7 - アビリティについて
■国境沿い/アルヴェイの森/無職:ユウ=フォーワード
「そういえば、あれはなんですか?」
三人分の食事が完成して、食べようかとなったところで。
マリアナがそこまで遠くない位置に存在する盛り上がった地面を指差した。
オルフェがレッドオーガを倒した時にできた小山である。
そういえばマリアナは気を失っていたからオルフェに助け出された時の状況を知らないのだ。
「レッドオーガに叩き潰されそうになった俺たちをオルフェが助けた後の残骸……?」
「なぜ疑問形なのですか、マスター」
正直、俺もどう答えたらいいかわからなかったからである。
なんだろうな、ありのままを造語にすると……。
「レッドオーガの古墳?」
「プッハハッ! 君はなかなかユーモアに溢れた“良い男”だね!」
なぜかそれを作った張本人が笑い始めた。
ツボに入ったのだろうか。
「あれは放置してて大丈夫だよ、うん」
「そうなんだ。なら時間経過で地形復元する感じなのかな」
前のタイトルでは、こういった地殻変動規模の大戦闘が起こった際。
起こした張本人自らが直すか、もしくはお金を払ってAIが雇い入れたNPCやプレイヤーを総動員させてみんなで戻すのが通例だった。
良いバイト代が入るってことで、運営の公共事業みたいな扱いになっていたし、それを専門的に斡旋するクランとかがゼネコンを名乗り出ることにまで発展し、受注争いが起こり出したりした。
「いや、戻らないよ? 向こうは帝国領だし、戻す気もさらさらないね」
「そ、そうなんだ」
なんだか言い方が急にきつくなったのでこれ以上聞くのは止めておく。
帝国に恨みでもあるのだろうか。そもそも帝国知らないけど。
「むー……」
そんなやりとりを見ていたマリアナが、若干頬を膨らませていた。
「花嫁師匠……助けていただいたことには感謝をしていますが、勝手にフラグ立てないでください。私のです」
「ああ、ごめんごめん。確かに君たちのピンチを助けたっていうフラグが立ってるかもしれないけど。立ってるフラグの相手は君たち二人だし……お生憎様、彼は君一筋っぽいから心配しなくて良いよ」
「ほう……やはりマスターに全てを任せて共闘した結果があったのですね。助けが来るまで、マスターはなんとかあのレッドオーガの相手をしたと」
……レッドオーガの相手をしたというか。
「いや実際のところ、俺は何もできなかったよ。マジで」
奇跡的にアビリティが発現したとしても、状況的には摘んでいた。
アビリティの使い方に慣れておらず、ミスして死にかけていたしな。
「期待はずれだが、オルフェが助けてくれなかったらやられてた……情けないことにな」
「まあまあマスター、そんなに気を落とさないでください。逆に情けないところも良いですよ? 俗物的なところも、変に格好つけるところも、全部含めて私のマスターです」
「四面楚歌だな!」
だが、割と何もできなかった事実が色々と心にきていたので、こうしてさらりと受け止めて冗談で返してくれるマリアナには本当に助かっている。
それを言うとなんかそれを理由に色々からかわれかねないから絶対に言わないけど。
「いや……あのタイミングでアビリティが発現したんだから、守りたいって気持ちは本物だよ」
「そうなんですね。と思わず私は頬を染めて両手で押さえます。ぽっ」
ぽっ、じゃないんだが。
一人しきりふざけて体をくねらせていたマリアナは、唐突に真顔に戻る。
「気になっていたんですが、アビリティとはなんですか?」
「温度差が激しい奴だなほんと……ってか、マリアナには発現してないのか?」
「ステータスを確認しても、項目に変化はありませんね」
「マジか」
時間経過とともに発動するものだったら、俺と一緒に行動してきたマリアナにも発現してしかるべきだとは思う。
気を失ってから発動しませんでしたはおかしい話だ。
「ああ、個人差があるんだよ。時間経過後に何かしらのきっかけがあれば発現するんだけど、その切っ掛けが掴めずになかなか発現しなかった人も多いからね」
「へぇ……」
「恋愛師匠なら、すぐに発現すると思うよ? アビリティは前の職業スキルの情報も含まれるけど、結局のところ本人の内面に大きく依存した形になるから……どんなアビリティか楽しみだね」
そうなのか、だったら俺のアビリティは強く守りたいって願ったからかな?
だったら光属性ではなく闇属性も発現してないとおかしい。
ステージ1と表記されているから、段階があるのだろうか?
聞いてみるか。
「ちなみにオルフェ、アビリティがステージ表記されているのはどういうこと?」
「それはだね、アビリティはステージによって能力の強化が行われるからかな。現時点で確認されてるステージは5が最高ってことになってるよ」
「へえ……」
職業レベルとかとはまた別の代物なのか。
でも、かなり使えるな。
スキルとはまた別のくくりでその人オリジナルの能力ってことだろう?
俺は思ったね、アビリティを制すものはこのゲームを制す。
「できれば、ステージの効率的な上げ方なんかがあったら教えて欲しい」
「それはまだわかってないよ」
要望はバッサリと切り捨てられた。
「どこで、どうして、どうやってステージが上昇するのかはわからない。一説には……いや、それを見つけて行くのは自分次第になるから、下手に教えられても意味ないと思う。だから秘密だよ?」
「そっか……まあ自分で攻略して行くのも楽しいからいいか」
「うん、君ならきっと大丈夫だよ」
何が大丈夫なのかはわからないけどな。
もう一つ聞いてみる。
「ちなみにオルフェのアビリティって、今ステージどれくらい?」
「ハハッ、それも秘密かな! 私がアビリティを教えてもいい人は、結婚相手くらいだからね」
「なるほど」
誤魔化してはいるが、これは安易に教えてない方がいいってことなのだろう。
今後は俺もそうしていこうかな。
「結婚するなら教えてもいいよ」
「へ?」
「ダメです!!!!!!!!!」
うわっ、耳元でうるさっ。
マリアナが血相を変えていた。
「ハハハッ、冗談だよ。横恋慕はしないタイプだからさ」
「本当に冗談が過ぎますよ花嫁師匠。でも、実際にどうしても好きになってしまった人にすでに彼氏がいた場合はどうするんですか?」
「うーん、その相手と戦うかなあ?」
物騒だなおい……。
まあいいや、とりあえずマリアナにも仲良くなれそうな女友達ができたみたいだし、このまま二人に話してもらってる間にちょっとログアウトしてトイレとご飯を食べちゃおうと思った。
いまだにログアウトできないんだが、先にプレイしているオルフェがいるんだし、そのあたりも教えてくれるだろう。
「あ、ちょっと二人で話してていいんだけど……その間に俺ログアウトしてもいいかな? それでちょっとオルフェ、いまだにログアウトできないんだけど、どうやったらいいか教えてもらえない?」
そう尋ねると、オルフェは真顔で、
「あっ、ログアウトはできないよ。ごめんごめん、説明するの忘れてたね」
そしてとんでもないことを言う。
「──ここ異世界だから」
いまだにしっくりくるタイトルがないのです。