22 - 《リスクヘッジペイン》
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード
「ハハハッ! テメェはたかがアビリティのステージ1程度を武器に、俺に挑んできたカスだ! 他の雑魚どもならまだしも、この俺に勝てるわけねえだろうがよ!」
顔を握る手に力が入る。
HPが減り、さらに闇の手が増える。
それを目の前の男に全てけしかけるが、男の表情は変わらない。
ど、どうなってるんだ……。
どうなってやがんだよ!!!!!
「──ア”ア”ア”ア”ア”ッッ!!!」
「おいおい癇癪起こすなよ。いくら増やそうが無駄だよ無駄。特に異常状態にかけては俺は完全に防御してあっからな? ハハッ、教えといてやる。絶望しろ! 虚弱、恐慌、出血麻痺沈黙毒火傷石化暗黒混乱気絶……そんで拘束! どれも全部効かねえよ。俺のアビリティ《リスクヘッジペイン》には効かねえんだよおおお!!!」
「ぐぞぉぉおおおお!!」
「いいねえいいねえ!! 心から叫べや、誰も助けになんか来てくれねえよ! テメェのアビリティは急速にステージ2まで駆け上がったかもしれねえ、まあさすが廃人ってところだが……すぐに扱いきれるほど簡単なもんじゃねえし……っていうか俺のアビリティはもうすぐ5に届く“ステージ4”」
男は俺の耳元に向かって楽しそうに笑いながら叫ぶ。
「ハハッ、ハハハッ! ハッハッハッハッハ!!! どんな奇跡を起こそうが、はなっからテメェに勝ち目なんてねぇんだよバーーーーーカッ!!!」
「うぐ、ぐ、くそぉ……」
MPはもう残り30程度。
残存HPに応じて闇の手の量は増え、MPの消費スピードも維持できている。
だが、短い時間ではどうすることもできなさそうだった。
「マスターから離れてください」
「あん?」
気がつけば、マリアナが眼帯の男に向かって弓を構えていた。
ギリギリと強く引かれた弓を、男のこめかみに向けている。
「熱くなっていて気が注意が散漫になっていたみたいですね。この距離からの矢であれば、間違いなくあなたの脳に致命傷を与えることができます。たとえ死ななかったとしても、それだけで十分です」
「……はあ、聞いてなかったのか? 俺の話」
「聞いていました。異常状態に対してかなりのアドバンテージがあるんですよね? ですが、明らかに動きを重視したその皮鎧の軽装。防御力はどうなんですか? もっとも、なんの防御もない頭部に矢をぶち込んだらどうなるか……わかりますよね?」
「ハッ、この情けねえ男よりもよっぽどできた女じゃねえか……気に入ったぜ……」
「今のあなたに喋る権利はありません。大人しくマスターから離れてください」
「…………射てよ」
「え?」
男は大声で叫ぶ。
「さっさと射てよ。射ってみろよ!!!」
「うっ」
その圧に押されてマリアナの引いていた弦がビンッと音を立てた。
至近距離から矢が射出される。
男はその瞬間に首を横に振って、左目の眼帯で矢を受けた。
普通であれば、矢はただの布でできていそうな眼帯を貫き。
そのまま目、そして眼孔を超えて脳にダメージを与えるだろう。
だが、
「誰が異常状態だけが効かねえっつったよ?」
矢は男の眼帯を貫通せずに勢いを完全に失ってポトリと落ちた。
「なっ!?」
ありえない出来事に驚愕するマリアナ。
「まさか、レア装備!?」
「そう思うよなあ? でもちげえよ、俺のアビリティはダメージ軽減機能もあるし装備の防御性能も飛躍的に上昇するってすぐれもんだ……ハハッ、強気でいたがすっかり立場逆転しちまったなあ!」
「くっ、この!」
それでも落ちた矢を拾って突き刺しに行くマリアナ。
「遅えよ」
眼帯の男は攻撃をかわしてマリアナの服を握りしめると、ぐっと引っ張りそのまま顔面を思いっきり殴りつけた。
その勢いでマリアナの身に着けていた上着が破れる。
「くっ」
「色気がねえなおい。女らしく「きゃー!」叫んでみろや」
「私が色目を使うのはマスターオンリーです。たとえこの場でどんなひどい目に遭わされようとも、人形に徹しますので面白くはないと思いますよ?」
「なんだこの女……変態か? まあいいや、見てろよユウ=フォーワード。おめえの大事なもん、今からぶっ壊してやるよ」
「ふざけんな……やらせるわけないだろ……ッッ!」
立ち上がるが蹴り飛ばされて後頭部を打つ。
HPももうほぼない。
また生きてるのが不思議って状況だった。
闇の手は俺の意思とは関係なく動いている。
とにかく、周りにいるマリアナ以外を手当たり次第に絡め取ってるようだ。
「おいおい、結局そのアビリティも使いこなせてねえじゃねえかよ? まあいるんだよな、振り回されて使いこなせない奴はよお……情けない男には過ぎた代物なんだなあ?」
「ぐ、う……」
「ハハッ! ほんっとに残念だったなユウ=フォーワード! 俺はテメェのそんな必死で、ボロボロで、なんとかしようと頑張っても無理な状況を見れて楽しかったぜ? めちゃくちゃ楽しかったぜ?」
「この、野郎……!」
「さてと、フィニッシュだ。最初は下っ端にやらせてテメェの顔を見物しようと思ったけどよ……もう俺が自ら手にかけてちまった方が手っ取り早いし、爽快だってもんだ」
眼帯の男はマリアナの髪を掴んで持ち上げ、剣を構える。
「知ってっか? プレイヤーって首を切り落とされてもすぐには消えねえんだよ? まあ現実の人間も首を切り落とされた瞬間はまだ“意識がある”って言うしな? だから最後の言葉は切り落とされたこの女の生首から聞けよ」
「や、やめろ……」
「ハハハハッ!! やめねえよ。まあどうせ生き返るからいいだろ? もっとも、こっちの所属になったらこの女とは二度と合わせねえけどな! なんなら命令で犯罪おこさせて殺して監獄にぶち込んでやるよ!!」
「やめろおおおおお!!!」
今度こそ、剣がマリアナの首を捉える。
俺の叫びに反応して男の足元から闇の手が大量に這うが、この男には効かない。
マリアナも、覚悟を決めて歯を食いしばって目を閉じた。
その瞬間。
──ドゴッ!!
「──ッ!?」
眼帯の男が立っていた場所に何かが落ちて来た。
素早く反応した男は闇の手なんかもろともせずに蹴散らして飛び退く。
「ヴィズラビア所属のリスキー=リードヘッジか」
「……ああ?」
衝撃で立ち込めた土煙の中から、銀髪の男が姿を現した。
「前の世界ではPKクラン“リスキーウェイ”のクランマスター。そして今は、PKクランメンバーを率いる盗賊団の頭で、最近ちょくちょくこの辺境の地の村を荒らし回ってるど腐れ野郎」
「テメェは……」
あの銀髪、そして鋭い鷹のような目。
土煙から姿を現した男を俺はよく知っている。
よく知っているも何も……。
前のタイトルでは一番最初にフレンド登録した旧友。
そして対人戦ランキングトップに君臨していた無敵のプレイヤー。
【戦神】ジハードだった。
「ジハード……?」
「すまんユウ、遅れた」
正確な能力名とか、そういうのは後々出ると思います。
次話の後、エピローグで一章終わりにしたい!