2 - スタートライン
■アルヴェイの森/木樵小屋/無職:ユウ=フォーワード
さて、改めて今後どうするかを検討する。
「街がスタート地点ではないのが少し不便ではありますが、着の身着のままフィールドに投げ出されるよりも、こうして何かしらの物資がある小屋からスタートできたことはありがたいですね」
「そうだな」
マリアナの言葉に頷く。
エンドロールに書いてあった通り、服装は上下簡単な麻製の服。(パンツは履いているがブラがないらしく、突起率と乳揺れ率がともに100%上昇している気がしないでもない)
腰には革製の剣帯に収まった一本のナイフ。
ゲームのスタートラインにしては、明らかに物足りない状況だった。
エンドロールにあった追加コンテンツのゲーム説明では、自分の力でなんとかしろみたいなことが書かれていたが、それを踏まえると、なんとなくサバイバルっぽいこの状況では、マリアナの言う通り武器や食料などを手に入れることができたのは実に運が良かったと言える。
「っていうか、そもそも情報量少なすぎるだろ!」
しかもまだバグが続いているのか、それともこれがチュートリアルなのかわからないが、いまだにメインメニューやらGMコールやらは存在せずログアウト不可能の状況が続いている。
確かに世の中にはチュートリアルをクリアしなければメニュー機能が使えないと言う不親切設計なVRRPGゲームも存在するが、さすがにログアウトができないってどう言うことなのだろうか。
「ではマスター、とりあえずここを拠点に探索でしょうか?」
「いや、どこか街を目指したほうがいい」
マリアナの問いかけに首を横に振る。
「とりあえずログイン地点から街へ向かうことがチュートリアルの達成条件かもしれない」
メニュー操作が使えないのに、ステータスやらアイテムボックスを見ることは可能。
だから、バグの可能性は捨てて、この状況がチュートリアルであると判断した。
「なるほど……ではこの森をあてもなく彷徨うのですか?」
木枠の窓から外の鬱蒼とした森を眺めるマリアナ。
「一応だけどさ、〈サポートロイド〉の機能は使える?」
「無理です」
「だよなあ」
鑑定計測系はアンドロイドの標準搭載機能である。
マリアナみたいな〈サポートロイド〉は、それがさらに広範囲かつ高性能になっているのだが、今はもうアンドロイドではなく、俺と同じようなプレイヤーの立ち位置。
使えなくなっているのはしょうがなかった。
しかし、これは地味に痛いな。
俺は思考表示でステータスを呼び出す。
ユウ・フォーワード
メイン職業:無職 Lv0(合計値0)
その他職業:無職
アビリティ:なし
HP:100
MP:100
STR;10
VIT:10
DEX:10
AGI:10
MND:10
俺とマリアナはお互いに無職という立ち位置。
ゲームを開始したばかりだから当たり前だな。
職業の後にレベルと括弧書きで合計値、そしてその下にその他職業という項目があることから、前タイトルの時と同じように職業レベルをあげてステータスやスキルを補い増やして行くタイプだということがわかる。
「無職でどうしようもない状況なんだから、こんなところにいるより一刻も早く職業につけそうな場所を探すのが先決だ」
ここが木樵小屋なら、人が使っていた道も必ずあるはずだしな。
「……この、アビリティというのはなんなのでしょうか?」
俺と同じように、マリアナも自分のステータス画面を見ていたようだ。
じっとベットの端に座り、虚空に向かって視線がキョロキョロと動いているのを見るに、他人のステータス画面は見れないらしい。
「確か追加コンテンツの説明には……前タイトルで保有していたメイン職業とスキルがリセットされ、新たにアビリティとして生まれ変わる……と書かれていたことを覚えています」
「うん、確かにそんな感じだった」
それでいくならば俺のアビリティは【双極】由来の物になる予定だ。
これって、前タイトルで【唯一職】を持っていた奴らが有利だな。
基本的には【特別職】と【唯一職】の主だったステータス補正性能はあまり変わらないと言われていたけど、それでも【唯一職】はある種特化型の極めて前提的なスキルを持っていたりと、明らかな差は存在していた。
だから、みんな無数にある隠された【唯一職】を探し求めてプレイしていた、なんてこともあった訳だし。
「前のスキルが元になるのでしたら、すでにアビリティが存在していないとおかしいのですが……」
「解放条件があるんだろ……まったく、それも含めて自分で考えろって……とことん意地悪な運営だな」
ステータスとか職業とか、なんとなく前タイトルを引き継いでいる節がある。
だから、パッと理解できるのだが……さすがに新項目のアビリティとかは何かしらの説明でも付け加えてもらえないと、全くもってわからない。
そもそも攻撃スキルみたいなものなのか、補助スキルみたいなものなのか。
パッシブなのか、アクティブなのか、なんなのか。
まあいいや、
「とりあえず……行こうぜマリアナ」
俺はそういって小屋にあった物をアイテムボックスに放り込むと、マリアナに手を差し伸べる。
ここでグダグダ悩んでいても始まらない。
とりあえず先に進んでみるのが、こういうチュートリアルを終わらせる鍵だからな。
「はい」
握り返して来たマリアナの手は暖かかった。
不親切設計も甚だしいが、いたしかたない。
現実感をモットーにしているならば、こういう始まり方もありっちゃありだしな。
さ、チュートリアル終わらせて冒険だ。
夕方〜夜の時間帯にも、もう一本更新いたしますね。
ここまで読んでいただいた方に、厚く御礼申し上げます。
(ちなみに異世界はノーブラなのかと言われれば、そうではないです)