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廃人ゲーマーとラスボス後の世界  作者: tera
第一章 - 旧友との再会
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エピローグ = 失敗報告

■砂漠の国/大オアシス首都


 聖王国領北方に存在する辺境の地で、一人の〈異人〉を獲得するためにあらゆる勢力が動き出して六日後のことであった。

 灼熱の地に存在する巨大なオアシスを中心に広がった都市にて、スーツ姿の優男といかにも盗賊が好みそうな服を身につけた左目に眼帯をした男がソファに座っている。


 スーツ姿の優男──覇王は、相変わらずニコニコとした表情で口を開く。


「何か、言い訳なんかはございますか?」


 だが、彼に近しい人たちは知っている。

 これは怒っている時の笑顔だと。


「ねえよ」


 盗賊姿の眼帯の男──リスキー=リードヘッジは、その問いかけに簡潔に答えた。

 あっけらかんとした様子に、覇王はため息をつく。


「はあ、リスキーさん。少しくらい言い訳を考えておきましょうね。体裁的に」


 だがそれをリスキーは鼻で笑う。

 いくら体裁を取り繕っても、驚異的な情報網を持つ覇王には言い訳なんか無用だと知っているからだ。


「体裁も何も……あの〈異人〉獲得は、はなっから無謀だったんだわ」


「そうですか?」


 すっとぼけているが、どうせどこぞから情報を仕入れていると仮定してリスキーは言う。


「まあ、失敗したけどお礼は言っておくぜ。まだ俺は諦めちゃいないが、十分仕返しはできたからな」


「別に私情に走ることは構わないのですが、それでもきっちり確保するのがプロのお仕事ですよ?」


「プロっつっても……あの【戦聖】が直接出張ってくるくらい、つながりの強い野郎だぜ? ま、いくらでも確保できた状況を、私情に走ってお釈迦にしちまったのは否定しねえけど」


 基本的にこの世界に〈異人〉として現れたプレイヤーは所属国家を決める上で何通りかの決め方をする。

 一番多いのが、近しい知り合いがいる国家だ。


 どうにもならずに、一回死んで転生した地で居を構えるプレイヤーも存在するが、大抵は集団でこの世界にくるので、みんなだいたいまとまってログイン地点から一番近い首都を目指し国家を選択する。


 リスキー達は複数のPKクランでレギオンを組んでラスボスを倒し、この世界にやってきた。

 その後、PK集団はいろいろあってそれぞれ他の国でプレイするという方向性で固まり、それぞれの集団で固まって各地へ。

 集団内で仲違いして、袂を分かったわけではないのだが、前のゲーム時代に存在していたそれぞれのシマを荒らさない暗黙の了解というのは、この世界に来ても有効だったようである。


 所属決めは、プレイヤーの自由だ。

 騙すか、脅すか、説得するかの三通りしか取ることができない。

 だから、何も知らないうちに上手く引き込むという手法をどの国家も行っている。


「それに、誰かが情報を中途半端に入れてやがった」


「リスキーさん達よりも先に接触した人がいるんでしょうね」


「傍迷惑な話だぜ。まあ穏便に済ませるっつっても盗賊から助けるクソヒーローみたいな真似事するくらいしか思い浮かばねえし、そんなもんは死んでも嫌なんだけどな」


「まあ、事情はわかりました。ちなみに、北方からは何かアクションはなかったんですか?」


「ねえな。向こうは向こうで誰かとやり合ってたが、俺はてっきりそれが聖王国所属の奴らだと思ってたくらいだ……って、そもそも覇王さんよお、その辺の情報はとっくに知ってるんじゃねえのか?」


 覇王を前にして凄むリスキー。

 だが覇王は涼しい顔で、


「いえ全く」


 と首を横に振っていた。


「ケッ、興が削がれたぜ」


 その様子を見て悪態をつくりスキーは、ソファから立ち上がり部屋から出て行こうとする。


「どちらへ行かれるんですか?」


「聖王国領だよ。盗賊団の持ちもんはあの辺の森ん中に隠してあっからな」


「それで、取り戻した後はどうされるんですか?」


「心配すんなよ。またあの辺の村から人さらって売り飛ばす仕事は続けるからよ」


 ついでに、リスキーは三日前に再会した一人の〈異人〉に粘着してやるつもりでもいた。

 やるならとことん、嫌がらせをしてやる。

 そして隙をついて次は勿体ぶらずに隣の女諸共殺すことにしていた。

 一旦所属されてしまえば、【死地】に追いやることは難しい。

 だが、別になんでもよかった。

 むしろ、何度でも殺して、あの時見せた絶望に何度でも染め上げてやるつもりだった。


「……その件ですが、もう顔も割れてますし一旦中止で」


「ああん? どういうことだよ」


「いえ、そもそも滞在犯して国を追われないだけマシだと思ってください。あなた達の失敗の責任を取るのが誰の役目がこ存じなんですか?」


「……チッ。ならどうしろってんだよ、俺たち全員路頭に迷えってか?」


「いえ──」


 覇王は笑顔のままでとんでもないことを言った。


「──いったん死んだことにしましょうか」


「……悪いが、処分されるつもりはまだねえよ」


 やや身にまとう雰囲気が変わる覇王。

 それを見てリスキーは眼帯を外し、すぐに自身のアビリティを使う準備を行う。


 “王冠持ち”に、たかが最上位職のスキルは通用しない。

 だがアビリティならまだ話は変わってくると思ったからだ。


「《痛過保リスクヘッジペ──》」


「おっと、そう構えないでください。本当に殺すつもりはありません。ただ、一度世間的には国を追われ、監獄行きになったことにしておくだけです。あなた達にはまだやっていただきたいことがありますしね」


「……何をすりゃいいんだよ」


「そうですね、とりあえず……スーツを着るお仕事です」


「それだけはごめん被るぜ! 嫌なこと思い出しちまう!」


 すぐに逃げようと扉の前に跳ぶリスキーであるが、目の前に覇王がいた。


「ダメです」


「ぐ」


 そして覇王らしく、とんでもない量のオーラのようなものを纏っている。


「や、優男が台無しだぜ……?」


「よく言われます。さて、とりあえず失敗した分は返してもらいませんと──ね?」






■黒煙の上がる帝国/凍てつく鉄の王座


 大陸北方、黒煙の上がる空。

 重厚な石材、鋼材を使って作り上げられた鋼鉄の城。


 その一番奥にある謁見の間。

 質の良い豪華な赤い絨毯。

 見る人が見れば唸りを上げるほど。

 各種調度品が揃えられた空間。


 だがそんな中でも一際異彩を放つのは、謁見の間を支える柱のように高く伸びた王座である。

 材質は石か、鉄か、それとも他の何かだろうか、独特の光沢を放っている。


 そんな王座に腰を下ろす豊かなヒゲを蓄えた男──皇帝が、荘厳な声で問うた。


「……で、どうなった?」


『皇帝。ソレヨリモ先ニ、コノ会話撮ッテモイイデスカ?』


「声だけなら許可しよう。記録を取るのは重要なことである」


 機械ちっくな音声で皇帝と会話するのは、黒い燕尾服を身につけた男。

 どこから発しているのかわからないが、機械音声よりもまずその男の容姿に誰もが目を奪われるだろう。


 人間の体に、一眼レフカメラの頭部。

 カメラのような、という言葉を使わなかったのは、本当にその男の頭がカメラだったからだ。


『感謝。──《●REC》』


 音声ならば構わんと、許可をもらった男は自分の頭についているスイッチをいじる。

 すると、ピピッ、と古めかしいカメラからは出ないような音が出る。


「もうよいか?」


『ハイ』


「では、簡潔に話せ」


『了解。──結論ヲ言エバ、確保ニ失敗シマシタ』


「ふむ、してその理由は?」


『ローロイズ所属ノ【戦魔】ニ、進行ヲ阻マレマシタ』


「ローロイズ……あの女狐めが……」


 観測された座標を考慮すれば〈異人〉の争奪戦は帝国か聖王国で行われるだろうと踏んでいた。

 いや、そもそも英雄王──皇帝からすればちんけなヒゲ──は〈異人〉にあまり興味がないような口ぶりで気取っていたようだったから、皇帝はたやすくかすめ取れるとも思っていたのだ。


「邪魔することにかけては天下一品の女傑よのう」


 じゃが、と皇帝はまるで自問するかのように喋る。


「にしても到着が早すぎはせんか?」


 観測してすぐ、国境に近い都市から人員を派遣しさせた。

 聖王国の者ならばまだしも、最速で国境に到着した三日目に西方海洋国家の手の者から邪魔立てされるにはどれだけ早い移動手段を持っていても距離的に難しいのである。


「直線距離で移動できる飛竜に乗ったとしても、三日以上はかかって然るべきである」


 もしや、と皇帝は考える。


「王の観測より先に、〈異人〉の到来を知ることのできる者が存在するとでも?」


『イエ、ソレハ無イデショウ』


 カメラ男は王の問いかけにあっさりと答えた。


「なぜそう言い切れる」


『【戦魔】ガ国境沿イニ居タノハ、偶然デス』


「偶然とな? ならばなぜ〈異人〉を確保しに来ただけの帝国兵に邪魔立てした」


『確カ、痴情ノモツレダッタカト』


 カメラ男から出たその言葉に、皇帝の眉がピクッと動いていた。


「……痴情の、縺れ?」


『ハイ』


「ナッツ=ヘーゼル。あまり余を愚弄するでないぞ」


 皇帝がそう言った瞬間、その場の空気がズシンと一気に重くなる。

 謁見の間の扉の外で待機していた一人の騎士は、その雰囲気を感じ取りややたじろいだ。

 そんな中、ナッツ=ヘーゼルと呼ばれたカメラ男は、平然とした様子で言う。


『私ノ能力ハ、陛下ガ良クゴ存知ダト思イマスガ?』


「……」


『本当ニ痴情ノ縺レノヨウデス。ソモソモ、噂デハ【戦魔】ヲ誑カシタノハ、帝国ノ人デスシ……彼女ハ、激情家デ、男関係ニナルト、凶悪デスカラネ』


「ふむ、これだから西方の気取った女は好かん。終わってしまったことは仕方ないが、此度の〈異人〉を他の国に取られてしまったのは痛い……情報は上がっておらんのか?」


『取ッタノハ、聖王国デス』


「……あの貧相なヒゲの国か。忌々しい」


 ヒゲを撫でながらそう呟く皇帝に、カメラ男が言った。


『ゴ安心クダサイ。〈異人〉ヲ確保デキナクテモ、計画ニ支障ハ無イデスカラ』


「うむ、期待しておこう」






これにて第一賞部分はおしまいです。

ただ現状ただの雑魚である主人公故に。

山場という山場はありませんでしたが。

無事、旧友との再会ということで、一章はおしまいとなります。


色々と説明などが足りない部分があると思うんですが、その辺はこのあたり作中で補足されて行く予定ですね。

ユウをバックアップ(?)してくれる強力な仲間達がいますから。




導入部分を長々と書いてしまって、ダレてしまった方もいると思いますが、頑張ってテンポよく進めて行きたいと思っています。

ここまでお読みいただけまして、そしてさらにブクマ、評価、感想をつけていただいた読者の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。




二章は幕間(3話予定のもの)を挟んでから連載していこうと思います。

投稿スピードは一日1投稿になると思いますが、その分展開を早めていけたらなあ……。





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