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廃人ゲーマーとラスボス後の世界  作者: tera
第一章 - 旧友との再会
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15 - しょっぱいスープ

■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード


 村長宅で報酬を貰ってから、一度間借りしている民宿へと戻ってきた。

 ちなみに、二日目以降の民宿の費用が払えなかったんだが、害虫駆除を請け負っていることが伝わっており、快く部屋を貸してくれたのである。


 村人さん達、本当にいい人。

 なんだかんだ、こうやってうまい具合にデスペナせずに乗り切れているのは幸先よかった。


 それにしても宿代、マリアナと俺の食事代を引いても手元に95KS残る。

 だいたい農家の手伝いして一日こき使われると7KSほどが賃金だと言われていたので、週6のバイトを2週間続けた時と同じ感じになるのだろうか?


 そう考えると、100KSはなかなかに高い報酬だった。

 もともと三日くらいかけてと言っていたが、少し頑張って一日半で終わらせたので色をつけて貰っている。

 農家の人も面倒な害虫駆除をちまちまやらずに済むから、お互いウィンウィンだと言えるだろう。


「おかえりなさいマスター」


 部屋のドアを開けると、四畳半くらいの小さな部屋のベッドにマリアナが座って待ってくれていた。


「ただいま」


「そろそろ帰って来る頃かと思っていましたので、厨房を借りてちょっとしたお食事を作ってみました」


 部屋に備え付けのものはベッドと小さな机のみ。

 クローゼットはなく、壁に洋服をかけておくようのフックが四つほど取り付けてある。

 質素な部屋だが、一人用の部屋だし安いから仕方がない。


 マリアナはアイテムボックスから机の上にスープの入った器を出した。

 アイテムボックスに時間停止効果はないので、湯気が少し立っているところを見るにできたてっぽい。

 野菜やらジャガイモとベーコンの入った簡単なスープだ。


「一人で作ったの?」


「はい、オルフェ様から少しだけご教授いただきましたので」


「すごいな、いただきます」


 俺も椅子に座って、マリアナはベッドに座って、二人でスープを味わう。

 口に含むと、少ししょっぱかった。


「……しょっぱいですね」


 マリアナも顔をしかめていた。


「そもそも味見はしたのか?」


「あっ、失念しておりました。そうか、味を確認しながら調理をすれば……でもそれだとマスターより多く食べることになって、っていうか体重が増えてしまいかねないし、由々しき事態です。むむむむ……」


 何やら悩むマリアナ。

 体重が気になるなら、味見の分食事自体の量を減らせばいいだろうに。


「まあ……初めてだから仕方ないんじゃない? これから上手くなっていけばいいさ」


「はい、メシマズ嫁は家庭の恥ですので精進します」


 そもそも全くやったことないわりに、ここまで作れるのはすごいと思う。

 カップ麺とか出来合いの物ばかり食べてた俺は料理なんかできない。


「フフ、こうして食事を共にするのは珍しくもないんですが、なんだか何もない質素な部屋で二人で質素な食事を取るなんて……駆け落ちした若い新婚夫婦って感じがしませんか? しますよね? します」


「なんで質問なのに最後断言してんだよ」


「あ、マスターマスター」


「なんだ?」


 マリアナの言葉をさらりと流してスープを食べていると、急に目をつぶったマリアナが口を開けて顔を近づけてきた。


「えっ……」


「あーん、というものを味わってみたく」


「ああ……ほい、あーん」


 別にそれくらいはしてやらんでもない。

 健全なのはオールオッケーです。


「ふおお、不思議です。全くしょっぱくなくなりました。マスターの唾えk──」


「雰囲気ぶっ壊すなよ」


 健全じゃなくなる。

 いちいちそういうことを言わなければもっとこう……俺も進展してもいいと思うのだが、そういう言動があるせいか、どうしてもアンドロイドの時に心臓部分を作ったウィンストンがちらついてあかん気持ちになる。


「もっと慎ましやかにしてくれ」


「十分慎ましやかではないでしょうか?」


「どこがだ!」


 慎ましやかな女の子はよだれ垂らしてうっとりしません。

 そして人の唾液を味わったりもしない。

 ましてやそれで味が変わるなんて……健全がいいです!


「とりあえず、資金もできたから今日中に色々と準備をして、明日には街へ向かうぞ」


「異世界農村暮らしも、三日でおしまいですか」


「そうだな。この村はいい村だけど、ここでずっとスローライフをするわけにもいかないだろ?」


「私としてはマスターとずっと静かに暮らして行くのは大アリです」


「それはレベルが上がってやることがなくなってからにしよう」


「いいんですか?」


「うん、別にそれは構わんけど」


「よしっ、私はできれば子供が五人くらいいても十分な一戸建てと家族で遊べる大きな庭が欲しいです!」


「早い早い早い! 話が飛躍しすぎだ!」


 帰る方法がわからない以上、永住も考えないといけないから、どこか腰を落ち着ける場所を探すのはいい。

 だが、流石に子供はどうなるかわからん、そもそもプレイヤーが作れるのか謎である。

 それを言うと、試してみるしかないと言い出しかねないので言わないけど。

 とりあえず興奮するマリアナの話を逸らすために話題を帰る。


「まずは所属国家を決めに、この国の首都を目指さなきゃいけない」


「そうですね」


「とりあえず諸々のことはそれを終わらせてから考えよう。まだ所属が決まっていない状況だぞ? 俺たちはまだスタートラインにも立ててないし、チュートリアルも終わってないって微妙な感じなんだから、まずはそこからやってこうぜ」


「なんだか妙に強引に話をはぐらかされてしまった気がしますが、まあいいでしょう」


「……強引にへんな方向に話を持って行くやつに言われたくないんだが」


 ごほんっ、と咳払いして話を戻す。


「近場の街までも歩いて三日かかる。無所属だと24時間でセーブポイントは消えて、俺たちは死んだ瞬間にアウト。だからしっかり準備を整えないとな」


「行商馬車では1日ですよね? 待ってみるのはどうですか?」


「いや、それが来るのはもうちょい先らしいから、歩きで行くぞ」


 行商馬車は各地の村を巡回してるらしく、とてもじゃないが相乗りとかをさせてもらえるものではないと聞いた。

 そりゃそうだな。

 護衛に使えるかと問われれば、俺たちは二人揃って下位職業レベル4のペーペーだし、まだまともに戦闘も行なっていないから、どうお願いしても渋られてしまうだろう。


 それに。

 モンスターがここ2ヶ月国境沿いの森から村に姿を現しているという、あまりよろしくない話を農家のおっさんから聞いた。

 少し非情な判断かもしれないが、面倒なことが起こる前にこの村を出て行くほうがいいだろう。

 マリアナにはこの件は言わないでおく。


(余計な心配をかけたくもないしな)


 俺は心の中でそうひとりごちると、マリアナの作ってくれたスープを飲み干した。


 その時。

 ーーゴゴゴゴゴゴゴ!!!


「うわ!?」


「じ、地震です!?」


 重たい地鳴りと共に、木造家屋が大きく揺れた。


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