17 - 立ち向かう覚悟
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード
ぶん投げられて、そしてゴロゴロ転がってきたのは男の頭部。
頬に見覚えのある傷があって、それがすぐに誰だか理解できる。
今朝、ちょうど世間話をしたばっかりの農家のおっさんだった。
「きゃあああ!! ハ、ハドソンさん!?」
「と、盗賊!? な、なんでこんな時に!?」
「嘘だろ、あのハドソンさんが……!!」
「逃げないと! み、みんな逃げろおおおお!!」
転がって来た生首を見て腰を抜かしていた村人は、なんとか立ち上がって村の方へ走って行く。
北側からはモンスターが南下して村に近づいてるっていう状況だが、もう誰も冷静に判断できないくらいパニックに陥っていた。
「なんだか勘のいいやつがいたっぽいから首投げたけどよぉ? あれでよかったのかぁ?」
「いいんだよ。リーダーは言ってただろ、先にビビらせたもん勝ちだってよ! こういう時は恐慌状態作ってバラバラになったところを一気に叩くんだよ!」
「ヒャハハハ!! でもまあ殺しはほどほどにしておけよぉー!! 変な農家の野郎はちょっと強くてついつい殺しちまったが、今回の目的は別だからなぁー!」
「目的は別でも略奪はオッケーなんだろ? まあ、できるだけ生かしとくけど、手元が狂ったらしょうがねえ!」
「ギャハハ、手元狂うやつだろそれ! つーか見ろよ! あのデケェ剣! スッゲェー!」
「方角的には帝国領か? まあ、誰だか知らんがおかげで俺らが一番乗りだ」
盗賊達の声が聞こえてくる。
……くそったれだな。
村の人たちはかなりパニックに陥っている状況で、俺は不思議と冷静だった。
「マリアナ……射撃できるか?」
「はい、可能です」
まっすぐ盗賊達を見据え、アイテムボックスから手斧を出しながら呟くと、マリアナはすでに自分の弓に矢をつがえて準備していた。
「マリアナ。本当は厄介なことが起こるかもって思って、すぐに逃げるつもりだったんだ」
予想していたよりもフラグの回収はずっと早かったが、それでもさっきまで村人に便乗して逃げる腹づもりでいた。
盗賊のことは想定しておらず驚いたが、俺は農家のおっさんからモンスター達の話を聞いて、どうにかしようと力になろうと考える以前に、最悪の事態を想定して安全圏へと避難するつもりだった。
「だから、こんなことを言うのはお門違いだと思うけど」
冷静に考えれば逃げる村人に混ざって、どこかで麦畑に飛び込んで、草の中で身を低くして息を殺していればやり過ごすことはできたかもしれない。
マリアナが死にかけた時に、自分の判断を色々と後悔した。
だから次はあんなことにならないように、自分たちが生き残ることを最優先にするつもりだった。
「もしかしたら負けて殺されるかもしれない」
逃げると、安全策を取ると自分で決めておいて。
こんな状況になったら考えを変えるだなんて、本当にお門違いだよな。
俺はまた選択肢を間違えてるんじゃないかもしれない。
でも、今ここで逃げたらまた後悔するんじゃないかと思った。
「それでも構わないなら」
「やりましょうマスター」
俺が言葉を言い切る前にマリアナは被せてきた。
「いいのか?」
「マスターの言うことには基本的に従いますが……あえて個人的なことを言わせていただきますと、こう言う状況を目の前にして、自分の安全をとって逃げることを選ぶような男は願い下げです」
「なるほど……なら願い下げされたくないからここは覚悟決める」
「それでこそ、マスターです」
そういって笑ったマリアナは改めていい女だなと思った。
どストライクの美人だし。
「ちなみに、覚悟とは子作りの覚悟ですか?」
「ちげーよ」
盗賊達が馬をかけさせて近づいてくる。
悩んでる時間はもうない。
殺されてしまった農家のおっさんのことを思うと胸が苦しくなるな。
この世界の人は死んだら戻ってこないってことを痛感させられた。
俺たちプレイヤー──〈異人〉──は、加護を持っていて死んでも生き返ることができる。
だったら、やることは決まってるじゃないか。
「マリアナ!」
「はい!」
マリアナの弓が、盗賊達の馬の脚に命中する。
かなりの耐久力を持った馬なのか、それともマリアナの攻撃力が低いのか。
それでも構わずかけてくる馬。
だが、マリアナは次から次に矢を放ち、正確に馬の右脚に命中させ盗賊の一人を馬ごと転倒させた。
何も言わなくても足である馬を狙ってくれてなによりなのだが……いかんせん命中しすぎじゃないか?
すごいな……普通に防御一辺倒しか今はできない俺よりも火力出てる。
っていうか昨日今日の練習で固定砲台として機能するってとんでもないと思うんだけど。
「め、めっちゃ当たるな」
「マスターが害虫駆除をしている間、一人で寂しく練習していましたからね。一人で寂しく練習というのは、弓もそうですが、とりあえず来るべき夜に備えて初y「マジかよ」の練習も……って被せないでください」
うるせーかぶせるに決まってんだろ。
真顔で弓を打ちながら下ネタいってんじゃねーよ。
ふざけてんのかふざけてないのか本気でわからん。
「それにしてもいくら練習したといっても、俺はここまで上手くなる自身はないぞ……」
マリアナから、スキルを使って弓を放っているような感じはしない。
ともにまだレベル4で狩人のスキルもフォーカス以外はないだろうし。
考えうることって、こういう射撃武器にはある程度のオートエイムが施されているのだが、果たしてこの現実を意識した世界にそんな機能やシステムはあるのだろうか?
一昨日の練習風景を見ていた時はオートエイムなんて発動している風には見えなかった。
ってことはプレイヤースキルになるんだが……。
「あ、そういえば昨日練習している時に、アビリティが解放されました」
「え!?」
「水魔導系のものかと思っていたんですが、どうやら私のアビリティは演算支援というものらしいです。アビリティ能力はあらゆるものを数値化し、それを元にした思考力を補助するような形ですね。フォーカスして得た視界を元に私の射撃の力や諸々を予測して、精度をあげることができています」
「……〈サポートロイド〉の機能に近いな……っていうかサポートオペレーションって名前はどこから?」
自分でつけたのかと思ったが、マリアナの答えは違った。
「発現時に勝手にステータスに表示されていましたよ?」