2 - 風呂回
■聖王首都ビクトリア/とあるアパート/助祭:ユウ=フォーワード
ジハードに連れられてみんなの住むアパートへ。
三階建のアパートは大通りからちょっとそれた脇道の方に存在し、綺麗に首都の街並みに溶け込んでいる。
階段を三段ほど上がって豪華なドアを開けて中へ入ると……。
「あれ? 誰もいない」
エントランスにソファが置かれ、誰かが何かを食べたようなあとがあるが、人の気配はなかった。
「本当だな。まあみんな出てるのかもしれないし、ここにいればいつかは揃うぞ」
「そうなのか」
これ幸いだな、お風呂が借りられないか聞いてみる。
「ジハード、風呂を借りてもいいか?」
風呂があると聞けば、入りたくなるのは人間の、いや日本人の性だろう。
無ければないで別にいいのだが、あるなら入りたいと思った。
「いいぞ。まっすぐいって奥に暖簾があるはずだ。湯は常に張ってあるしタオルも置いてある」
「至れり尽くせりだなー……つーか暖簾って……まったくファンタジーにそぐってないな……」
「ウィンストンの趣味だから知らん」
ジハードはそれだけ言うとソファに腰を下ろして寝始める。
さてと、
「マリアナから先に入れよ」
「いえいえ、マスターがお先に」
「……謙遜するなよ」
「いえいえ」
「……お前、後から入ってきたりするパターンじゃないだろうな?」
「入らなくとも残り湯をば」
「変態か! まあいいや、先に入るぞ」
譲り合いを繰り広げると、いつまでたっても風呂に入れない気がしたので俺が先に入ることにした。
ため息をつきながらエントランスを奥へ行く。
途中で厨房らしき部屋からいい匂いがしたが、誰かいるのだろうか。
「いい匂いがするが、とりあえず先に風呂だ。風呂風呂!」
そういいながら暖簾をくぐり脱衣所で服を全て脱いでガラッと扉を開ける。
モワッとした湯気が立ち上り、なんだか日本に戻ってきたような気がした。
銭湯ってこんな感じだったっけな。
「すげぇなあ……」
そう思いながら、タオルを肩に担いで無駄にでかい風呂に入ると。
「っ」
誰かがいた。
身長は俺よりも低い、160くらいか。
それでいて、男よりも明らかに細く。
そしてしなやかな体つき。
肩で揃えられた栗色の髪の毛。
湯煙の中から徐々に姿を現したのは、かつて俺の弟子であったツクモ=ミコトであった。
「……え?」
空気が止まる。
なぜか知らんが、お互い素っ裸で見つめあっていた。
変な空気が流れていた。
そして、
「し、ししし師匠!?」
素っ裸のツクモが慌ててタオルで体を隠して湯船に浸かる。
「ええー! なんで入ってるの!?」
「いやだって、そろそろ着くって言われてたから、綺麗にしとこうと……って前! 前隠して!」
「あっ」
全開だった。
まあ、そんなに素晴らしいものではないが、そこそこだと信じている。
だが、体裁的に見せびらかしたままなのは変態なのでタオルでとりあえず隠した。
「ご、ごめん!」
「い、いやその……まさか到着して初っ端から風呂だなんて……あ、でも私たちも最初はそんな感じだったし……」
なんだかブツブツ呟いているので、とりあえず出て行くことにする。
流石に一緒に入るのはNGだろう。
「あっ! まっ」
ザバァとツクモが立ち上がった瞬間。
俺の目の前の扉がガラッと空いて、誰か入ってきた。
「ん? どうしたんですか? まさかもう入り終わったんですか?」
マリアナだった。
「………………は?」
「は?」
は。を被せんなよ。
つーか、
「なんで入ってきてんだよ早速!!」
「まあまあ隠すところ隠してるわけですし、良いじゃないですか」
「上も隠せよ!」
マリアナさん。
俺と同じようにしただけタオル縛って隠してるだけある。
だからできるだけ視線を下にしないように顔だけ見ていた。
「上は規制には引っかからないんですよ?」
「一般常識!!!!」
くそっ!!!
もう風呂に入るどころじゃない。
一旦出て、部屋にもついてるという風呂を使うか。
そう思った時、
「な、な、な、なああああ!!!!」
次はツクモが叫んでいた。
風呂場で反響してすごくうるさかった。
もうしっちゃかめっちゃかになってきたぞ。
「なんであんたがいるの!?」
「ん? あんたとは?」
「あんた! あんたよ!!!」
ツクモも下にだけタオルを巻きつけて、ズカズカとマリアナに詰め寄っていく。
小ぶりと大ぶりの全面戦争だあ!
「私ですか? そういえばお久しぶりですね絶壁」
「絶ッ!? 絶壁じゃない! Bはある!」
「B地区なんて男性にもついてるし、ちょっと胸筋鍛えた男性なんかもっとあるんじゃ?」
「比べるな!!!! うっ」
ツクモはマリアナのデカメロンを見て狼狽える。
それを見てマリアナはさらに「勝った」と言わんばかりの表情をしていた。
「勝った」
あ、実際に言いやがったこいつ。
「ぬわああああ!! つーかなんでここにいるんだこの変態アンドロイドめえええ! こうしてやるこうしてやる!」
「わっ! 流石にいきなり鷲掴みはやめてください! まだマスターにも揉まれたことないのに!」
「つーかマジでなんでこんなところにいるの! 持ち越しアイテム一つだろ普通!」
「ふふん、残念ですが、マスターは私とまだ冒険したいからと、アンドロイドアバターと心臓をこの世界に持ってきてくれました。そして私はリアルボディを得て、名前もマリアナ=フォーワードとしてもう世界に認められた夫婦なんです。諦めて、どうぞ」
「な、な……くっそおおおオオオオ!!」
そう言いながら出ていくツクモ。
もう、はばかってすらいない。
女の子ってもっとこう人目をはばかるというか……人目をはばかれよ……。
「ふっ、またしても勝ってしまったようですね。まあ、アンドロイド制限がなければあのような小娘なんぞ、私のボディには太刀打ちできないのです。ねえマスター」
「あ、うん」
そういえばマリアナを得てから、ヘルメアとマリアナの罵り合いみたいなことが、こいつら──ツクモとマリアナ──の間でもよく勃発していたな……なんて事を思い出しながら、俺は上を向いた。
……鼻血が出ていたからだ。
止め方ってこれだったっけ……なんか違うような……。
でも直視できないからこれでええんや。
この後、なし崩し的にマリアナに背中を流された。
俺はされるがままだった。