プロローグ = とある考古学者の話
■とある考古学者の話
──古代迷宮。
それは遥か昔からその地に存在している未踏域の事。
独自の生態系と他とは格別された様々な気候。
危険な未踏域だというのに、それは人々を魅了する。
まるで、挑戦せよとばかりに。
迷宮内にしか存在したいアイテム、希少素材。
そしてそれを守る強大なモンスター。
誰が、いったいなんのために作ったのかはわからない。
だが、迷宮が人々に大きな富をもたらすのは確かだった。
現在存在する古代迷宮は六つ。
〈王冠〉を有する主要六カ国の領内に存在する。
聖王国『ビクトリア』の地下聖堂の下に深く広がる〈階層墓地〉。
軍事帝国『ゾルディア』の最北端に荘厳にそびえる〈断崖凍土〉。
海洋国『ローロイズ』の荒海を超えた向こう側にある〈極彩諸島〉。
砂漠商群『ウィズラビア』の流砂の道を超えた先にある〈巨大遺跡〉。
自然国家『万里』のほぼ半分を占める大森林〈未踏森域〉。
武将国家『千國』の首都から見える美しい山〈不治三怪〉。
考古学者である私は、比較的難易度の低い“階層墓地”によく出入りしている。
他の五カ国は迷宮の内部へと侵入するに至って、厳しい気候が敵となり。
さらにそこを徘徊する凶悪なモンスターと戦わなければならないからだ。
六王の持つ〈王冠〉。
彼らの領地に存在する〈古代迷宮〉。
断定はできないが、必ず何かしらのつながりがあると踏んでいる。
一つの迷宮を調べていけば、芋づる式に他の迷宮の謎も解明することができるのではないかと思っている。
机上の空論とも言える考え方だが、いつかは証明して見せたい。
まさに私も迷宮の魅力に取り憑かれた一人であるようだ。
今から1年前。
特別な加護を持つ〈異人〉が世界に現れた。
彼らの協力を得られれば、迷宮解明も夢ではないと確信している。
成し遂げよう。
これは人類の使命とも言える。
私個人としても、世界の謎を解き明かすのは使命。
職業病なのだ。
ただ、迷宮に魅了されてそれにただ拍車がかかっただけなのだ。
……ゴホン、話が逸れてしまったようだ。
蓋を開けて出てくるもの。
それは幸福か絶望か。
富か厄災かはわからない。
だが、わからないままにしておくことこそ。
大いなる知恵を持つ人の罪であるとは思わないだろうか?
蓋を開けて、考えればいいのだよ。
重要なのはそれが何かをはっきりさせることなのだから──




