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廃人ゲーマーとラスボス後の世界  作者: tera
第一章 - 旧友との再会
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20 - 恨みと悪意

■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード


「は、離してください!」


 マリアナは拘束を解こうと身を捩るが、それが返って盗賊を刺激して、乱暴に蹴り飛ばされて転倒してしまう。


「マ、マリアナ!!」


「一緒にいた弓持ちの女だぜ、リーダー」


「おう」


 踏みつけた俺の顔から足を話すと、眼帯の男──盗賊のリーダー格──は、集められた村の物資にドカッと腰を下ろした。


「残念だが、俺のお楽しみタイムはまだ続くぜ?」


「お前ら、彼女に手を出したらタダじゃおかないからな」


「ハッ! 縛り上げられた芋虫野郎が何ができるってんだ!」


「くっ」


 確かにそうだ、今の俺には何もできない。

 アビリティを使うタイミングを見計らっているが、基本的に攻撃力は皆無。

 ……何か、他に手があればいいのだが、囲まれた状況ではどうしようも……。


「ヒュー! こいつが前のゲームのトップランカーの一人だなんて、びっくりだぜ?」


「雑魚じゃねえか雑魚!!」


「ああ、テメェは知らないみたいだが、こいつはガチでトップランカー様だったんだぜ? 今はこんな情けねえ野郎だってのが笑えるし、元トップランカーキルも楽しいかもなあ! ギャハハ!」


 歯を食いしばって必死に睨みつける俺を見て、周りの盗賊達は笑っていた。


「まあ、流石に殺しはしねえよ? せいぜい喜べやユウ=フォーワード、連れてこいって依頼主がいってるもんだから、俺のお楽しみタイムも殺さねえ程度にクラスダウンすんだぜ?」


「……依頼主って誰だよ」


「そりゃ、お仲間になってからのお楽しみだぜ?」


「誰がお前らなんかの……ッ!」


「さてと、そろそろガチで時間もないし、個人的な恨み返しだけさっさとやっちまうか」


 だから、恨みってなんだよ……。

 俺のことを知ってるみたいだけど、俺はこいつらのことをなんか知らない。

 どこかで恨みを買った覚えもないし、前のタイトルでもPKとなんか後半全く絡んでなかったんだ。


「俺がお前らに何したってんだよ……」


 そう言うと、


「はあ、まあテメェにとっちゃ忘れちまうくらいの記憶かもしれねえよな?」


 眼帯の男は俺に近づいてきて屈むと、また髪を掴んで強引に顔を持ち上げた。

 カッと見開かれた目が、俺を射抜く。


「絶対教えねえよ……。俺だけが覚えとく、二度と忘れねえでこの恨みはずっと抱え込んでおくぜ? 平和な野郎だな、一生なんで恨まれてるのか考え続けてろや……」


 男は掴んだ俺の髪から手を離して、元の位置に戻ると言葉を続けた。


「まあ、大切な物を失う悲しさってもんを知ってみろよ?」


「な、何を……」


 眼帯の男は周りにたむろしていた盗賊の一人に顎をしゃくって指示を出す。

 指示された盗賊は剣を抜いて、マリアナの髪を掴んで無理やり膝達にさせる。


「くっ、触らないでください!」


 なんとか抵抗しようとするマリアナを見て、盗賊は舌なめずりをする。


「強気なのはいいぜえおい……俺好みだあ。殺しちまうのが惜しいなあ?」


「確かお前、未亡人タイプだったっけ?」


「そうだよリーダー。俺としてはこのままそこの男を殺して未亡人になったこの女を貰いたいんだけどなあ」


「お前そうやって男殺して量産してっけどよお、俺らの商売北に人をさらって売り払うことだろ?」


「まあそうっすねえ」


「一応言っとくけど、お前のおかげで報酬減った部分もいくらかあんだぞ? ちっとは自重しろよ?」


「へえへえ、そりゃあすいませんでした……ってことで、景気付けにサクッとやっちまいますか!」


「……そういう話ならなおさら殺すべきではないんじゃないでしょうか? 私だって売り飛ばせばお金になると思いませんか?」


 なんとか会話に混ざって時間を稼いでいるようだった。

 言葉にはしないが、視線で俺に何かを伝えようとしている。


「ああん? 残念ながら今回は例外だよ。ま、その男を一緒にいたことを後悔するんだな」


 未だマリアナのことをこの世界の住人だと思っている眼帯の男は、下っ端にやれと指示を出す。

 くそ、黙っていたがやはり言うしかないか。


「待ってくれ! 彼女も〈異人〉だ! 〈異人〉を連れてこいって指示があるなら、殺すのは依頼に反するんじゃないか!?」


「はあ?」


 俺の言葉に、眼帯の男は訝しんだ表情を作る。


「いえ、私は〈異人〉です。なので、この場合私を殺すという脅しはマスターには通用しませんよ?」


「……くだらねえ嘘ついてんじゃねえよ。こっちは一人って王直々の情報もらってんだぜ?」


「もしまだ疑っているならば、村人を呼んで確かめてみてください。この世界の人は問答無用でプレイヤーのことを〈異人〉だと認識していますよね?」


「チッ、めんどくせえな……」


 これで多少の時間は稼げたか?

 とりあえず今のうちになんとか対抗策を考えないといけない。

 相変わらず八方塞がりだが、頼むからまた奇跡くらい起きてくれ。


 あとでどんだけ俺は不幸になってもいい。

 だから前倒しで頼むから、奇跡降りてきてくれよ。


「まあ、どっちにしろ殺しゃわかんだろ」


「え……」


 俺が思っていた展開を裏切る一言だった。


「なんか誰かからこの世界についてチョロっと聞いた節があるから、もう臨時のセーブポイントは登録してるってことで話を進めるが、この女を殺して三日この村で待つ。それで復活したら連れてってやるよ」


「〈異人〉は生かして連れてこいって依頼じゃないのか!?」


「ああ、でも依頼主は一人の〈異人〉だって言ってたからなあ? もう一人後からおまけで連れていけば、俺の待遇もさらにあがるんじゃねーの? せいぜい利用させてもらうぜ? ハハッ!」


「ギャハハッ! リーダー相変わらず人の期待を裏切るのが得意だぜ!!」


「まっ、この女連れて行く時俺は先に戻ってっからよ……もしかしたら道中傷物にされてっかもしれねえな? なにせほら、そこの首だけの野郎みたいに、俺の部下達はいうこと聞かない奴らばっかりだしな?」


「おー! 許可でました! よっ、太っ腹!」


「よし、さっさとやれ」


「あいよー。三日後は俺が先にいただく……ぜ──ッ!」


 唇を噛み締めるマリアナ。

 俺は左手のアビリティを展開して、殺されるのだけは阻む。

 ここが使いどころではないと重々承知の上。

 とにかくマリアナが殺されるのだけは阻止したかった。


「出たぜ! それが奴のアビリティっぽいんだよリーダー!」


「へえ……三日目で発現してんのか? さすが元トップランカーの廃人だな?」


 だけどよう、と言いながら俺の光の壁をコンコンと叩く眼帯の男。

 

「こうして触ってもなんともねえし、攻撃性は皆無ってところか? 聞いてた話も基本的にこいつに防御させて、攻撃はこの女に任せっきりだったわけだろ? はっ、使えねーアビリティだな! 防御用のアビリティなのに、大切な女も守れねえクソアビリティじゃねえか!!! ハハハッ!!」


「……お前ら、マリアナに手を出したら絶対に許さないからな……」


「んんー、別にテメェに恨まれようが許されなかろうが知ったこっちゃねえよ。単純にテメェの絶望した顔がみたいだけだからな……そうだ」


 ふと気づいたように、眼帯の男はもう一人の部下に指示を出す。


「お前のアビリティをちょっと当ててやれよ」


「ん? 何するんだリーダー?」


「いいからやれ」


「あいよ……──《わっ!!》」


「ぐあっ!?」


 まただ、この男が大声を出した瞬間。

 あの体に刺すような痛みと、頭を揺さぶられたような感覚が走る。

 やはり、音による攻撃……?


 視界がぼやける。

 振動で脳を揺らされたことで、思考もまとまらなくなってきた。

 当然左手から出していたアビリティも消える。


「う、あ……マリア、ナ……」


「ハハッ、縋るような思いだろうなあ? ほらみてろよ、目の前でお前の大事そうな女が殺されるところをよ?」


「じゃ、いっきまーす」


 振り上げられた剣が、マリアナの首に降ろされる。


「ぐ、ぞ……ぉ……」


 朦朧とした意識だからだろうか、やけにゆっくりに感じる。

 この絶望感を長く味わえってことなのだろうか?


 クソ、クソ、クソクソクソクソ──!!!


 俺はあの時、マリアナを守りたいと心の底から願った。

 それが形になってくれたのがあのアビリティだったんだと思う。


 だが、クソほどにも守れてない。

 ふざけんな。


 生まれて初めて、目の前の男を本気で恨んだ。

 本気で殺したいと思った。


 【双極】が前提になっているアビリティならきっとあるはずだろ。

 左手だけじゃなくて、右手にも、光とは対極の闇があるはずだろ。


 守るための左手なら……。

 その対極の位置にある殺すためのもんがあるんじゃないのか!!

 聞こえてんのかおい!!!!!!!!!!


 もはや誰に何を願っているのかもわからないくらい。

 心の中で叫んでいると、唐突に右手が熱くなった。


 そうだよ、それだよ……。

 頭の中に言葉は聞こえてこないが、それがなんだか認識できる。


 初めてアビリティを得た時のように。

 頭の中に、“それ”が何か流れ込んできた。





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