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廃人ゲーマーとラスボス後の世界  作者: tera
第二章 - 廃人と聖職者
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12 - 【聖職者】

■階層墓地/第五階層/助祭:ユウ=フォーワード


「臭い!!!!」


「知ってますよ! っていうか、先ほど言ったじゃないですか、臭いって」


「だけどこの臭いは異常だろ!!!!」


 思わずキレちゃうくらい、戦いに水を差す臭さだった。

 それでゴーストを追いかけ回している闇の手がヘロヘロと方向性を失って自動追尾をやめる。

 自由度高いから、こういう部分でも影響してしまうのだよ……。


 リスキーの時は……なんだろう。

 朦朧としていたけど、とにかくあいつらを殺したい欲求が俺を突き動かしたというか。

 いやむしろ、闇の手側が俺を突き動かしたと言える。


 だから、なんとなくやばそうな匂いがするから。

 ロクでもない状況以外では自傷して使うなってマリアナに言われているだよな。


 そんな俺のいうこともあんまり聞く気がない闇の手がヘロヘロになるほどの強烈な匂い。

 とんでもない新手が迫っている、そんな予感がした。


 だが、


「ふう……これで勝ったな」


「ああ。ゴーストだけにしたことが結果的に俺たちに大勝利をもたらすな」


「うむ、とりあえずゾンビの相手をしに行こう」


 騎士達は、なんとも希望に輝いた目をしている。

 なんでだ、なんでこのドブよりも恐ろしい匂いの中でそんな顔ができるんだ。


 疑問を感じていると、


「君のおかげで、俺たちは時間を稼げて生き残ることができたよ」


 ゴーギャンにそうサムズアップされた。


「ええ……? 新手じゃないんですか?」


「いいや、この匂いは、この地獄の底でよくわからないやばいものを煮詰めているような匂いは、味方だよ」


「……」


 言ってる意味がわからないんだけど。


「マスター、私も同じ気持ちです。おっしゃている意味が理解できません。演算しますか?」


「んな無駄なことに使うなよ」


「実はもう使っていて、それでいてよくわからないのです」


「なら言うなよ……」


 とりあえず、この強烈な匂いの正体は一体なんなんだ。

 それだけが気になるのだが、騎士達の反応を見るに敵ではなさそうだった。


 味方か……ゾンビじゃないよな……人だよな……?

 そんなことを思いながら気を取り直して、なんとかゴーストを掴みに掛かっているとさらなる強烈な激臭とともに、後ろから声がした。


「報告と違いますね。クラスター複数体が出現したと聞いたんですが、なんとも大量のゴーストとゾンビ。まあ、これもある意味以上な状況でしょうけど……──《ホーリーシンボル》」


 激臭の正体は、なんと修道服に身を包んだ女性だった。

 ボサボサで少し色あせた(ダンジョンが暗いからそう思えるのかもしれない)長い金髪を持つ女性は、そう言いながら詠唱し、手のひらから光の玉をポンッと上に飛ばす。


 すると、


 ──ファアッ!


 と、煌びやかな眩い光がダンジョンの中を照らし、ここら一帯にいたゴースト達が軒並み浄化されていった。

 阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる。


 まだ逝きたくないとか、絶対恨むとか、殺しつくすとか、そんなこの世にしがみつくような、すがるような思念体が伝わってきて、それでも問答無用で浄化しきってしまった。


「「す、すごい……」」


 俺とマリアナがあっけにとられながらその光景を見ていると、ゴーギャンが言った。


「だろ? 〈階層墓地〉の管理を携わる地下聖堂の秘密兵器で若き【聖職者プリースト】……我らが上司のオルソン殿だ」


 上司ってことは、神聖騎士団所属なのかな。

 それにしても、あれが上位職業【聖職者】のスキルか。

 とんでもない一撃だった。


「……そうなんですか」


 鼻をつまみ、顔をしかめながらながらマリアナが言う。


「秘密兵器とは、このゾンビも鼻を曲げた表情をする匂いが……でしょうか?」


「こら」


 たとえ本当だとしても失礼に値するだろうに。

 ゾンビに嗅覚があるのかはわからないが、人に寄ってくるってことは匂いを辿っていると思うので、きっとあるのだろう。

 でも表情は常に苦痛に歪んだものか、ラリってる感じの表情なので、激臭に鼻を曲げているのかは判断がつかない。


「ぐぼぁ」


 あ、吐いた。

 ゾンビが吐いたんですけど。


「……それもある。彼女が本気を出せばゾンビも位置を特定できなくなるらしいしな。まあ俺らは慣れたけどな……慣れたくもないけど、慣れてしまったんだよ……ハハ……」


 乾いた笑いを漏らすゴーギャンを見て、素直にかわいそうだと思ってしまった。

 一緒に乾いた笑いを浮かべていると、杖がゴーギャンの元に飛んできて、顔面を横切って後ろの墓石に刺さった。


「一週間前に風呂に入りましたけど? ゴーギャンさんは上司を侮辱した罪で、始末書です。ってことでほらほら、見てないでゾンビの始末をしてください」


「くそう……だったら全員反省文書かなきゃおかしいだろぉ……ってか毎日入れよぉ……」


 そんなことを嘆きながら、ゴーギャンはクラスターの憑依体となっていたゾンビや、騒ぎに寄ってきていた魔物達の後処理を始める。


「ちなみにクラスターはどこに言ったんですか?」


 キョロキョロと辺りを見回しながらそう呟くオルソン。

 騎士の一人が答える。


「ああ、あの大量のゴーストが、もともとクラスターだった代物ですよ」


「もともと……? 詳しく聞かせてください」


「クラスターの成り立ちは知ってますよね?」


「ええ」


「だったら簡潔に説明します。そこの青年が、ゾンビからゴーストを引き剥がすことができるのです」


「へえ……」


 オルソンの視線が俺に向く。

 そして、彼女は騎士から俺のアビリティの説明を受けると、ニコニコとした笑顔で近づいてきた。

 見てくれは、悪くない。

 マリアナに匹敵するくらいの美人度ではあるのだが、いかんせん臭いがやばい。

 美人にこれ以上近寄って欲しくない、と思ったのはこれが人生で初めてだ。

 あ、マリアナにも寝る前は接近して欲しくないから二度目かな。


「とても素晴らしいものをお持ちのようですね。……ええと?」


「ユウです。ユウ=フォーワード」


「なるほど、フォーワードさんですか。それとも、ユウさんとお呼びした方がいいのですか?」


「ああ、ユウで──「フォーワードでお願いします」


 横からマリアナが口を挟んできた。


「えっと、あなたは?」


「私はこの人の妻の、マリアナ=フォーワードです」


「マリアナ。同じフォーワードなんだから、色々呼び方被って面倒だろ?」


「なら私をマリアナと呼んで、マスターのことはフォーワードで」


「えっ」


 それ、いじめじゃない?

 みんなファーストネームで呼び合って、俺だけセカンドネームだろ?

 心がズキンと傷んだ気がした。


「とりあえずユウさん」


 マリアナの言葉を無視して、オルソンは言う。


「まだレベルも低いのに、騎士達とともに戦っていただきありがとうございます。この恩は地下聖堂を代表し私が感謝いたします」


「ど、どうも」


 美人にそう微笑まれて、気分は悪くない。

 でも吐きそうです。

 なんなんだよこれ、なんでこんなに吐きそうなんだろう。


「とりあえず改めて状況報告とお礼をしたいので、後処理が済んだら私の執務室にまでお越しいただけますか?」


「は、はひ……」


 このダンジョンの匂いは結構きついよな、なんて思っていた頃が遠い日のように思えました。

 オルソンのセリフを聞いた時、ゴーギャンが泣きそうな顔で俺にアイコンタクトを送っていた。

 それもまた、遠い記憶のように思える。




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