2 - 最終決戦2
■エンドコンテンツ/最果ての地/【双極】:闇
「《アビスゲート》《ネクロ》《デモン》」
暗黒門を開き、死霊と悪魔の軍勢を召喚する。
「お返しだ」
MPを大量につぎ込んで召喚した死霊と悪魔の総数は五千。
それを最果てのボスに一気に嗾けた。
ボスの本体出現中は、雑魚敵の召喚速度が十分の一になる。
一度俺に消し飛ばされてから随時召喚されていた雑魚なんぞ、一瞬にして飲み込まれた。
『マスター、最果てボスには上級以下のスキルを仕様不可にし、上級以下の職業を即死する結界が張られていると思うのですが……?』
消し飛んだ左腕の止血を行なっていたマリアナが俺の召喚した軍勢を見ながらそう尋ねた。
「あいつら、一体一体が特別級以上だってことだよ」
『なるほど』
部位欠損とともにHPが大きく減少、それに伴って、闇属性の魔法スキルの攻撃力強化が進む。
HPが半減すれば光属性と同じ攻撃力を持ち、そこからどんどん伸びていき、さらに消費MPとスキル効果コストパフォーマンスが良くなっていくのが強みだ。
便利な光属性を捨て、とことん攻撃に振り切っていく。
だがそれ以上に闇属性の利点は召喚した死霊や悪魔にもその強化が適応されるのだ。
まさに、数の暴力。
苦労して【双極】取ってよかったと心の底から思う。
『さすがは、大器晩成型の……唯一職です』
「苦労したよ……、でもさらに強い職業が道の先にあるとしたら狙うしかないだろ? おかげでみんなから大きく出遅れてしまったけどな!」
この光と闇を扱う魔術職【双極】が大器晩成型だと言われる所以。
それは下級職である【双術師】につくための大前提が明らかに厳しいものだったからだ。
まず基本五属性と呼ばれる魔法職を特別職まで上げなければいけない時点ですごく面倒臭い。
もともと【五元師】と呼ばれる五属性を扱う特別級唯一職についていた俺でも、その前提解放後、特別職を捨て、唯一職を得てさらにレベルカンストの域に達するまでに半年かかった。
だから、廃人連中と一緒に最果てクエストをできなかったのだ。
「《ダークネス》《ヘルフレイム》」
究極スキルに用意されているのは《アビスゲート》と《ネクロ》《デモン》しかないので、攻撃は特別級スキルの《ヘルフレイム》を用いることになる。
同じく特別級補助スキルの《ダークネス》を用いることで、《ヘルフレイム》の威力強化、さらには攻撃回数の増加を図ることが可能だ。
『相反する二つの属性を扱う……まさに中二職ですね、痛い痛い』
「……なんでそんな言葉知ってんだ?」
『設計主の趣味です』
「あっそう」
気を取り直して。
破壊し尽くされるまで止まらない死の軍勢と幾柱もの悪魔公率いる魔の軍勢を従えて、砲撃までのクールタイムを過ごす鈍色の鈍チンに総攻撃を仕掛ける。
『気をつけてください、反撃の兆候があります』
「詳しくわかるか?」
『データベースを参照すると、HPが八割になった時点で無数の触手が出現し自動迎撃に入り、HPの低下とともに触手の数が増え、威力向上します。そしてそれ以降についてはHP半損に至った時点で巨大な爆発とともに“中身”が出現します』
「わかった、一気に“中身”まで行くぞ」
依然として落下物は振り続けている。
当たればほぼ即死だが、何かにぶつかればダメージ算出とともに消えていくので、死霊と悪魔の肉壁によってなんとかなる。
HP減少による自動迎撃も、近場で再生しながら粘る死霊達が陽動することで、悪魔と俺の攻撃が容赦無くヒットする。
だが、問題はここからだ。
『このペースだとHP半損まで、残り5秒……4、3、2──“中身”が姿を表します!』
「マリアナ! 御鏡の玉杖!」
『はい!』
自動迎撃の触手が引いていき、鈍色の球体が脈打ちながら収縮する。
そして一度だけ大きく脈打つと、球体内部に溜め込んだ全ての魔力を解放するように爆発した。
近くにいた死霊と悪魔が飲み込まれ、消し飛んでいく。
その渦中、マリアナに持たせていた装備を一つ《換装》してもらうと、武器の固有スキルを発動させる。
「《依鏡代理》」
御鏡の玉杖──天獄の宴(通称ヘブンズクエスト)をソロ達成した時に得たものだ。
固有スキル《依鏡代理》の効果は、受けたダメージをスキルによって出現した鏡が請け負い回避する。
そしてもう一つある固有スキルによって、指定した攻撃時にそのダメージを加算させる。
鏡が出現し、俺とマリアナを飲み込もうとしていた爆発の衝撃を吸収していく。
正直、これでダメだったら色々と後手に回りそうだったが、さすがは天獄の最上位アイテム。
しかと俺とマリアナを守りきっていた。
『中身、出現しました。HP、MPともに全回復。そして落下物と召喚獣の増加を確認』
最果てのボスは、HPが半減するの巨大な爆発を伴って鈍色の球体から中身を解き放つ。
繭から羽化したばかりの蝶のように、優雅に羽を広げる終末の女神。
最果てに挑んでギリギリで負けたランカーのブログにそんな表現が書いてあった。
「はは……すっげ」
同感、としか言い表せない。
確か世界樹の女神がこの世界を見限り、別次元へと移行するために顕現したという設定だったな。
女体の体の足部分は大樹のように最果ての大地にしっかり根ざし、それでも抗って宇宙を目指すように羽化した女神は羽ばたこうとしている。
『悠長に見とれている場合ではないのでは?』
「そうだった」
誘惑効果でもあるのだろうか、これに見とれて中身が振りまく《死の鱗粉》によってデスるプレイヤーがわんさかいたらしい。
『それにしても……どう倒しますか? 闇属性究極魔法スキルの使用で、私のMP残存も少なくなってきましたよ?』
支援型は状況分析に従って作戦を提案してくれるもんなのだが……最果てクエストのボスソロ討伐ともなれば、許容範囲になるらしい。
さっきから、色々慌てたり、聞いたり、驚いたり、可愛いやつだと思った。
「勝機はある」
俺はそう言いながら首に装備していた〈獄門の首輪〉を外した。
先に討伐を終えた廃人連中もあの手この手で乗り切ってきたんだろう。
それこそ、初回討伐は前段階での情報がない。
状況は俺よりも緊迫していたはずだ。
だから俺も、出し惜しみなく全てをかけてソロ討伐を達成させてやろうと誓った。
『それは……』
『マリアナにはまだ見せたことがなかったな、混沌スキル』
俺の職業である【双極】の特別職から解放される第三のスキルカテゴリー。
光属性と闇属性、二つの効果を持つ魔法スキルを扱える職業であるが、特別職から光と闇を足した混沌スキルというものを扱うことができるのだ。
『すっごい中二!』
「黙って見とけよ……」
確かに中二だ。
この職業は、中二が考えたすごーい技みたいなスキルばかりなのだが、威力はお墨付きだということを証明しよう。
俺は首輪の固有スキルを使用した。
「《獄女王・召喚》──代償は、限界域までのHP」
HPが一気に代償限界点である1まで持っていかれる。
そして、地面が音を立てて割れていき、中からメリハリのある妖艶な灰色の肌に黒髪を持った美女──【獄女王】が姿を現した。
「小僧……たったこれっぽっちの代償で我を呼び出すとは……」
「すまんって」
「……問答無用」
有無を言わさず俺を殺す気でいるヘルメア。
「やっぱりこうなるか」
サモニング系統のスキルでは、代償が不相応だと召喚主であるプレイヤーがデスペナに追い込まれることも多々ある。
今回、捧げた代償は限界点までのHP。
これがHPを多く保有する耐久型の職であれば受け入れられたのだろうが……俺の場合は魔法職特有の少ないHPで、さらに部位欠損ダメージによって大きく目減りしたものだった。
『そりゃブサイク女王も怒るのはわかりますが、今は決戦中なので黙って観戦していてください』
目を赤く光らせ、鋭い爪を伸ばしたヘルメアは、俺の心臓めがけて腕を伸ばす。
だが、すんでのところでマリアナが杖を構えてそれを阻止した。
「な、仲良くな?」
獄門の首輪と手に入れ、この獄女王と契約を結んでからというもの。
キーポイントで召喚するたんびにこうやっていがみ合いが起こっている。
こんなところで油を売ってる場合じゃないんだけどなあ。
毎秒100体ペースになった召喚獣とか、遥かに巨大になった落下物とか、とんでもない状況が続いているのに。
そもそも羽化の硬直から【最果て】がそろそろアクティブになるんだが……。
「魂のない……機会人形崩れが……む?」
ここでヘルメアがようやく【最果て】の存在に気づいた。
「……小僧、なおのことたったこれだけの代償じゃ我の役目は務まらんぞ」
やっかいな呼び方をしてくれたものだ、とヘルメアはため息をついていた。
「いや今回呼び出したのは、助太刀してもらうためじゃない」
「なに?」
地獄の首輪の固有スキルを使用した理由は、HPを1にしたかったからだ。
HPの減少に伴って光属性から闇属性に移り変わる【双極】の真価とも言える混沌状態は、HPを1にして初めて使えるというとんでもなく面倒くさい仕様なのである。
混沌状態の持続時間は30秒。
だが、その間の性能は俺が思うにゲーム中最強と言ってもいい。
「これでケリをつけてやる──《堕天降臨》《混沌の剣》」
プロローグちょっとばっかし長いです。
趣味とノリの特産品。