5 - エントランスでの話
■聖王首都ビクトリア/とあるアパート/助祭:ユウ=フォーワード
顔を洗って自室に戻ると、俺のベットでマリアナは二度目の睡眠を味わっていた。
俺の枕を抱きかかえるようにして寝ている。
「退いてくれ、マリアナ」
「ふぁ……」
寝ぼけ眼なマリアナは目を擦りながらのそのそと起き出した。
もう自室に戻れとかは言わないでおく。
言ったってどうせ聞かないと思うしな。
「私も顔を洗ってきます」
あくびを一つして、マリアナは部屋にあるキッチンでバシャバシャ顔を洗う。
そういえば、ここにある設備って村とは大きく違っていると感じた。
顔を洗った時も、トイレも。
洗面台は普通に蛇口で、便器も水洗で。
いたって普通の感覚で使っていたのだが、これ現代日本での生活とあまり代わり映えしないな。
ファンタジー成分がどこぞに飛んで行ってしまいそうだった。
便利なのはいいのだが……。
そんなことを思いながら、マリアナが顔を洗う様子をぼーっと見ていると、
「なんですか?」
「いや、便利だよなって思って。この世界って中世ヨーロッパ風の世界観だから。貯めてある水を利用したり、もっと不衛生な感じだよなって想像してたんだよ」
「ああ、この家屋だけ特別らしいですよ?」
「ええ? どういうこと?」
「厳密にいえば、一部の家屋が利便化されている……と言いますか」
「なおさらどういうことだよ。なんでマリアナがそんなことを知ってるんだ?」
「昨日の歓迎会で色々アパートの設備をウィンストン様に聞いていましたから」
ウィンストンに聞いた。という言葉で察した。
この便利さは奴の賜物なのだろう。
物作るのが趣味な廃人だから、この有様も納得できる。
ゲームの世界に入り浸っていたとはいえ、生理現象は現代社会の様式が普通だ。
まあ、物作り廃人がいたらこういう部分で改善を求めるのも必須だよな。
当の本人は、人用のトイレじゃなくて、ペット用のものを使っていたりするけど。
ウィンストンの姿から、前タイトルの犬アバターがそのままになっていることはわかる。
だが、奴の中身はほぼ八割型魔改造されていたはず。
機械がクソするのか、って話だ。
そんなことはどうでもいいか。
「あとマスター、この世界には魔道具というものも存在するらしいです。戦いに特化したものもあれば、利便性に特化したものまで、様々な魔道具があるそうです」
「へえ」
「人工的に作られたものもあれば、面白いことに出土するものまであるそうですよ」
「出土?」
「ダンジョンという場所で見つかるらしいです」
へえ、ゲーム要素もバッチリ融合してるんだな。
ダンジョンか……興味はある。
レベルが上がったらチャレンジして見たい。
「そういうわけで、このアパートはいわば超巨大な生活用魔道具……という枠組みらしいのです」
「道具なのかそれ……?」
「言葉がそれしかないのかもしれませんが、言い直せば生活用魔道建造物でしょうか?」
スケールが大きな……。
でもまあ、ファンタジーな世界観だからなんとなく説得力があった。
マリアナの話では、ウィンストンがコツコツ改造して言った結果の産物であるらしい。
コツコツやってアパート型魔道建造物が作れるものか、なんて思えてくるが……ウィンストンだから仕方がない。
「よし、とりあえず俺は先に下に行ってるぞ?」
着替え終わったから立ち上がる。
「フル装備を身につけてますけど、どこへ行かれるんですか?」
「腰を落ち着けたらやることは一つに決まってるだろ?」
「それは腰を使うスポーツですか?」
朝からどストレート下ネタとか、飛ばしてんなマリアナ。
「ちげーよ。レベル上げに決まってんだろ」
「ああ。なら私もすぐに着替えます。なんなら着替えさせますか?」
「遠慮しとくわー」
そんな感じで彼女の冗談を受け流し、スタジアであらかじめ買っておいた装備に着替えた俺は再び自室を出て階段を降りた。
ちなみに装備は軽めの革鎧をベースに、急所部分に鉄を仕込んだもの。
スタジアで買ったビギナー冒険者用の装備である。
それでも少し決めていた予算をオーバーしたが、動きやすそうだったのでよしとした。
さらにこの上にローブを羽織って、殴り僧侶の完成である。
「おはよう」
「うむ、おはようなのである」
エントランスへ行くと、鉄男ことオールマンがソファに座って盾を磨いていた。
ちょうどいいから色々と聞いてみる。
「なあ鉄男。この辺でレベルが低くても行ける狩場ってあるのか?」
「狩場という概念は無いのであるが、王都の近くに間引きの森というのがあるのである」
「物騒だな。適度に間引かれてるから安全ってことか?」
「この世界では多分どこにでもある、モンスターが自然発生してしまう森のことである。元々は別の地名が付いていたのであるが、狩っても狩ってもモンスターが出現するので、危険にならないように定期的に人が入るようになって、そんな名前の森になってしまったのである。国がお金を出して間引き依頼し出しているので、低ランクの冒険家はそこでレベルを上げるがセオリーになっているのである」
「へえー」
なんとも丁度いいようにあしらえられた狩場だと思った。
強いモンスターもたまに出現する危険性があるのだというが、基本的には流れのゴブリンとかでは無く、虫だったり小動物がモンスター化してしまったものが多いので、適正レベルは低いとのこと。
「冒険者となった駆け出しは、そこでモンスターの間引き報酬を得るのである。そこまで大きな額を出していないが、基本的に依頼自体は毎日出ているものなので、冒険者業の生活保護みたいなものである」
「なるほどな。よし、なら今日はそこに向かってみようかな」
今日の行動方針がなんと無く決まったところで、犬がトコトコ歩いてきた。
「おはようユウ、鉄男。なんの話をしていたんだい?」
ウィンストンだ。
犬のくせに、パジャマっぽいものを着て、ナイトキャップをかぶっている。
「レベル上げと資金稼ぎを念頭にやっていこうと思ってたから、その相談をしてたんだよ」
「相談を受けたのである」
「あーなるほどね。家賃は別にいらないけど、その他諸々の生活費は自分で稼いでもらわないとダメだしね」
そうなのだ。
昨日はみんなのおごりみたいなものだが、基本的に生きていくにはお金がかかる。
働いたことはないけど、ゲーム内では狩りでお金を得てきていた。
この世界も冒険者ギルドってのがあって、狩りしてお金がもらえるようで本当に何よりである。
アビリティを使えば他にも色々と便利な使い方ができるかもしれない。
だが、まずはレベル上げの方が重要だからな。
「でもあれ? 狩りメインで稼ぐって言ってたけど、結局メイン職業は助祭だねユウ?」
ナチュラルに俺のメイン職業を見たウィンストンがニヤニヤしながら言った。
「ヒーラーを引き受けたってことだろうけど。マリアナは弓使いだし、まずはメンバーを集めることから始めないといけないのかな? じゃないとマリアナに狩りを任せた完全にヒモ男だね。ぷーくすくす」
「ああ、これには理由があるんだよ」
この際ヒモ男という侮辱には目をつぶり、左手からアビリティを出現させて説明する。
「MP消費で防御系のアビリティだから、サポートもできて、前衛も張れるって意味でメイン助祭でサブ戦士にしたんだよ」
「へえ! それがユウのアビリティなんだ!」
生み出した光の壁に、ウィンストンが興味津々になる。
「お前らだからちょろっとネタばらしするけど……これ、割と自由度が高くてね」
「おおおー! おおおー!!」
ウィンストンをすくい上げてフワフワ浮かせる。
そしてそのまま透過設定で落とした。
「げぺっ!?」
「こんな感じかな」
「な、なるほど……任意で防ぐか防がないか決めれるんだ。だったらマリアナは弓で相性がいいってことになるね」
「だろ?」
「だったら……せっかく助祭なんだから、あそこに言ってみたらいいんじゃないかな?」
ニヤリと笑うウィンストン。
それにオールマンも反応する。
「ふむ、あそこであるか……」
「ちょっと危険な狩場だけど、ユウのアビリティを使えば、わりかし楽に狩れてレベルも上がりやすい狩場があるんだよ。一攫千金も狙えてちょーお得な、カ・リ・バ」
やっと外へwwww