。
「あ、岡田さん、山口さんが呼んでます!!」
夢子(岡田)が、上司(山口)に呼ばれていることを後輩が大声で告げてきた。
「ちょっくら上司様のところへ行ってくる。時間が合えば、今日はランチでも行こう」
「うん、ありがと」
颯爽と、夢子は上司の元に向かって行く。
夢子は誰もが認めているキャリアウーマン、そして嫌味の全くない完璧な人間だ。
私は、彼女と同期であることが密かに嬉しい。タメ口で話すのも弱み見せれるのも同期の特権だし。
うふふふふ。
颯爽と歩く夢子の背中を見ながら、いただいた一口チョコレートを口へ入れた。
う、うまい。泣ける。
チロリロリン♬
社内システムグループにある電話が鳴っている、チョコレートなんて食べて、
ぼぅとしている場合では無かった。
ちょっと面倒ではあるがこれが仕事であることを再認識して、電話にでる。
「はい、こちら社内システムグループです。どうしました?」
社内で起きるシステム系のトラブルにも対応する何でも屋の社内システムグループは
いつもこんな感じで突然仕事が降ってくる。
社内ユーザーからお得意の「何もしていないのにPCが動かない」発言をうん、うん聞いて、
私生活での落ち込みも忘れて仕事に戻る。
------12時------
夢子が上司との会議を終えて、帰ってきた。
「上司様対策も済んだし、千賀お昼いけそう?」
「うーん、多分いけないかも....」
「なに?どうしたの?」
「PCが動かないって言われて行ったんだけど、原因がわからなくて一旦PC引き取ってきちゃった」
「そう、ちょっと見せてみなよっ....」
そう言われて、借りて来たノートPCを夢子に渡す。
「ちなみにこれ電源刺さってたか確認とかした?」
夢子から事情聴取される。
「渡された時、電源ケーブル外してたから多分つけてたと思うけど....一応、電源ケーブル持ってくる!」
コンセントに繋いだ電源ケーブルをさして、しばらくしてPCの電源を押した....。
つ、ついた!電源がついた。
「夢子、PC起動した!電源ケーブルの故障だったんだ!さすが夢子様!夢子様!夢子様!
起動もしたし、業務できなくて社内ユーザーが困っているかもしれないから、電源ケーブルと一緒に返してくるね!」
「ちょっと待って千賀、お昼はどうするの!?一応動いたの確認したんだし後でもいいんじゃない?
あと、神様、仏様、夢子様ねっ」
「原因説明と電源ケーブル交換してくるから、今日はお昼を1時間とるの無理かも.....ランチは明日でお願いします」
「もう、千賀は自己犠牲が過ぎるよっ。まぁそこが社内ユーザー好感度ランキング第1位なところなんだろうけど」
夢子が最後の言葉を言い終わるか終わらないかには、私は社内ユーザーへPCを返却しに向かっていた。
ーー12時30分ーー
結局今日のお昼は、コンビニのおにぎりになってしまった。
ユーザー様に感謝されたからいいんだけど、夢子の手柄だけど!
コンビニでいつもよりちょっとお値段が高いおにぎりと、唐揚げを購入した。
高いおにぎりは自分へのご褒美としている。
コンビニから歩いて会社に戻ろうとしたら、会社の玄関先に人だかりができている。
ん...?なんだろう、今日は出版に関して発表する日ではなかった気がするけど....。
チロリロリン♬
私用の携帯に夢子から着信が入る。
「もしもし、千賀?」
「どうしたの?コンビニで何か買って来て欲しいものでもあった?」
「違うわよ!会社の前に人だかりができていない?」
「うん、できてる。」
「あれはマスコミだから、裏口から会社に入っておいで」
「なんでマスコミ?今日はなんか特別な作者の作品発表なんてあったっけ?」
一応、社内で記者会見がある時は、全社連絡と事前会場準備を社内システムグループで
実施することになっている。
「作品発表じゃなくて、うちの社員に過労死疑惑でちゃったらしいの。それでマスコミが大勢押しかけてるみたいよ。
もう、広報と代表電話はなりまくりで通常業務は不可能っぽい。
千賀もインタビューされて、無いこと、無いこと書かれないように裏口に周りなっ」
「うん、わかったありがとう。裏口までの道のりも気をつけるよ。」
「気をつけて、じゃぁまた後で」
「うん、じゃぁね」
電話を切って裏口までの道のりを部外者のふりして確認したが、
裏口までの間にも多くのマスコミのみなさんがいて、見つからずに通るなんて困難という感じ。
そうだ、一旦、コンビニに戻ってマスク買ってこよう。
生放送だったら全国のお茶の間に不本意なテレビ出演デビューしてしまう可能性あるし。
私はコンビニに戻って、マスクとなぜか売っていた伊達メガネを購入して変装する。
変装してもやはり透明人間にはなれないらしく、裏口の前でマスコミのみなさんに話かけられる。
「堂献島出版社にお勤めの方ですか?今回の過労死事件についてどう思われますか?」
「あなた方も過労死された方と同じように、厳しい労働環境にあるんではないですか?」
「名刺をお渡ししますので、後で単独取材お願いできませんか?」
キャッチでさえも無視できない私が、大勢の大人たちを無視しながらあるく。
心苦しゅうございます.....。心の中で何度か謝罪する。
芸能人が記者に囲まれるときってこんな気持ちなのかなとつまらないことを考えながら、
裏口の玄関まで小走りで向かう......。
.....ズテンっ!!
歩いている途中、あまりにも急いでいたため、立ち入り禁止のロープに気づかずに壮大にズッコけてしまった。
恥ずかしすぎて、急に立てないでいるとリポーターに気づかれる!
「足元もおぼつかないくらいに疲労が溜まっている社員の方もいるようです。
老舗と言われるこの企業の実態も老舗という化けの皮が剥がれたらただのブラック企業だったということでしょう。また新しい情報が入り次第中継いたします。」
「私は、ただのドジっ子です!!」
大きな声で叫んで、裏口から入る。
はい、わたくし31歳にもなって大きな声で全国へ「ドジっ子宣言」するとは思いませんでした。
赤面ものでございます。
恥ずかし過ぎて、顔をあげることなく、社内の自分の席まで、少し小走りで戻った。




