19 - 過去の知り合い
修正。眼帯をつけたって文章を左目に眼帯をつけたに変えました。
眼帯の位置を左目だって決定しただけです。
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード
「……う……?……」
目が覚めた。
暗い、そして後頭部に鈍痛。
「う、ん……」
俺はどれだけ気を失っていたんだろうか。
夕闇を照らす松明の明かりが、ぼんやりと視界に入ってくる。
「はっ! そ、そうだ、マリアナは!? 村はどうなった!?」
立ち上がろうとするが、両手両足を縛られているようで無理だった。
「く、そ!」
地面に顔をつけながら悔しい思いが心を染める。
結局、こうなるのか。
なんとか縄を解けないかもがいていると、足音がする。
誰かが俺の方へ近寄って来ていた。
「おっと、ヒーロー気取りさんのお目覚めだぜ?」
男の声。
「大人しく逃げときゃまだ助かったかも知んねえのに、やっぱなんの力も無い英雄気取りは笑いもんだよなあ?」
「はぁ……?」
語りかけて来る男を見上げる前に、
「痛っ!」
髪を掴まれ強引に上を向かされる。
目の前に、左目に眼帯をつけた男の顔があった。
さらに周りに俺を取り囲む盗賊たちがいる。
眼帯の男は俺の目を見ながら言う。
「久しぶりだな。ユウ=フォーワード」
「ひさし、ぶり……?」
「忘れちまったのかよ? はあ、悲しいぜ……まあ仕方ねえよな?」
男は掴んだ髪ごと俺の頭を地面に叩きつけると、
「まあ、昔のお前からすりゃ、ただのPK集団だったんだからよ!」
「うぐっ!」
そのままサッカーボールのように頭部を蹴った。
強い衝撃、ゴロゴロと体が地面を転がる。
「ハハッ、気分がいいや。おっと、つい力を入れすぎたか。やべえやべえ」
額、口、鼻から血が出て視界がぼやける。
ゴホッっと血を吐いた俺の様子を見て、男はアイテムボックスから取り出した液体をかけた。
痛みが少し引いていく、回復薬を使ったのだろうか。
「な、なにがしたいんだ」
いったい何を言っているんだこの男は。
そもそもいったい誰なんだ。
久しぶりと言われたことから、こいつもプレイヤーだってことは判別つく。
だが記憶の中にこんな男はいない。
「何が? まあ、何も知らねえよな? 誰だって初めはそうだよ」
だからまあ、と男は間をおいて言葉を続ける。
「安心しろ、お前を保護しに来たんだから」
「は、あ?」
言ってる意味がわからなかった。
こいつはこの村を襲った盗賊だろう。
「おい、もっと喜べよ」
「叩きつ、けられて、蹴られて、喜べるわけ……ない、だろ」
「そりゃそうか! ハハッ!」
「ぐっ!」
次は顔を踏みつけられた。
踏みつけながら男は言う。
「後輩くんに言っといてやる。まず、先輩には敬語を使えよ?」
「は、あ? っていうか、村の、みんなは……」
「ああ、全員無事だぜ? よかったなヒーロー、テメェにまだ価値があるから生かしてんだ」
「全員? うそ、つけ」
何かの間違いだろ、こいつら、農家のおっさんを殺してたじゃないか。
「ああ、すまんな。俺の部下はよお、ちょっとばっかし血の気の多い連中ばっかりなんだわ」
俺の言葉の意味を理解したのか、眼帯をつけた男はそう言いながら笑っていた。
なんだ、この男。
ゲームによく似ているとしてもここは現実だぞ。
人ひとり殺しておいて、よく笑っていられるな。
「とりあえず面倒くせぇから簡潔に言うけど、これからテメェは俺たちの仲間だ」
「はあ!? この状況で、なると思ってるのか?」
こいつらの仲間になるくらいだったら死んだ方がマシだとも思った。
「あー、勘違いすんなよ?」
男の踏みつける力が強くなる。
「俺もテメェは反吐が出るほど嫌いなんだわ。だけど、しかたなーく引き取りに来てやったわけ。文句は言わせねえ、急がねえと面倒だからな? なんたって王国領からテメェのお仲間さんが来てるっぽいからよ」
「お仲間?」
「ハハッ、もうちょっと粘ってれば感動の再会もできたかも知れねぇのになあ?」
「まさか、あいつらが来てるのか!?」
「さあ知らねえよ? でもまあ、この世界にたった一人でやって来た〈異人〉だぜ、誰だってそりゃ、テメェの存在を疑うわな? まあ、北も同じように戦力出して来てかち合ってるみたいだから、今のうちに俺らがかっさらっていくわけだけどよ!」
男はそう言いながら俺の顔を何度もなんども踏み抜いた。
なぜかこいつは俺のHPがわかるらしく、ギリギリになったところで回復薬を使って傷を癒し、再び暴行を加えていた。
前タイトルの俺、こいつにいったい何をしたんだ。
「ああー、蹴るのも飽きてきたな」
「う、ぐ……」
打ちひしがれている振りをして、男が話す情報を少し頭の中で整理する。
考えうることは、国家間が〈異人〉の争奪戦をしている、ってことなのだろうか。
その予想が当たっているのかどうかはわからないが、そもそも俺はその対象じゃない。
マリアナと二人で来たわけなんだからな。
だが、それを告げると〈異人〉扱いであるマリアナにも被害が及んでしまう。
口を噤んでおくか。
「……とりあえず痛ぶるのも終わりにして、そろそろ連れて帰るか?」
「どこにだ」
「どこだっていいだろ? ほら、最後に挨拶でもしとけよ」
眼帯男の手から、ゴロゴロと俺の目の前に何かが転がされる。
「お、農家の……おっさん……? う、うあああああ!!!!」
「黙って聞いてたけどリーダー、流石にそりゃねえよ! ギャハハハ!!」
「ギャハッ! そこでそのオチかよ! ひっでぇなあっ!」
「リーダーギャグセンたけぇなおい! 傑作だぜ!!」
「こ、──この屑野郎共ッッ!!!」
周りで笑ってるやつらも、何がおかしいんだ。
こいつらがプレイヤーだとしたら、普通に現代社会を生きてた奴らだろ。
どこの紛争地域出身の奴らだよ。
頭おかしいだろ。
「お前らは逝かれてる!」
「なんとでも言えよ、つーか立場わかってんのか?」
「絶対仲間になんかならないからな! 死んだ方がマシだ!」
「ああん? 殺すぞ?」
「殺してみろよ! お前らみたいな最低の屑共の仲間になるくらいなら、舌を噛んででも、セーブポイントがなくなって【死地】に送られて転生した方がマシだ!」
怒りに任せてそう叫ぶと、眼帯の男は耳をほじりながら面倒臭そうにしていた。
「んだよ、そこは知ってんのかよ……ったく誰が教えたんだあ?」
そして周りを囲っていた仲間に「おい、連れてこい」と指示を出す。
すると、縛られたマリアナが髪を掴まれながら連れてこられた。
「マ、マスター!」
農家のおっさん……