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廃人ゲーマーとラスボス後の世界  作者: tera
幕間 - 寄り道
39/53

5 - 第二王女リーチェ

■聖王国領/北方都市スタジア/助祭:ユウ=フォーワード


 いわゆるフルプレートメイルと呼ばれる全身甲冑を身につけた人が、ガラの悪い男達を蹴散らした。

 腹を貫かれた男はおそらく即死、そしてもう一人の男も後頭部がひしゃげている。

 これも即死だ。

 一気にスプラッターな絵面になった。


「ご無事ですかリーチェ様!」


 甲冑の人はそう言いながら自分のつけていた兜を外す。

 すると、キリッとした顔が特徴帝なえらい美人さんがいた。

 編み込みを後ろでまとめられ、兜の中にしまわれていた金髪は日の光を浴びて輝いている。


「カトレアなのじゃ! 無事なのじゃー!」


「リーチェ様! ……むっ、まだ生きていたのか変質者め!」


「──え!?」


 マジで狙ってたのか!?


「あ、やっぱりマスターのこともまとめて狙ってたんですね」


 マリアナは職業効果とアビリティを用いて、俺もろとも叩き潰すために槍を投げていたことに気づいていたらしい。

 気づいていたなら、教えてくれよ。

 っていうかフォローしてくれよ。


「王族に狼藉を働いたことは極刑だ!」


「ちょ!」


「む!? なんですかこの光の壁。《障壁》……にしてはやけに頑丈な」


「いや違うから! まって! 俺は怪しいものではない!」


「白昼堂々と下着一枚で何を言い逃れるか!」


 確かに、言い返せる言葉が見つからなかった。

 そこへ、マリアナとリーチェが助け舟に出てくれる。


「待つのじゃカトレア、その者はわれを助けてくれた人なのじゃ!」


「そうです。マスターは確かに見た目は変質者ですが、童貞なので人前で裸になるほどの度量を兼ね備えてません」


「童貞だったら余計に危ないではないか!」


「……確かに。内に秘めたものを解放してしまったんですね」


「納得すな! なんで説明しに言って逆にのまれてんだよ!」


 だが、その後改めてリーチェとマリアナが説明をしてくれたおかげで、俺の疑いは無事に晴れたのだった。


「そうとは知らず、早まった真似をしてすいませんでした」


「いや、いいよいいよ」


 頭を下げるカトレアに、そう返しながら死んだ男たちから服を回収して身につける。

 それよりも、


「……こいつら、殺してよかったのか?」


 街中で、意外とあっさり行われた殺人だよな。

 まあ、護衛という立場からすれば処刑という物なのかもしれないけど。


 それでも、なんだろう……。

 殺すまではしなくてよかったんじゃないかなって思う。


「リーチェ様は王族。それを追い回し、そして助けに入ってくださった貴方達にまでも手をかけようとしていました。実際に、スキルでものを奪っていましたし……罪は免れません。自己判断での処理をいたしました」


 後から来た他の騎士達に回収される死体を見ながら、冷たく言い放つカトレア。


 そういう物なのだろうか。

 でも確かに、立場上そうしなければならないのかもしれないな。

 この世界はモンスターだっている。

 元いた日本みたいに治安がすごくいいって場所でもないのだ。


 現に、それを証明するかのごとく。

 殺された男達を見て周りの人々は一気に恐怖に陥ったけど。

 鎧を身につけた集団が来た瞬間に安心したように元の日常に戻ったのだ。


 まあ俺目線では周りがふざけすぎてて、温度差が激しかったわけなのだが…。

 基本的に容赦ない世界だと思っておいた方がいいのだろうな。


「攫われそうになったところを助けてもらったのじゃ!」


 脳天気そうにそういうリーチェに、カトレアはため息をついてこう言った。


「リーチェ様。ご自由になさるのは止めません。でも、ある程度は節度を持った行動を心がけていただけると幸いです」


「むむー! 何が自由なのじゃー!」


「向かいたい場所がございましたら、言ってくだされば一緒にご同行させていただきます」


「われはスイーツを食べたかったのじゃ!」


「それはリチャード様とリリア様に止められておりましたので……」


「食べたいのじゃー!」


「ならば言いつけを守って歯磨きをしてください。その習慣ができるまで食べさせるなとご命令を受けいるのです」


「め、面倒くさいのじゃあ……」


 カトレアに言い含められたリーチェは、涙目になってすんすんしていた。


 要するに、この幼女は歯磨きを面倒くさがって甘いものを食べさせてもらえず、禁止命令をくらい。

 我慢できずに食べたくなって、隙をついてカトレアの元から抜け出し裏路地を通って俺らのいる喫茶店までやって来ていた、ということなのか。


 その間に大事なものを落としてしまうというファインプレー。

 なんというトラブルメイカー。

 つーか、歯磨きぐらいしろよ……。


 いや、俺もこっちに来て全くやってないけど。


「そういう雑貨類もあるなら、今のうちに買っとかないとな……」


「エチケットですね。もうネトゲの世界ではないのでネチケットではなく本物のエチケットです」


「あ、うん」


 そんなくだらん小ネタは置いといて。

 結局このリーチェは何者なのだろう?


「なあリーチェって……どこかの貴族……だったり……する?」


 結局なし崩し的に敬語すら使わずタメ口でバリバリ喋っていたので、今更ながら不敬罪になったらどうしようと思った。

 すると隣のカトレアが言った。


「貴族? 何を言っているんですか? リーチェ様はこの聖王国の第二王女でおられる故、恩人という状況でなければ不敬罪で即刻極刑にしていたところです」


「マジか……」


 王女様だったのか……。

 幼女で、われで、のじゃで、ツインテールで、王女。

 何でもかんでも詰め込んだらいいってもんじゃねえぞこれ。


「ぬわははー! よきにはからえ、よきにはからうのじゃー!」


 唖然とする俺たちに、リーチェは胸を張って調子に乗っていた。

 俺とマリアナはお互いの目を見て示しを合わせると、


「すいませんでしたリーチェ様。王女様とは知らずにご無礼を」


「大変申し訳ございませんでした。マスター共々平に謝り、そして今後はしっかり上下関係を意識した上での対応とさせていただきますので、どうぞ御寛大な判断を」


「ぬわ? ど、どうしたのじゃお主らいきなり」


「いえ、今まで散々無礼をしてきたかもしれませんし、すいませんでした」


「そうですね。私もクソガキと言ったことを謝罪いたします。すいませんでした」


「なぜそんなにかしこまる!? いきなりかしこまる!? ぬわー! やめて欲しいのじゃ!」


「立場があります」


「はい、私とマスターは平民ですから」


「ぬふぇ……うぐ、ひっく……」


 泣き出しそうになったところでそろそろからかうのをやめようかとも思うのだが……実際これってどうなんだろうね。

 国王のご息女ともなれば、立場は明らかに上である。

 もっともプレイヤーはそんなこと気にしないようなタイプもいるが、俺は基本そこんところの設定は大事にしていくタイプだ。


「まあ、さっきまでリーチェって呼び捨てだったけど……実際どうしたらいいんだ?」


「呼び捨てでいいのじゃ! よそよそしいのは好かん!」


「そっか……えっと……」


 一応カトレアさんの方も見て確認を取る。


「リーチェ様のいう通りにしていただけると幸いです。それ以外は極刑で」


「極刑て……」


 癖が強いな、この女騎士さんも。

 まあいいや。


「許可ももらえたし、これからもリーチェって呼ぶことにするよ」


「では、私はクソガキで」


「それは許可出しとらんのじゃ!!!」


 ぷーくすくすとリーチェを揶揄うマリアナ。

 楽しそうで何より。

 マリアナがふざけるのは基本的に信頼の証だろう。


「リーリャ様。せっかくできたご友人方とご歓談なさるのもいいのですが、そろそろお時間も近くなっておりますので」


「わかったのじゃあ」


 適当な頃合いを見て、カトレアが時計を見ながらそう言った。

 そういえばリーチェは視察と言っていたし、一国の王女なのだから、やんごとなき理由でここへ来ていたんだろう。


「またのう!」


「うん」


 カトレアに連れられ手を振るリーチェを見送った。




「……とんだおてんば姫様でしたね」


「そうだな」


 落とし物からそのまま誘拐事件に発展しそうな展開には、これがお約束ってやつかって具合にため息が出るな。

 だがなんにせよ、厄介な事件に発展しなくてよかったと思う。


「多分ジハードがこの場にいたら間違いなくこじれてた気がする」


「そうでしょうか? むしろ圧倒的戦力差でマスターみたいに無駄に時間稼ぎとか恥ずかしい目に合わなくて済んだと思いますけど……?」


「甘いなマリアナ。ジハードは有名なトラブルメーカーだ。奴に寄せられてもっと厄介な敵が来ていたはず」


 今の俺らは吹けば飛ぶような羽虫みたいなもんだ。

 だがジハードは闘技場の優勝者でさらに【戦聖】という二つなみたいなものまで広まっている。


 いくらここが現実だと言っても、ゲームみたいな世界観。

 そんな箱庭の中では、引き寄せられるように厄介ごとが舞い込んでくる。


「ジハードに関してはそう思っていて間違いはない」


 前タイトルの時から、それは確定事項なのだ。

 そう告げるとマリアナは、


「………………はあ、まあそう言うことにしておきますね」


 と、意味深な間を設けた後に、ため息をついてそう言っていた。


 なんだよそのジト目……。

 まるで俺もトラブルメーカーって言いたげな目だな。


「んなわけないない。とりあえず……装備買いに行くか」


 ジハードの言っていた時間までまだある。

 職を決めて、装備を整える予定ではあったのだが、その前にリーチェの落し物探しに付き合っていたので買えずじまいだったのだ。


「そうですね。ふう……ようやくデートの続き再開ですね」


「まあ、うん。装備買いに行ったり、道具屋とか、店を見回ったりするだけだけどなあ?」


「それをマスターの元いた現代日本ではウィンドウショッピングと言うのですよ。乙女が好む、立派なデートです」


「なるほどね」


 そう言う訳で、俺とマリアナは大通りを歩き、ジハードと約束していた時間まで、北方都市スタジアの町並みを見て回ったり、装備を整えに武器屋や道具屋、その他商店を巡ったり、途中で見つけた屋台で買い食いしてみたりして楽しい時間を過ごした。


 なんというか、思ったよりも楽しかった。





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