4 - お約束みたいな展開
■聖王国領/北方都市スタジア/助祭:ユウ=フォーワード
「おそいのじゃ」
「遅いですよ、マスター」
「ごめんごめん」
喫茶店を出て、早速リーチェの落とし物探しが始まるのだが。
その前に教会と冒険者ギルドによって転職を済ませてきた。
【助祭】をメインに指定し、【戦士】をサブに置く。
これで、戦う神父様の出来上がりとなる。
その時聞いたのだが、【助祭】の上位職は【司祭】。最上位は【枢機卿】とのこと。
上位派生として闇払い専門系の【祓魔師】や、回復専門の【聖術師】サブに騎士職があると【聖騎士】になれるそうだ。
漢字表記でなければ、エクソシスト、プリースト、クルセイドと言うらしい。
……聖騎士ルートいいかもね!
今は戦士持っているけど、ゆくゆくはそっちを目指して頑張ってみようじゃないか。
後、この聖職者系の職業は聖王国ビクトリアの教会群でしかつけない。
いわゆる特色職と言われるものらしい。
とくしょくしょくってすっごく言いづらいなこれ。
別名だとフィーチャージョブだってさ。
ってことは、他の国にもそれぞれの特色を持った職業があるのだろうか?
気になるところである。
「それで、探し物ってなんだ?」
「〈十字聖圏〉と言って、かなり希少で大事なものなのじゃ! ええと、大きさはこれくらいで、白銀色の綺麗な十字架のついたネックレスでのう……」
「随分と大層な名前だな……」
なんかのアイテムなのだろうか。
リーチェの言う様に、かなり貴重なものだとしたらなんでアイテムボックスに入れておかないんだろう。
プレイヤーと同じ様に、この世界の人もアイテムボックスとかステータス標準搭載だと言うのに。
「十字架のネックレスですね……? あっ、もしかしてあんな感じですか?」
マリアナが裏路地に入って行くガラの悪い奴らの手に、キラキラ光る高価そうなネックレスを持っているのを見つけた。
さすが狩人職、目がいいんだな。
「……お? あれじゃ、あれあれ! って言うかわれの落とし物はあれじゃよ!」
「と、言うことは時すでに誰かに拾われてしまったという状況ですか? 拾ったんだからと返してもらえない最悪な状況かもしれませんね」
「うわーん! 父上から肌に話さず持っておけと言われとったのにー! ちょっと返してもらってくる!」
「あっ、ちょっと!」
マリアナに煽られたリーチェは、俺の制止を待たずにてててっと人を避けて道を歩き、ガラの悪い男達に物怖じせずに喋りかけた。
「すまんのじゃ!」
「あん? 誰だお前?」
「なんだこのクソガキ?」
「クソガキとはなんじゃ! すまんが、そのネックレスはわれの大事なものなのじゃ。返してくれんかのう?」
そう言うとネックレスを持っていたヤンキーが首をかしげる。
「……ん? これ、本当にお前のか?」
「そうなのじゃ」
「マジかよ……」
「なんかめっちゃレアっぽいアイテムだから拾ったんだが……マジか」
何かに気づいたような顔をするヤンキー達。
その表情は、せっかく拾った物を返さなきゃいけないのかって感じの表情ではなかった。
「なんじゃ? 返してくれるのか? くれんのか? でも返してくれないと困るのじゃ」
「ああ、ごめんごめん。いいよ、返すよ……ほら」
「わあ! 見た目に反していいやつなんじゃのう! この街に視察に来て良き出会いに巡り会えたことに感謝じゃ!」
「そうかそうか……」
ネックレスを受け取ろうとリーチェが近づいた瞬間。
「まったく平和ボケした王族だな──」
男の手が彼女を掴む。
「──ッ!? ふ、ふわあ!? な、何するのじゃ!? 放すのじゃあ!」
そして裏路地に引き込みながら言った。
「残念だが王女様。俺たち見かけのまんまなんだぜ?」
「むぐーむぐー!」
リーチェの口元を押さえたまま、男は言う。
「じゃ、とりあえずここじゃちっと人目につくから早いところアジトに戻るか」
「だな。いやあ、まさかこんなところでターゲットが一人でのこのこ現れてくれるなんて、今日はついてるぜ」
「むぐー!」
「おら静かにしろよ。お転婆だって聞いてたけど、まさかこんなに危機管理もなってないとはな……まあ、自分で招いた種だってことで受け止めろよぉ、これも社会勉強──ッ!?」
そのままリーチェを駆け足で連れ去って行く男達だが、少し走った先で光の壁にぶつかった。
「な、なんだ!? 障壁!?」
「い、いったいどこから!?」
パニックに陥る男達に俺とマリアナは武器を構えて近づいて行く。
俺は剣帯に挿していたナイフで、マリアナは弓だ。
表通りの往来で武器を抜くのは憚られたが、裏路地ならばあまり人目はつかない。
俺たちも好都合だった。
「……まったく、なんとなくこうなるって思ったんだけど」
「そうですねマスター。見事なフラグ回収でしたね。ちなみに、いつの間にアビリティの展開距離が伸びたんですか?」
「いや、あれは【助祭】のスキルでただの《障壁》だよ」
メインジョブに【助祭】をおいて、MP量が多少増えたとしても拒絶の左手が生み出す光の壁の展開距離に変わりはない。
だから、遠くから《障壁》の展開をいつでもできるように構えていたのだった。
もしもリーチェが自ら言うように、位の高い人間だとすれば、こんな展開があり得ると思って。
「それにしても……白昼堂々いきなり幼女をさらうってバカか?」
「バカじゃなかったらこんなヤンキーみたいなことはやってないと思いますけど」
それもそうだな。
「なんだてめぇ! いきなりなんだ!」
「いきなり邪魔しに来てバカだのアホだの……キレちまったぜおい?」
熱り立つ男達。
アホとはいってないんだけどな、記憶の改竄してやがる。
とりあえず。
先に捕まっているリーチェの奪還から行う。
射程圏内。
男達の後ろに存在する《障壁》の中に紛れさせて光の壁を展開する。
そしてそこから男達とリーチェに向かってぶつけるように動かす。
「──しょ、《障壁》が動いたッ!?」
普通、展開した《障壁》は動かないようだ。
だから俺の光の壁を《障壁》と勘違いした男はビビって防御姿勢を取る。
掴んでいたリーチェの腕が放された。
その隙に、男は透過、リーチェは不透過。
「ぬわっ!」
「ほいキャッチ」
光の壁に弾かれたリーチェを受け止める。
少しびっくりさせたかもしれないが、光の壁にダメージ判定はないから便利だ。
「い、今のはなんじゃ……?」
「今はそれより……マリアナ!」
「はい」
弓を構えたマリアナが十字架のネックレスを握る男の腕を射た。
「ぎゃっ!」
よし、今度はネックレスを落としたな。
光の壁を小さく展開して、ネックレスを掠め取る。
いや、自由度が高すぎて便利だなやっぱり。
「ぬしたち……やるのう……まさにヒーローじゃ」
俺に抱きかかえられたリーチェは、服を握りしめてぽわーっと目を輝かせている。
……ヒーローか、そうだったらどれだけ良かったか。
「とりあえずネックレスと幼女の奪還には成功しましたが、次どうしますかヒーロー」
「決まってんだろ」
俺はそのまま表通りに駆け出した。
その後をマリアナも走ってついてくる。
「ああ、やっぱりそうなるんですね」
「当たり前だ!」
こういう悪役キャラは“仲間を呼ぶ”コマンドが使えたりするかもしれない。
それに、職業を変えたばかりで、俺のレベルは1。
マリアナのレベルもまだ4。
……相手に本気を出させたり、そういう展開になったらこっちが危ないと思った。
「逃げるのか? ヒーローなら戦うのじゃー!」
とりゃーうりゃーと俺に抱えられた状態で体を動かすリーチェ。
走りづらいからじっとしてて欲しいんだけど。
「必死に逃げるマスターに、残念なお知らせです」
「なに?」
一目散に駆けていると、俺の後ろでマリアナが言った。
「結局レベルが低いので余裕で追いつかれます」
「んなことわかってるよ!」
見た所ナイフを持っていることと、やっぱり俺よりも足が速いのでそっち系の職業持ちなのだろう。
ああいう輩がついている盗賊職とか、機動力(AGI)とか器用値(DEX)が高そうだからなあ。
「くそ、だから大通りの人がいるところに飛び出したんだけどなあ!」
あのバカどもはそんなことも関係なしに追いかけてくる。
普通、こういう状況になったら一旦引くだろ。
諦めるだろ。
「まあ、往来の場でいきなり裏路地に幼女を連れて行こうとするバカどもですからね」
マリアナがそういうと、どうやら聞こえていたようで。
「あー! またバカって言った! バカって言った!」
「てめええ! 許さねえ! バカって言ったことは絶対に許さねえからな!」
「「ぶっ殺してやる!」」
「目的変わってんじゃねえかよ!!!!」
絶対周りからもバカって言われてるだろ!
一応大通りに出たのはこういう状況で止めに入ってくれる人が、助けてくれる人がいないかと思ってのことであるが、どうやらいきなりの状況についていけてないようで、周りの人々は「え? なに? 喧嘩?」みたいな感じで見ている。
くそ、これもちょっと判断を見誤った。
「マリアナ、リーチェを連れてちょっと離れててくれ。一応後方から射撃できるようにしててくれ」
大通りで弓を構えるのはさすがにまずいかもしれないが、マリアナのアビリティ込みだったらその心配は薄いだろう。
「わかりました。でも、どうするんですか?」
「時間稼ぎだ」
走ってくる男達の前に、再びMPを消費して《障壁》を出す。
「へっ! 使えるって知ってんならよけれんだよ!」
「バカじゃね? 止まって振り返ったらそれ使うってわかんだろ!」
重ねて展開していた光の壁を大きく横に広げる。
今度は不透過だ。
すると、男達はぶつかって転んだ。
「二回も同じ手にかかるとかお前らこそバカだろ」
「て、てめぇ……」
「許さねえ……その手に持ったナイフのスキルか? 奪ってやるよ《スチール》!」
すると、俺のシャツが消えた。
「ちょ!?」
「チッ……失敗したか……」
「次は俺もやるぜ《スチール》!」
次は俺のズボンが消えた。
パンツいっちょに剣帯だけしてる。
どこかで「キャー」と悲鳴が聞こえた。
「こ、今度はマスターが変質者に!!」
「んなこと言ってる場合か!」
「なんじゃ、変質者の集まりみたいになっとるのう」
リーチェがそう告げると。
周りの人たちは「なんだそういういざこざか」と言った感じのニュアンスで、俺たちに注目するのをやめて掃けていった。
え、いや……俺は断じて違うんだけど。
つーか、見てただろスキルで俺の所持物が奪われるの!
「くそ、やっぱりそのナイフが怪しいぜ?」
「かもな」
何がかもな、だ。
あいつらのスキル、どう考えてもランダムで相手のもの奪うだけだろ?
つーか服返せよ!
一転して俺が丸腰になってしまった。
まあ、まだ装備を整えてないし、それに依存してるわけじゃないから別にいいんだけど。
さすがにこの状況は恥ずかしすぎる。
「……むむむ、今この瞬間を目に焼き付けておきましょう」
「そうなのか? そういうものなのかのう? ならわしも……むむむう」
「どこ凝視してんだ! やめろ! 今ふざけるな!」
股間に熱い視線を感じる。
だがそんな場合じゃないだろうに、こいつら!
シリアスしらねぇのか!
「まあいいや、とりあえずバカ呼ばわりされた分は仕返しさせてもらうぜえ?」
「へへへ、切り刻んでやるぜ、そのパンツの中身も切り刻んでやるで」
それは怖い。
怖すぎる。
だが、こうして騒ぎを起こしてるからこそ……。
俺には一つの勝機があった。
「やってみろよ」
「ダメです! まだ未使用なのに!」
「黙って! ねえ!」
なんで俺、前の敵と戦ってるのに後ろからの声にダメージ受けなきゃいけないの?
それに白昼堂々と未使用とかいうなよ。
目の前のバカどもも「マジかよ」「よしとくか?」みたいな感じになっていた。
まあいい、とりあえず時間は稼げた。
俺の勝機。
それはもしリーチェが誘拐されるほどの位を持った人物だと仮定するならば……だ。
彼女が撒いたといっていた護衛の人が、今頃必死で探しているはずなのである。
こうして騒ぎを起こせば、絶対そこに確認に来る。
そう踏んで、俺は適当に時間を稼いでいたのだ。
まあ、半分くらいはあいつらが勝手に喋ってただけだけど。
「チッ、とりあえず人目につくからやっちまうぜ」
「お──う、?」
バカどもがお互い言い合ったところで、後ろから一本の槍が一人の腹を貫いた。
「ッ!? お、おい!?」
いきなりのことに焦る男。
つーか、貫通した槍が勢いありすぎて俺にまで飛んできたんだが……?
とっさに光の壁でしのいだんだけど、俺狙ったとかじゃないよなこれ。
「へぶっ!?」
そしてすぐに。
その槍を投げた人物が重たい鎧を物ともせず高速で駆け抜けてきて、残った男の後頭部を殴りつけた。
「ご無事ですかリーチェ様!」
次で幕間ラストにしたい