16 - 激動の三日目
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード
「外に出るぞ!」
「は、はい!」
地震の対策はよくわからないが、とりあえずマリアナの手を引いて外に出る。
もし建物が倒壊すれば、生き埋めになりかねないからだ。
「……な、なんだあれ……」
「剣……ですね……両手剣? なんにせよあの規模だとすれば神の剣にも思えます……アロンダイト? アシュケロン?」
「まーたマニアックな剣の名前を……いや、冷静に武器の種類を場合か!?」
帝国領の方角に目を向けると、どでかい両手剣が空に浮かんでいた。
剣の種類はわからないが、とにかくトンデモナイ代物だってことはわかる。
「豪快で愉快なオブジェですね……私の記憶ではこの近辺の空にあんなものはなかったはずですが……」
「愉快ではないが、あんなものがなかったのは俺も同感だ」
昨日も、一昨日も、北の空にはそんなでかい剣なんて存在していなかった。
地震で慌てて外に出て来た村人も、北の空に浮かぶ巨大な剣を見て言葉を失っている。
そして巨大な剣は、そのまま地面に向かって落下する。
──ドゴオォゥンッ!
「きゃー!!!」
「な、なんなんだ!!」
振り下ろされた衝撃で大地が揺れて、村の人たちが騒いでいた。
その剣が落とされた爆心地からは、辺境の村はかなり離れていると言うのに、強烈な風が吹く。
「地震の正体はあれか……」
「とんでもないですね……」
「本当だな……オルフェか……?」
一瞬だけ、異様な杖を片手に携えた、赤髪の女性を想像した。
だが、こんなことはまかり通るのだろうかと思う。
アビリティの力なのか、それとも相当強い職業についているのか知らない。
だけど、北と聞いて思い浮かぶのは彼女たった一人だけである。
「確かにオルフェ様は北に向かって行きましたけど、それは二日前のことですよ?」
「なんにせよ、ヤバイ状況は変わらない。予定を繰り上げて今から立つべきかな?」
「……マスターの優先順位に従います」
旅立ちの準備はすでに整っている。
予定ではできるだけ距離を稼ぐために、早朝から出る予定だったのだ。
何しろ旅立って二日目にはセーブポイントがない状況。
安全マージンを多めにとる手法としては、初日の日中にどこまで街まで近づけるかが鬼門になってくる。
聞いた話だと一日ほど歩いた中継地点に、誰でも使えるキャンプポイントがあるらしいし、日が暮れるまでにそこにたどり着きたいと思うのは普通だろう。
「早めに出た方がいいかな」
だが目の前の状況が状況だけに、すぐにでもこの村を出た方がいいと思った。
「わかりました、すぐに宿に戻って準備しましょう」
「うん、そうしよ──」
慌てる村人達には悪いが、ここでおさらばさせてもらおうとした。
その時である。
「た、たいへんだーーー!!! こ、この地震で、き、北の森にいるモンスターが大量に南下してきてる!!」
「そ、それは本当か!?」
「ああ、さっき一番足が速い狩人のリーフが息も絶え絶えに知らせてくれた!!」
「ええ!? それじゃ今、北周辺に狩りに出てるみんながいるってこと!? 大丈夫なの!?」
「そんなことより自分らの命が優先だろ! とりあえず避難しろ!」
「う、うあああ! この村はもうおしまいだ!!」
……まじかよ。
なんというか恐れていたことが、突発的に差し迫った感がある。
ちょうど今朝、聞いた話なのに、フラグ回収早すぎるだろ。
(やっぱりハードモードは続いているのか……?)
俺が唖然としている間に、
「マスター、荷物は私がアイテムボックスにすべて収納してきました」
マリアナは宿に戻って逃げる準備を整えてきていたようだ。
「お、おお……」
さすがですマリアナさん、俺にそんなアドリブできません。
「村の人たちに混ざって避難しましょう!」
「そうだな!」
普通、こういったモンスタースタンピードイベントはそれなりに危険が伴うが生き残れればかなりの経験値を獲得できる。
見返りはかなりいいイベントで、前のタイトルでは暴動が起きた場合はこぞって狩りに赴くプレイヤーが大勢いた。
もう少し強ければ、なんとか対応してレベル上げの足しにしたいとも思う。
だが、結局は未だレベルが低いことが原因で、俺たちはただ逃げることしか選択できない。
「さあ、走りましょう!」
「うん」
今度は俺がマリアナに手を引かれる形で駆け出す。
村の南へ。
農地がある方へと。
そして村人達の避難の流れに合わせてあぜ道を走っていると、道の向こうから、今度は馬に乗った集団が近づいてきているのが遠くに見えた。
村人の誰かが言う。
「冒険者ギルドのハンターが助けに来てくれたのか!?」
「よかったあ……」
「助かる、助かるよ!」
どんどん近づいてくる集団を見ながら、周りは安心したように息をついている。
走っているのが体に堪えたのか、座り込む人も。
そんな中、ふと一つ思った。
あれは……本当に冒険者なのか?
農家のおっさんは、依頼しても大きなタイムラグがあると言っていた。
ならば、誰かが依頼したのかって話になるのだが、依頼するほど村にひどい被害はないみたいだし、それにここ三日間はモンスターの出現があまり見られなかったって話だ。
「……マリアナ」
「はい、なんでしょうか?」
「あの集団にフォーカスして見てくれ」
「いったいどうされたんですか?」
「すまん、あれが本当に冒険者かどうか気になってね」
「なるほど、わかりました」
俺の言うことを聞いて、マリアナはすぐにフォーカスを使ってくれる。
狩人の職業効果で目は良くなっている上に、ぐっと遠くのものを見るためのスキルだ。
かなり遠い距離だが問題なく見えるだろう。
「……マスター、そもそも冒険者か、そうでないかの違いがわからないんですが」
「うん」
「モヒカンに肩パッドは、明らかにならず者って感じですよね?」
「……………うん?」
ごめん、話が全くわからん。
フォーカスで見たままを伝えているのだと思うんだけど、モヒカンに肩パッド?
どこの世紀末だそれ。
「──ッ!?」
急にマリアナの表情が変わる。
「どうした!?」
「明らかに違います。彼ら、生首を手に持っていました……盗賊か何かでしょうか?」
「盗賊……」
なんか聞いたことあるぞ。
この村に最初に来た時に、なんだかそんな世間話を商店でやってたような……やってなかったような。
いや、おばさんが話していた、確実に話していた!
「みんな、あれは冒険者じゃない!! 盗賊だよ!! 盗賊!!」
そう叫んだその時、馬に乗った集団の一人が俺たちに何かを投げた。
ちょうどそれは俺の目の前に飛んできて、ゴロゴロと転がってくる。
「──それはっ!?」
「お、おっさん!!!!」
「なんだか勘のいいやつがいたっぽいから首投げたけどよぉ? あれでよかったのかぁ?」
「いいんだよ、リーダーは言ってただろ、先にビビらせたもん勝ちだってよ!」
「ヒャハハハ!! でもまあ殺しはほどほどにしておけよぉー!! 今回の目的は別だからなぁー!」
ためて一気にドン。