プロローグ = 端書き集・後編
■西の海洋国家/浮かぶ鉄の王座
大陸西方に位置する海洋国家の女王はクラウンネットワークから自分の王座へと戻ってきた。
「どうでした? 女王様」
目の前に佇む側近の男の質問に首を振って返す。
「いえ、相変わらずの結果でしたわよ?」
「そうですか、お疲れ様です」
「時にトウゴウ……新たな〈異人〉がやってきたのだけど」
「……ほう、珍しいですね。もうラッシュは終わったと思っておりました」
「その〈異人〉は一人で来たわけなのですが、何か心当たりはありますこと?」
「一人……それは本当ですか?」
女王に側近として仕える東郷は、女王の口から出た一人という言葉に動揺する。
この東郷もあのラスボスを倒すために自分たちのクラン全員で挑んでようやく勝利をもぎ取っていたからだ。
「ええ、本当よ?」
ラスボスに一人で挑む、そんな逝かれた男がいるのか。
と東郷はやや呆れながら、それを達成できそうな人物を頭の中で思い浮かべていた。
そんなことが可能な連中に心当たりはある。
誰よりも先に挑み、そして勝利したあの連中だ。
だが、すでにその連中は全員聖王国を拠点にしている。
……いや、奴がいた。ユウ=フォーワード。
「…………一人、覚えがあります」
そういえば初期討伐の後も、何やらあの廃人は美しい激レアなアンドロイドを連れ回し、ソロで狩り廃人をしていた。
と、いうことは奴は初期討伐に参戦していなかったことを指す。
この世界でリミテッドモンスター襲来があった時も、そういえばあいつの名前は上がっていなかった。
頭の中のピースがかっちり当てはまり、その一人で来た〈異人〉が奴であることを断定する。
「ワタクシも、ぜひその〈異人〉の獲得に動きたいところなんですが……どうにも北と南が先に取り合いをしそうですし、なんだか砂漠のロクデナシも茶々を入れて来そうなんですの」
「なるほど……」
なんとか獲得に動きたいという女王の意思を汲み取って、その上で東郷は首を横に振る。
「南が取るでしょう」
「その理由はなんですの?」
「恐らく此度やって来た〈異人〉は、南の〈異人〉ととても関わりが深い人物になります。なので、誰がどう介入をしても結局は南を所属とするでしょう」
「なるほど……それでも、はいどうぞと素直に渡すのもなんだか癪に触りますわね」
なんとか邪魔をしたい女王は考える。
「女王様、場所の詳細はわかりますか?」
「忌々しいことに北と南の国境沿いらしいですの。ロクデナシはすでに先手を打っていそうな余裕を見せていましたし、完璧に出遅れてしまいましたわ」
「国境沿いですか……それなら面白い見世物が期待できそうです」
「どういうことですの?」
「戦魔の女が、ちょうどそこに用事があると国を出ております」
「あら、いったいどうしたのかしら?」
「帝国の男に振られたそうです」
「あらあら、フフフ」
それを聞いた女王は豪華に飾られた扇子で口元を隠す。
恐らくその口元は今さぞ楽しそうに笑っているのだろう。
「それなら……何もしなくても邪魔できますし、面白い話も聞けそうで一石二鳥ですわね、フフフ」
■砂漠の国/大オアシス首都
「さて……僕はどう動きましょうか……」
クラウンネットワークから戻ってきた覇王は、黒いスーツのポケットから小さな端末のようなものを取り出すとどこかに連絡を取り始める。
灼熱とも言える砂漠の気温の中でも、長袖のスーツを身につけて顔色ひとつ変えない様はどことなく異様だった。
通信を終えた覇王は、椅子から立ち上がると自分の書斎を出る。
すると、外で待機していた同じようなスーツの男が、一礼し覇王に声をかけた。
「代表、例の商談に携わる方々がお見えになられています」
「そうですか、ご報告ありがとうございますカシムさん。すぐに向かいましょう」
「はっ」
カシムは短い返事をして、先に歩く覇王の後ろからついて行く。
「そうだ、カシムさん」
「なんでしょうか」
応接室に続く長い廊下を歩きながら、覇王はカシムに尋ねた。
「西方三国で、活動している僕たちの同胞は今どれくらいいますか?」
「詳しい数字はわかりませんが、かなりの数がいます」
「そうですかそうですか」
商人とは何かというものを覇王直々に叩き込まれてきたカシムは、その反応にやや冷や汗を流す。
笑顔の裏に感情を隠すのが非常に得意な人だということを知っているからだ。
今までも散々この表情と口調で怒られてきたカシムは、心の中でその辺の資料を暗記しておくべきだったと少し後悔する。
「現時点で2万6千378人です。その内〈異人〉が279人、覚えておくと後々便利ですよ?」
「わ、わかりました!」
「まあ、カシムさんが代表になればすぐに覚えれると思いますけどね?」
「め、滅相もございません!」
怒っているのか怒っていないのかわからないが、とりあえず謝るカシム。
そんなカシムを見てケラケラと笑いながら、覇王は言葉を続ける。
「ではカシムさんに一つお仕事をお願いします」
「はい」
「ビクトリアとゾルディアの国境沿いにいる同胞と、今すぐ連絡を取って欲しいのですが……おっと、あまり大声を出して言えることではありませんので、少し耳を……」
「は、はい」
素直に耳を貸すカシムは、覇王からの話を聞いて少しづつ青ざめて行く。
「そ、それは……いいのですか?」
「ええ、カシムさんもそろそろ知るべきだと思いますから。では、私は商談へと向かいますので、後はよろしくお願いしますね?」
「はい……」
青ざめるような話をしても、表情一つ変えない覇王にカシムは戦慄する。
入りきらなかった分のプロローグ部分を少し増量して分割アップロードです。
コンテンツをクリアしたプレイヤーの詳細は、作中で語られると思います。
次話でようやく、主人公の本編スタートになります。やっとです。
ここまで長々とお待たせしてすいませんでした。
夕方ごろまた更新しますね。