23 - 【戦聖】のジハード
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード
「チッ……遊びすぎたな……」
「遊びだと?」
舌打ちしながら悪態をつく眼帯の男──リスキー=リードヘッジ。
その言葉を聞いて、ジハードは鷹の目をさらに鋭くさせる。
「まっ、聖王国領だから、テメェらの誰かが来ると思っていたが……まさか【戦聖】様自らがお出ましとはなあ」
「親友がこの世界に来た。俺が行かなくてどうする」
ジハードはそう言いながらアイテムボックスから適当な布を上半身を露わにして座るマリアナに投げ渡す。
「へえ、良い男なこった」
リスキーは鼻で笑ってそう言いながら、装備をナイフから小盾と片手剣に切り替えて行く。
アイテムボックスから何も出していないのに、どうやって装備を変えているんだろうか。
やっぱり俺と戦ってた時はしこたま手を抜いていたってことか。
……くそ……っ。
「それより、テメェは帝国領の奴とやりあってたんじゃないのか? 俺の予想より随分と早いご到着じゃねえか」
「……帝国領? 知らんな。俺が遅れたのは、ただここに来る途中めちゃくちゃモンスターがいて対応に遅れてただけだ」
「ハハッ、そりゃ俺らが村を素通りさせて南方に追いやったやつだな。適当に別の村とか襲わせる予定が、テメェのおかげで俺の計画がパーになっちまったぜ」
そうだ、結局村にモンスターは襲来したのかしてないのか気になっていた。
いったいどうやったのかは知らないが、奴の口ぶりだと上手いこと村から南方へと素通りさせたってことなのだろうか?
そして、それをジハードが来る途中に倒してたってことか?
本当のところはわからない。
だが人をさらって売り飛ばすこともやっていると言っていたし、村の人たちは……生きてるってことでいいんだよな……?
「マスター!」
「マ、マリアナ……大丈夫か?」
「私よりもマスターの方が……!」
倒れる俺の元にマリアナが走って来て、寄り添ってくれた。
膨よかな胸で頭をぎゅっと抱きかかえられる。
「なるほど」
それを見たジハードは何かを察していた。
「こんなど腐れ野郎相手に、ユウが負けるはずないと思ってたんだが……どうやら持ち越し特典にそのマリアナを選んだわけか、まあなんとなくユウが考えそうなことだな」
「良いだろ……別に……」
「支援型だから、最初は厳しかっただろう? でも危険回避くらいはできたと思うが……」
「ジハード様、今はアンドロイドではなく〈異人〉として認識された、マスターと同じ体を持ちます。〈サポートロイド〉としての能力はなくなり、アビリティとして一部使えるのみです」
「なるほど。まあ俺たちと、ユウと同じになったのか……よかったな」
「はい!」
そして改めてリスキーに向き直るジハード。
「散々やってくれたみたいだな」
「それが盗賊の仕事だろう?」
「なら国の領土を犯す盗賊を退治するのは……聖王国領所属の俺の役目だ」
そう言うとジハードは瞬時に手元に長剣を出し、リスキーに斬りかかった。
ドッと音がして、ジハードが立っていた地面がえぐれる。
「──チッ! 面倒だぜ! 《リスクヘッジペイン》! 斬撃指定だ!」
それを見越して、リスキーは後ろに大跳躍していた。
「《宿敵宣誓》」
ジハードはそう呟きながら、空中を蹴り抜く。
三次元的な方向転換とさらなる加速。
一直線にリスキーへと向かい、長剣でその腹を穿った。
「ッ!? チッ、ダメージ軽減ギリギリか!!」
「なかなかいい防御性能だな」
強烈な一撃を、リスキーは左腕に持った小盾で受け止めていた。
「噂に違わぬ火力馬鹿野郎だな。おかげでレア装備一個逝っちまったわ」
直ぐに眼帯を外してジハードを見る。
隠されていたリスキーの眼球には不思議な模様が浮かんでいた。
「それがお前のアビリティか」
「ハッ、教えねえよ」
「本気でかかってこい。一瞬で決着がつくのはつまらん」
「テメェ、言ってくれるじゃねーか。《グレートバンデッドスチール》」
「む?」
ジハードの持っていた武器が手から消え、リスキーの片手に出現した。
彼は奪った剣を確認し、アイテムボックスに入れながら悪態を付く。
「……チッ、やっぱ本命武器じゃなかったか」
「盗賊団だけに、やはり盗賊職のスキルを持ってるんだな」
「ハッ、一つ訂正しておく……俺は最上位職の【大盗賊】だ。おら、ついでにもう一つ、テメェのアイテムを奪わせてもらうぜ? 《グレートピックポケット》」
奪った長剣を持つリスキーの手に、もう一つアイテムが出現する。
「おっと……思ったよりもいいのが釣れたぜ【聖戦】さんよお!」
ジハードの装備に変わった様子がないところを見るに、どうやら相手のアイテムボックスから物を奪い取るスキル。
そして今しがたリスキーが奪ったものは、また別の種類の武器だった。
それは剣ではなく斧。
いかにも強そうな装飾の入った旗のついた斧槍である。
「そいつを盗られたか……やはり強奪系のスキルは厄介だ」
「へえ、〈翻る旗の大戦斧槍〉で等級はエピックかあ……保有スキルはないが、エピッククラスにしては優秀な攻撃力をお持ちの武器じゃねえの」
「褒めるなよ」
持っていた武器を奪われ、その上さらに強そうな武器をアイテムボックスから直接奪われたジハード。
だが、彼は未だ余裕の表情を崩さない。
その表情が癪に障ったのか、リスキーはややイラつきながら言う。
「おいおい、随分と余裕じゃねえかよ? 舐めてんのか?」
「……貴様は、大方“エピック”までしか盗れないんだろう? 【大盗賊】は最上位だが唯一職じゃないからな……そんな職のスキルで盗れる物なんか、たかが知れてる」
「……おいおい、ってことはユニーク以上で装備揃えてるってことかよ? ハッ、天下の廃人様はリッチなもんだ」
「リッチ……? ユニーク以上は購入よりもボスを倒した方が手っ取り早いことを知らんのか?」
ジハードは「がっかりだな」と言いながら、やれやれとため息をつく。
「奪うことしかやってこなかったやつに話しても無意味か。……正直、それを奪われたところでお前に扱えるとは思えん」
「ああん?」
その一言で、イラついていたリスキーの額に青筋が浮かび上がった。
「テメェの汚ねえ手垢がついたもんなんか扱わねえよ……だが、“消費”はさせてもらうけどなッ!!! ──《レバレッジペイン》!! 担保はこの〈翻る旗の大戦斧槍〉だ!!」
リスキーが叫んだ瞬間。
ハルバードが熔けるように、彼の手の片手剣に吸い込まれて行く。
そして、片手剣が強烈な光を帯び出した。
「ハハッ!」
リスキーは高揚した笑い声を浮かべている。
「エピッククラスなら扱える火力の上限値もかなりのもんだぜ? ──死ね【戦聖】!」
そしてジハードに向かって跳躍した。
「担保……アイテムを消費して、防御や火力を上昇させるアビリティか」
「半分正解だがもう遅いぜええ!! 今の俺の火力はよお……純粋なエピッククラスを頭一つ超えて、ユニークに届くんだぜ? いくらテメェでも無事じゃ済まされねぇよ!!」
その言葉を聞いたジハードは、
「なるほど、威力はユニーククラスか」
と一言つぶやいて、手元に新しい武器を出現させた。
それは斬馬刀並みに大きい両手剣。
ジハードは特に表情を変えることもなくその大きな両手剣を片手で持ち。
盗賊職の速さを生かして真正面から早い攻撃を行うリスキーにタイミングを合わせて振り抜いた。
「チッ!」
リスキーは盾で防御し、そのまま体を伸ばしてジハードの胴体を捉えに行く。
……が。
無造作に振るわれたジハードの剣が、盾をあっさり破壊し、そのまま上半身を胸のあたりから真っ二つにした。
「──ぁ?」
そんな間抜けな声を出すリスキー。
どうやら自分の胸から下が切り離されたことを実感できていないようだった。
「なん──で、?」
ドサリと地面に落ちて、ようやく状況を理解するリスキー。
そんなリスキーにジハードが剣をしまいながらいった。
「自分の防御性能を過信しすぎだ」
「?」
「もっとも、まともに武器がぶつかり合っていたとしてもレジェンドクラスだから勝ててたけどな」
「レ、レジェン……ド?」
「それに付け加えて俺の《宿敵宣誓》は指定した単体へのダメージ増加の特化タイプだ。オールラウンダーみたいな貴様のアビリティじゃ、はなっから勝負にならないんだよ」
「くそっ、たれ……ッッ!」
声にならない声で悪態をついたリスキーは、光の粒子になって消滅した。
やっと再会もしました。
長かったですね。
主人公以外のアビリティの詳細は、話が進むにつれて出していこうと思っています。
明日はエピローグを2話挟みます。
ユウ達と、どこかで勝手に動いていた他の国の人たちの話です。