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廃人ゲーマーとラスボス後の世界  作者: tera
第二章 - 廃人と聖職者
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プロローグ = うわさ話

■聖王首都/地下聖堂/神聖騎士団所属記録官:オルソン・クレリック


 ──コンコン。


 執務室で日報を書いていると、正面の扉がノックされた。

 手を止めて言葉を返す。


「どうぞ」


「失礼します」


 入って来たのは神聖騎士団の紋が入った鎧を身につけた一人の男性。


「オルソン殿、ご報告がございます」


「……どうされました?」


 オルソン・クレリックは神聖騎士団所属の記録官。

 聖教での階級は修道司祭。

 元は地方都市の教会または修道院にて、修道女を束ねる立場の女性司祭であるが、今はとある事情によって聖王首都ビクトリアの外れにある〈地下聖堂〉の記録官として勤務する。

 立場以外のメイン職業は【聖術師プリースト】。


「〈階層墓地〉の第五階層にて、冒険者の死体を発見しました」


「別に珍しくもないですが」


 興味なさそうにオルソンは再び日報を書く手を動かした。


 地下聖堂のさらに下に存在する古代迷宮ダンジョン──〈階層墓地〉。

 レベルを上げるためや、偶発的に見つかる財宝を目的とした冒険者が連日出入りする場所。


 危険な領域ゆえに、迷宮内へと入るためには許可がいる。

 それを冒険者ギルドに委任して、弱い駆け出しの冒険者が入ってしまうことを防いでいるのだが、中堅冒険者でも注意や判断を怠れば容易に死ぬ。


 というか。

 毎日大怪我もしくは人知れず命を落とすパーティはいるのだ。


(どこにそんな魅力があるのでしょう……やっぱりお宝が好きなのでしょうかね)


 修道女出のオルソンは、比較的自由な聖教の中でもわりと厳しめな修道院にいたので、欲深くなることを禁じられて来た。

 だから、一攫千金を夢見て迷宮へと向かう冒険家の思考回路が、あまり理解できていなかった。


 勤務初日は命を落とす報告を聞いて「ああ、神よ」なんて感傷に浸ったけど。

 聖教は民の自由を守り、そして団結するために存在するもの。

 神敵から人を守ることもその使命のうちに入るのだが、自ら欲深く死地へ赴く人を止めることはできない。

 それも、自由の範疇である。

 勤務しているうちには、特に感情を抱くこともなくなった。


 ある意味。

 この〈地下聖堂〉勤務は閑職なのかもしれない、とオルソンは思っている。

 聖王首都に存在し、給金もそこそこ良い。

 勤務条件はかなりいい部類……なのだが、何かあった時、まず死ぬのは自分達だからだ。


「それが……」


 と、目の前の男は困ったような表情で話し出す。


「中にいる屍狼に食い散らかされた後があったんですが……またあの、首なし死体なものでして……」


「……首なし。またですか」


 オルソンはため息をつく。

 せっかく早めに日報を書き終えようとしていたのに、色々と書く内容が増えてしまった。


「今月で3件目になります」


「そうですねえ……ここ3ヶ月の合計で言えば被害件数は7件。被害者数で言えばもう30人を超えますね」


 死後。

 モンスターに食い荒らされる、なんてことは冒険者にはよくあることだ。


 それでも、基本的にどこの国も迷宮内部は自己責任。

 その理由は、迷宮は外の世界には干渉しないが、内部に、その領域に入ってきたものには容赦なく牙を向くからである。


 目の前の男が報告するような首無し死体。

 死霊系のモンスターが数多く潜む〈階層墓地〉であれば、別に珍しくはない。

 強い怨念がモンスターとなる。

 そんな理由から、モンスターとなったあと人の首を狙う、なんてことはあり得る話だった。


 とはいえ。

 それが断続的に続いているようならば……自己責任の世界とは言えども、聖教は動かざるを得ない。


「はあ……」


 大きなため息が出る。

 正直言えば面倒だった。


 上層部に報告を上げ、冒険者ギルドからは調査用の冒険者を派遣してもらったり、可能な限り騎士隊での改装巡回に当てているのだが……その首切り殺人犯の足取りはつかめずにいたりする。


(なんで私が謎解きみたいなことをしなければいけないのでしょう)


 いっそのこと、迷宮への侵入を一律禁止にしてしまえばいい。

 オルソンはそう思うのだが……わざわざお金を払ってまで迷宮に潜る冒険者がいるのでそうもいかないのだ。


 迷宮内部は自己責任。

 干渉する必要性を感じ得ないのだが、もしそれが愉快な殺人犯だとしたら防ぐべきなのである。

 だけど、


(いっそのこととんでもない被害があれば、一律禁止にできるのに)


 次は聞こえないように心の中でため息をつきながらオルソンは日報に報告にあった被害を書き連ねて行く。

 そんな中、目の前の男が言った。


「やっぱり……あの噂話は本当だったんでしょうか?」


「噂話? なんでしょうか?」


「オルソン殿は、ここ最近地下聖堂にこもりっぱなしでしたから、知らないのでしょう」


「そうですね」


 一応近場に借りている部屋はあるのだが、結局往復が面倒臭くなり執務室のほぼ八割オルソンの私室のような形になっている。

 まあ、そんなことはさておいて、とオルソンは先ほど男が言った噂話に耳を傾ける。


「それで、噂とは?」


「ええ、死神を見た。と迷宮探索を請け負う冒険者達が口々にしているそうで……」


「死神?」


「はい。教会の古い資料にも書かれている墓地の固有種……彷徨う死神デス・リーパーではないかと……」


「うーん……馬鹿馬鹿しいですね」


 〈階層墓地〉には、様々なモンスターがいる。

 その中でも、彷徨う死神デス・リーパーはまた特別なモンスターだった。


 命を刈り取る、死神。

 中層以降を彷徨う、死なないモンスター。

 それはまさに伝説クラスなのだが、まだ誰も見たことがないただの噂話なのである。


 そもそも、


「そんな厄介なモンスターが、第五階層に出没する訳ありません」


「ですが……不審な死体が複数回見つかってから、迷宮に潜る許可を取った冒険者はリストアップしていますし、その出入りもしっかり見張りながら見回りも行なっています」


 モンスターではない、という可能性を考慮して。

 上層部から指示された通りに網を張っているのに、未だ捕まらないのはもうそれしか考えられないと、目の前の男は口にする。


「だったら尚更ギルドの仕事ではないですか?」


「まあ、そうですが……」


 被害が大勢いると言っても、まだ教会所属の者に手を出されているわけでもないのだ。


「私たちも今後調査は進めていきます。でも、結局それがなんなのかがわからない限り、【聖騎士クルセイダー】を呼ぶわけにはいきませんよ……まず、許可が下りないと思いますし……」


「そんなもんですか」


「そんなもんなんです。外界のモンスターが活発化しているならば、近隣の人々に被害が出る恐れが明らかに強いですが、迷宮では話が変わってきます。何が起こるかわからないんですよ」


「だったら死神がいてもおかしくないですね」


「ぐ」


 少しだけやり返されて、日報に書いていた時が乱れた。


「私たちの職務は、もしそれが聖王首都を脅かす快楽殺人者だった時のために動くことです。噂の死神ならそれで結構。管轄は冒険者ですから、今度とも出入りする冒険者達の監視を行うだけでいいです」


 むしろ、見回りもいらないとさえオルソンは思っていた。

 見回りでなんか発生して報告が遅れると、それがオルソンの勤務時間にも密接に関わってくるからである。

 今だって、結局そんなこんなで執務室を私室にする羽目になっているのだ。

 彼女は思う、こうなっているのは決して自分自身がズボラだからではないと。


「はあ……報告は以上ですか?」


「そうですね。それ以外は相変わらずです。だいたい許可した冒険者の確認は取れていますし、漏らしもありません。逆に言えばそれがあるから死亡した冒険者の判別が楽なのですが……皮肉なことに」


「はいはい、地下なんですからこれ以上暗い話題にしないでください」


 面倒な話が続くと思ったオルソンは手をパンパンと叩いて話題を変える。


「とりあえず夕食をとりたいので持ってきていただけますか?」


「それくらい自分で……というよりも。オルソン殿、たまには外に食べに行かれた方がいいですよ?」


「私もそうしたいんですけどねえ」


「結局何日引き籠もってるんですか……ちょっとこの部屋臭うのでシャワーくらいは浴びてください」


「ッ!? そ、そんなに匂いますかね!?」


 自分の服をくんくんと臭うオルソンに、目の前の男は言った。


「噂話がもう一つあって、執務室に報告に行くとなんだかモワァッとした匂いが立ち込めてるとかなんとか。おかげで私が毎回くる羽目になっているんですが」


「くっ! 換気扇の調子が悪いんですよ! 急いで消臭剤を買ってきてください早く!」


「まあ地下なので換気扇が聞き辛いってのもありますけど……それでも流石に……そもそも消臭剤でこの匂いが解消されるかされないかは……お察しといいますか」


「うるさいですよ!」


 その後、めちゃくちゃ体を洗った。

 ちなみに、オルソンは約1ヶ月ぶりのお風呂だったとか。










毎日更新そろそろ辛いので、ちょくちょく落ち着きます。

(書き溜めはあるんですけども)

更新は続きますので、お楽しみくだされば……と!


あとランキングも落ち着いたんでタイトルこれにしときます。

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