3 - 最終決戦3
■エンドコンテンツ/最果ての地/【双極】:混沌
白と黒の翼を羽ばたかせながら、同じようなモノトーンの巨大な剣を振り抜く。
生まれる衝撃波だけで、召喚された獣の三分の一を消滅させる。
《堕天降臨》は、【双極】の究極級補助スキル。
全耐性全ステータス上昇、さらに飛翔が可能となり、光属性の光速機動も合わせて可能とする。
《混沌の剣》は、【双極】の特別級攻撃スキル。
一度目の使用で手に持って振ることができ、二度目の使用で防御を無視した一撃の大剣を敵にぶっさすことができる。
単体の敵に対して、この《混沌の剣》の防御無視がめっぽう強い。
ボスクラスともなれば、相応の防御力を誇り、生半可な攻撃は通らない。
それこそ、特別職の攻撃スキルでも威力は減算されてしまうものだ。
だが、この剣は二度目の使用による一撃のみ、一切合切の防御を無視し、直接ダメージ。
「《代理鏡撃》」
そこへ、《依鏡代理》で吸収したダメージを上乗せしてやる。
「《混沌の剣》」
スキルの名前を再び呟く。
手の中にあった剣が消え、最果ての地を覆い尽くす鈍色の空が白と黒に分かれる。
そして、その隙間から巨大な剣が避けることも叶わない、光速で飛来し突き刺さった。
──キアアアアアアアアアアアア!!!!
【最果て】のそんな悲鳴とともに、HPを表すバーが目に見えて減っていく。
球体を死霊と悪魔の軍勢で削り取った時よりも遥かに大きなダメージだ。
「マリアナ!」
『蓄積ダメージ二百万オーバー、それ以上は計測不能』
「おお……」
混沌の一撃を見ていたヘルメアが感嘆の声を漏らしていた。
ここまで膨れ上がったダメージを与えたのは、今日が初めてだ。
もちろん闇属性の攻撃力強化もHPが1である時点で最大の効果を発揮しているはず。
「いけるか!?」
あまりにも強大なダメージに、落下物と召喚獣が止む。
剣を振りほどこうと、最果ての大地から出現する巨大な根が剣に絡まっていく。
『敵の残存HPがもうすぐ一割を切ります。マスター、あの巨大な剣は何秒持ちますか?』
「10秒」
『残りHPと蓄積ダメージを計算すると、あと5秒分足りません』
5秒か……。
初撃で削りきれなかっただけでも驚異の耐久を持っているが、継続する蓄積ダメージにも耐え切れるなんて、このエンドコンテンツのボス【最果て】はとことんぶっ壊れたステータスを持っている。
だが、堕天状態の闇属性魔法ならば、剣で削りきれなかった5秒は誤差にしか過ぎない。
そう勝利を確信した時だった──、
「ん?」
劈くような【最果て】の悲鳴が聞こえなくなった。
落下物も、召喚獣も消えた今、鈍色の世界から音が消えたのかと錯覚するくらい切り替わる。
「……蝶が、消えてる?」
混沌の剣が消えるとともに、あれほど巨大だった【最果て】の女体が忽然と姿を消していた。
大地に根をはる、引きちぎられた世界樹の残骸だけが無残に残されている。
『マスター! 後ろです!』
「ッッ!」
マリアナの声に従って振り返る。
すると、HPを全快させ人間サイズに収まった【最果て】が、俺の心臓に向かって腕を突き出しているところだった。
「《フラッシュポイント》ッッ!!」
ギリギリで回避するが、腕を振るったその余波だけで、最果ての大地が大きく割れて揺れ動いていた。
【最果て】の、その瞳には確かな憤怒が宿っているように思えた。
世界を捨てて、別の世界線へと向かう渦中で、水を差した俺に対する大きな怒り。
──キアアアアアアアア!!!!
再びの咆哮。
音は衝撃波となって全方向に突き抜ける。
「クッ!」
至近距離でモロに食らった俺は、堕天状態を剥がされて吹き飛ばされた。
『すいません! 耐えきれません!』
遥か後方の地上で見ていたマリアナも体勢を大きく崩す。
あくまで支援型アンドロイドであるマリアナは耐えきれなくても不思議ではない。
殲滅魔法スキルを使って時から、すべてのMPを俺に供給し《マジックシールド》を張るMPは残っていないし。
そもそも、このクラスのボス相手に《マジックシールド》が通用するのは雑魚敵と落下物くらいだ。
「ふん、呼び出された分の働きはしてやろう」
マリアナが吹き飛ばされる間際、ヘルメアが彼女を抱えて大きく距離を取っていた。
「ナイスだヘルメア。そのままマリアナの護衛を頼む」
代償が少なくとも、基本的な性能は折り紙つきの獄女王。
俺のMPを使用せずとも、ある程度の獄卒連中を肉壁として召喚することは可能だ。
これ以上にない護衛役。
俺は目の前の【最果て】に集中できる。
「──いいぜ、来いよ」
感情が高ぶっていく。感覚が研ぎ澄まされていく。
レイドボスよりもさらに格上のエンドコンテンツの大ボス。
そんな奴を相手に、俺はこの最終段階までソロで足を進めた。
あとは、持てる死力を尽くして打ち倒すのみ。
「大概のやつはレイドをいくつも組んでテメェと戦う」
それでも何度も何度もチャレンジして対策を練らない限りとてもじゃないが討伐は不可能だ。
そんな奴を相手に、
「あいつらは六人のワンパで前情報なしに討伐しやがった」
それが、ランカーの底力だというものだろう。
俺は出遅れちまったけど……、
「代わりにソロでテメェを打ち倒してやるよ!」
自分自身をそう鼓舞しながら、神薬を使う。
一人につき一度までの、HP、MPを回復させるその神の回復薬は所持制限が一つのみ。
混沌状態も終わり、HP1でMPも尽きかけている今が使う時だ。
神薬の入った小瓶を上に投げ、落ちて来る間際、手の甲で叩き割った。
全快、そして純度100%の光状態に突入する。
「──キアアアアアッッ!!」
もはやオーラといってもいいほどの、密度の濃い《死の鱗粉》を纏いながら、【最果て】は接近戦を仕掛けて来る。
正直、【双極】は機動力と火力に物を言わせた中距離職。
接近戦を挑まれると、大規模殲滅魔法やら暗黒の軍勢を活かせない。
「《シャイングラム》」
《フラッシュポイント》を用い、大きく安全マージンをとった回避行動にて撹乱しながら、特別級光属性魔法スキルの巨大な鏡を出現させる。
「《フラッシュリフレクション》」
そして当たれば反射して別の目標に向かっていく特性を持った《フラッシュリフレクション》を放つ。
このスキルは、闇属性に比べれば発動は早いが威力が物足りない。
さらに反射する特性が、雑魚敵が沢山いる状況で適当にぶっぱしてこそ真価を発揮するので、単体のボス相手には向いていない狩り技なのだが……《シャイングラム》と組み合わせることでなんとか威力を二倍にまで向上させ反射を使った連撃を繰り出すことが可能になる。
シャリシャリと砕けたガラス片が擦れ合うような音がして、閃光がまっすぐ【最果て】に飛んでいく。
命中後、閃光は反射してまっすぐ《シャイングラム》へと向かい、《シャイングラム》から再び反射し【最果て】へと向かう。
《シャイングラム》には出現中使ったスキルを反復する効果があるので、閃光の数は二倍。
二倍の連撃が【最果て】の完全復活を遂げたHPを徐々に、徐々に削っていく。
「そのオーラみたいなのが、邪魔だな!」
相変わらず硬い、それに一発の威力を削って攻撃速度に大きく性能を割り振っているようなものなので、所々閃光の攻撃を《死の鱗粉》を凝縮したオーラのようなものが弾いているようだった。
こういったカット系の防御は、大きな一撃を与えて一時的に消しとばすのが有効な手立てである……が、光属性究極級魔法スキルである《シャイニングダスト》は一度使っているので使用制限がかかってしまいもう使えない。
「キアアアア!!」
閃光の攻撃が微々たるものだと理解した【最果て】は、俺の攻撃を無視して接近する。
絶叫しながら翼をわずかにはためかせて、【双極】の俺と変わらぬくらいの超速機動。
転移に近い移動を使える光状態じゃなかったら、あっけなく体を貫かれて終わっていただろうな。
……千日手か。
いや。
回避ばかりしていても、いずれはMPが尽きてしまう分、状況は明らかに不利。
「そんなことは、予測済みだ!」
何年廃人やってると思う。
大学四年間をつぎ込んだ俺の廃人力は、例え【最果て】相手でも劣らない。
「ヘルメア、追加だ!」
獄門の首輪をもう一度持ち、次は《追加代償》の固有スキルを使用する。
HPを1にしての混沌状態は、《シャイニングダスト》と同じように1日に一度きりという使用制限がある。
今回の使用は、HPを1にして闇属性のポテンシャルを最大限にまで引き上げるためなのだ。
──回避能力を全て捨て、攻撃に全振りして正面から迎え撃つ。
いつまでプロローグやっとんねん。
大丈夫ですあと2話くらいでおわります。
趣味とノリの産物。