11 - 騎士道
■階層墓地/第五階層/助祭:ユウ=フォーワード
クラスターはまだまだ来る。
だが、今回は三体ほどまとまってだった。
そんなクラスター達を見ながら、ゴーギャンが俺に聞いた。
「君、一気に全員ばらけさせることは可能か?」
「できるとは思いますけど……そうしたら大量のゴーストが一気に解き放たれる可能性が」
ゾンビは驚異じゃなくなったとしても、大量のゴーストを処理しきれるだろうか。
がんばればなんとかなる気もするが……MPをマックスまで使用して一気に押し込むって戦法になりそうだった。
そうなればいかに早くゴーストを処理するかに命運がかかるのだが……散らばってこの辺にゴーストナイトがたくさん湧くのも騎士の人たちは嫌がるだろう。
「……それでもやるしかない。頼めるか?」
「はい。限界まで拡大すればまとめて薙ぎ払えます。そこから床に押し付けるつもりですが、ゴーストが逃げ出す前に」
「了解した。それだけでも十分さ」
「ゾンビの方は、マリアナがなんとかします」
「承りました」
「ほんっと、頼りになるなあ」
確かに頼りになるけど、限界はある。
こうしてクラスターと戦っている間にも、マリアナは後ろから来るゾンビ達を一人で処理している。
幸いにして、ゴースト系はクラスター側に吸収されているのか集められているのかわからないが、ヘイトがこっちに向いているが、解き放ってゴーストがマリアナに行った場合、俺はサポートできない。
「マリアナ! 十字架持ってろ!」
「はい」
ゴーギャンからもらった十字架を彼女に渡して、いざ前を向く。
クラスター、いったい何体いるのだろうか。
マックスパワーで光の壁を展開した際、俺はどれだけのゴースト達を押さえこめるのだろうか。
わからないが、やるしかないよな。
「来るぞ! 構えろ!」
「了k……おいおいおいおい、まじかよこれ」
ゴーギャンが顔を歪める。
俺も同じ気持ちだ。
目の前の光景、確かに目を疑うというか。
一体ずつ処理して行くとか、そんな次元じゃない。
クラスターの数は合計にして、1、2、……10体。
それが隊列を組んで接近してくる。
「ハハ……こんな数いたっけか……?」
「いや、明らかに異常事態だ。この階層にこの規模のクラスターは普通ありえない!」
『コォォォオオオ……オオオオォォ……』
地獄の大合唱みたいになっている。
これだと十字架も意味ないな。
騎士達はクラスター達を見据えたままジリジリと後退する。
「騎士隊」
だが、止まった。
「正直勝てる見込みはほぼない。だが、後退も許されない」
「わかっているさ」
「少しでも数を減らして、後続に繋ぐぞ」
……すごいな。
この状況でも正気を保って、さらに命をかけるのか。
男だ。
まさに漢、いや騎士道というのだろうか。
「協力します」
俺も思わず前に出ていた。
あのラスボスの時みたいに気持ちが高ぶって来る気がした。
「……うっ、くさっ」
「どうしたマリアナ?」
いきなり後ろで顔をしかめて鼻を押さえ出すマリアナ。
この迷宮ゾンビだらけだから、今更腐敗臭とか気にしてもしょうがないと思うのだが……。
「い、いえ、そうではなくて……なんというか、ゾンビとはまた違ったその……もっとえげつない匂いが、後ろからするんですけど……うっ、くさい」
「………………今そんな場合じゃないだろ、戦うぞ!」
さらっとスルーして正面を向く。
せっかく熱い展開なのに、臭いだの言ってられないだろうに。
男臭い、って表現なら、なんとなく当てはまる状況かもしれないけど。
「いやその……」
「──とりあえず特大出力で、一気にゴーストとゾンビを分離させます!」
マリアナを放置して、光の壁を大出力にした。
俺の守護は、ゴーギャンが盾を構えてやってくれている。
だから気にせず接近して、一気に押し流す。
「うおおおおおおお!!!」
新たに展開し直した光の壁が、音もなく動きクラスターの集団に一気にぶつかる。
そして、突き抜ける。
『──オオォォォオオオォォオオオオオオ!!』
ゾンビの体から、一斉に分離させられた怨霊の声が空間に津波となる。
そのまま俺はゴーストのみを地面に抑え込みにかかり、騎士達は大量のゴーストを一気に仕留めにかかる。
ゴーストの絨毯みたいだな、まるで。
もしくは地獄の底から外に出ようとする、そんな印象だ。
「急げー! 急げー!!」
騎士達が武器を振り回してゴースト達を叩き潰して行く中。
「う、ぐっ」
な、なんだこれ。
俺は一人、焦っていた。
キャリーオーバーだとでもいうのだろうか。
レッドオーガの一撃を受けてもビクともしなかった、光の壁。
依然としてひび割れすら入っていないのだが、使用する俺の方に負荷がかかっていた。
やはり、こう自由度が高い代物をなんの代償もなしに使えるなんてことはありえない。
百体規模になるゴーストを受け止める、合計レベル20台程度じゃまず無理だ。
ポツリ、と鼻から血が垂れる。
「それでも……ッッ!! うおおおおお!!」
全身全霊を込めて、ゴースト達を押しとどめる。
隙間からするりと逃げてしまう前に、なんとしてでも騎士達が叩き潰してくれる時間を稼ぐんだ。
だが、現実はゲームの世界ほど甘くない。
及ばず、だ。
するりするりと、逃したゴースト達が隙間から抜けて行く。
それに倣って他のゴースト達も一気に散り散りに。
「ぐ、うっ」
「マリアナ! 《メンタルクリア》!!」
これだけの規模に、すぐマリアナがダメになった。
スキルを使うも、すぐにまたゴースト達が群がってその怨念によって体を蝕むだろう。
俺とマリアナは、デスしたとしても首都で目がさめる。
だがこの騎士達はどうなる。
俺たちのために残ってくれたとして、犬死じゃないか。
いや、そんなネガティブなことを考えている場合じゃない。
右手に持ったメイスを手放して、ナイフで右足に傷を入れる。
HPが減る、もっとだ。
ザクザクザクザクザクザクッッ!!
「お、おい……?」
異様な光景に見えるかもしれないが、これが最善だと思った。
そして一気に闇の腕を解放する。
全部掴んでしまえばいい。
敵対したものは全て侵食するように掴みかかるこの抱擁の左手ならば。
いけるはず。
「す、すごい……光景だ……」
ちなみに、この階層に来るまでに試していたのだが、この闇の手はゴーストも問答無用で掴む。
異常状態まみれのゴーストみたいな手だからだ。
いや、もっと凶悪ともいっていいのかもしれない。
HPが低ければ低いほど、その効果は上昇していく特性も持ち。
自分を傷つければ傷つけるほどに、数は膨大になって行く。
「マスター! それは禁止だと!!」
「やるしかないだろ!」
あまりのグロさに、マリアナから禁止令が出されていたほどだったりする。
ちなみにHPマックスの時はちっこい影みたいな手が一本しか出せなかったり。
でも割と第三の腕として便利なんだよな。
例によって、異常状態をかけるもかけないも俺の意思次第という自由度。
でもHPの減少によるものだから、左手の光の壁よりも負荷は大きい。
「うおおぉぉぉォォォオオオオ!! ──ふぐっ、臭っ!?」
必死こいてゴーストを追いかけている状況で、とんでもない匂いが鼻についた。
新手の敵か!?
なんだ、この匂い。
マジで臭いぞ!?




