3 - 歓迎会
■聖王首都ビクトリア/とあるアパート/助祭:ユウ=フォーワード
風呂を上がった俺とマリアナは、そのまま食堂へと呼ばれた。
アパートの一階部分は部屋ではなく、エントランス、風呂、食堂、その他のような作りになっているらしい。
その他が気になるが、それはまたあとだ。
風呂に入る前にも感じていたあの美味しそうな匂いの正体が知りたい。
──パン、パンパンパンッ!
入ると、クラッカーの弾ける音が響いた。
昔ゲームをやっていたみんなが笑顔で歓迎してくれていた。
「お久しぶりですねユウ」
と、ニコニコとした笑顔とのエリック。
「俺はもう会っていたが、改めて、久しく嬉しいぞユウ」
仏頂面でそういうのはジハード。
「うむ。昔のパーティメンバーがこうして揃って、万感の思いである」
傷だらけの筋骨隆々のスキンヘッド男の名前は鉄男。
鉄男はあだ名で、プレイヤーネームはオールマン。
何故鉄男かというと、実は鋼鉄でできてる人造人間キャラメイクだからだ。
防御系の最上位唯一職【鉄神】を務めるウルトラタンクとディフェンダー役だった。
「久しぶりでござるよユウ=フォーワード殿!」
次に喋ったのはゼンジロー。
度が過ぎた忍者ロール廃人。
昔の職業は隠密系唯一職【幻影】だったかな。
パーティ内の役どころはサポーター、アタッカー、回避盾って感じ。
当然こっちの世界でも忍者服を着ているようだった。
「僕はクラッカー鳴らせないけど、とりあえず祝いの遠吠えでもしようかな、わおーん!」
そして高く作られた子供用の椅子に座る犬はウィンストン。
前タイトルでは獣アバターでプレイする変わり者。
どうやらこの世界には犬のままで連れてこられたようだな。
役どころは、タンク、アタッカー、サポーター。
ちなみに鉄男と同じような改造タイプで、自身も色んなアイテムを作り出して改造して、武装して戦うスタイルだった。
うちらのパーティは基本的にレイドボスでもソロ狩り余裕。
一人で何役もこなせるが、強いて言えばの役どころである。
当然ながらジハードと俺はウルトラアタッカー。
とにかく火力火力火力の攻撃の要である。
エリックはヒーラーとディフェンダーとアタッカーを兼任する。
【教皇】という攻撃しても自動で回復する便利なパッシブ持ちで、さらにその自己回復に任せて前線で巨大な究極クラスの十字架を振り回す物理ヒーラーなのである。
そら、ラスボスもソロで倒しきるほどのポテンシャルは秘めているんだよな。
こっちの世界にアイテム持ち越ししてるとしたら、最初はかなりイージーだったんじゃないだろうか。
だって、俺はマリアナを選んだけど、こいつらは激レア装備とか選んでるだろうし。
「し、師匠……お久しぶりです。あえて嬉しい……です」
顔を真っ赤にして、ツクモも再会を祝ってくれた。
おそらく風呂場での唐突な再会を思い出しているのだろう。
いやあ、すまないことをしたと思う。
だから何も言わないでおくことにした。
お互い忘れた方がいいのさ。
「うん……みんな……久しぶりだな……」
なんか、感慨深い気持ちになってしまった。
そうだよな。
だって、6ヶ月……半年ぶりの再会なんだ。
てっきりみんなラスボス倒してやめたって思ってた。
だから、本当に会えて嬉しいんだ。
涙が出そうな気もしたが、頑張って耐えてるんだ。
「私のことも多分ご存知だと思います。マスターの元アンドロイド、マリアナです。今は普通のプレイヤー側の体を得て、マスターの伴侶、マリアナ=フォーワードとして側にいます」
マリアナが俺の隣でぺこりと頭を下げて丁寧な挨拶をした。
それに、ウィンストンが突っつく。
「なるほどねえ? ユウは彼女をこっちの世界に連れて行くことを選んだんだ?」
「そう、ソロ討伐達成報酬は〈エクストラエディション〉っていう、なんでも二つアイテムを持ち越せる特典だった」
「でも、何故マリアナでござる? ユウ殿であればもっと特別なアイテムも選べたでござるよ?」
「我輩もそう思うのである。どうしてであるか?」
首をかしげるゼンジローとオールマン。
「ああ、まあ……なんだ……一人残して別ゲーに行けないだろ?」
情が移ったとも言える。
もしレアアイテムを持ってこっちの世界に来ていれば。
あんな盗賊の一人や二人なんぞ、どうにでもなった気がした。
それこそまさにチートだ。
だけど、そうじゃないよな。
マリアナがいてくれて、俺は助かる。
いや、大変な時もあったけど、結局彼女が隣で変なことを呟いてくれるだけで救われていたというか、まあ……楽しかったのは事実なんだ。
「ふふ、ユウらしいですね」
エリックが笑顔のままでそういってくれた。
「そうでござるね。ユウ殿らしい決断でござる」
「うむ。ユウらしいのである」
ゼンジローとオールマンもそういってくれる。
隣でマリアナがホッとしていた。
受け入れてもらえないとか、心の中では思っていたのかも。
そんなはずない。
ここにいる面子はしがないプレイヤーだし。
リアルもなにも聞いたことないし知らないけど。
それでも長い間一緒にプレイしたいわば家族みたいなもんだ。
マリアナも、俺の家族だって今では思っている。
情が移ってるんよ、情が。
他に言葉は知らん。
とりあえず情が移ったってことで無理やり納得させる。
「ちなみにやったの?」
「──ブッ!? んなわけあるか!!」
俺と同じように何故かツクモも吹き出していた。
「でもマリアナはそうじゃないでしょ?」
「さすが制作主様。日々悶々としております」
「だよね? だよね? だって僕が心臓をデザインしたんだから! 気になるのはAIがこの世界に来てどうなったかって感じかなあ? ねえマリアナ、今度体を調べさ──ぷぎゅっ!」
とりあえずウィンストンの元に近づいて首を絞める。
そして地面に叩きつけた。
ふふふ、レベル差があるのだから、俺がどんだけボコボコにしてもこいつはあれだろ、ピンピンしてるだろうどうせ。
「積年の恨みを晴らすぜウィンストン。この世界に来て……この世界に来て……なんどお前をぼっこぼこにしてやろうと思ったか!! このクソ犬がー!」
「ちょ! せっかく再会したのにいきなりバイオレンス過ぎるっ!? 動物虐待! 訴えてやる!」
「うるせーエセ犬! どうせ中身生体金属だろ!」
「ちょっとみんな今歓迎会だよ!? 主役のこんな暴行行為を許していいのかな!? ちょ、確かにユウのレベルは低くてHPもそんなに減らないけど痛いもんは痛いんだってば!! 止めてよマリアナ! 作った僕の管理権限!!
「うーん、前の体だったらそうなっていたかもしれませんが、今はただのAIが基盤にある自我ですから。そういうシステムちっくなものはもう存在し得ません。マスターの気が晴れるなら、どうぞお好きにとしか……」
「んな殺生な!? ぎゃー!!」
それからしばらくウィンストンをボコボコにして、すっきりとした俺はようやく作られた食事にありついた。
オードブルのように豪華に飾られた食事は、アパートを管理してくれているこの世界の人が作ってくれたらしい。
今度会った時に美味しかったと一言お礼をいっておこうと思う。
「おらー! 飲むでござる飲むでござる!」
「漢オールマン、ここで漢気の一気飲みを見せるである」
「みなさん、二日酔いになっても私は直しませんからね」
「鉄男。俺と樽勝負するか?」
飯を食べていたらいつの間にか酒盛りが始まっていた。
テーブルの上に立ったゼンジローが音頭を取り、オールマンとジハードが樽を抱えて勝負をする。
そんな様子を笑って見ていると、ジハードに腕を引かれた。
「お前も混ざれ」
「はあ!? 待て、酒は飲んでも飲まれるな! だろ!」
「つれないであるなユウ。せっかくの再会。盛り上がらずしてどうするのであるか?」
「そうでござるよー! ユウ殿のイイトコ見て見たーい!」
「ほお、これが俗にいうパリピノリという奴ですね」
「お前ら全員リアルとは全くかけ離れた廃人どもだろ! ちょ、マリアナなんで背中を押した!?」
「介抱はします。いや、むしろ介抱したいので大人しく酒に飲まれてください。酒の勢いで夜は──」
「──言わせねーよ! ええいままよ!」
流石に樽ごとは無理なので、俺はいつのまにか準備されたコップに入れられたワインみたいなお酒をどんどんのみ、そして何杯飲んだかもわからないところで、記憶を失った。
酔い潰れる間際。
マリアナの妙にニヤつく顔だけは頭に残っている。
こうして……。
俺はついに旧友達との再会を果たしたのであった。