28 防衛戦
警備部にあてがわれた襲撃先の一つを、風恋ちはりは最前面で見張っていた。
アクセルバンドをつけ、パワードスーツなど、可能な限りの装備を身に着けていた。
やがて来たのは、旧時代の戦車や大型車の軍勢だった。敵はロボットではなかったのかと、警備部のだれもが戸惑った。
しかし、ロボットであれ人であれ、破壊されてはならないことに変わりはない。
戦車からの砲撃が開始され、その直撃をうけて施設の外壁が壊される。
「行きます!」
風恋ちはりは、迷っている余裕はなかった、経緯はわからないが、相手が人間でも、全力で無力化するだけだ。
アクセルバンドを起動すると、世界はゆっくりとした動きになる。
パワードスーツの補助を受けつつ最小の操作でもって、あらかじめ備えられた4丁の自動装てん式のロングレンジの対物ライフルをつぎつぎに使い、攻撃目標を打ち抜いていく。
それは、大型車の側面から顔を出した男、車の天井につけられたコンテナミサイル、脆弱な個所を的確につぎつぎと圧倒し、敵の先頭を足止めすることに成功した。
そうして、あいての出鼻をくじきつつ、複数の武装を背中に背負い、搭載されたロケットエンジンでもって、弾丸の雨の中をスレスレに突っ込んでいく。
現実で、人を殺めたのは初めてだった。だが、現実の肉体であれ仮想であれ、脳内で生成されたアドレナリンがそんなことをわきに追いやった。思考は、1つのゴールに集約される。
襲撃者たちの大型車一台にまで接近をはたしながら。その扉を銃でこじ開けつつ、扉に近づいたころには中の人たちを的確にヘッドショットしていく。
相手の持っていた武器の一部を押収し、荷台に手りゅう弾を投擲する。次の瞬間には荷台の事はメインの思考からははずれ、サブの頭脳の1つが警戒し、アクセルバントはその能力をいかんなく発揮していた。
防衛場所から遠いところで、一方的な乱戦をはじめていく。あとは、淡々とした、宝箱のない掃討戦に移行した。
別の仲間は、戦車側の対処をしていた。
まだわからないが、そう簡単にこの地点は負けることはないだろう。
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人里から少し離れた、ナインズの襲撃目標の1つに、人型の2号はバイク型の3号にまたがり接近する。
接近を感知したAIが警告を発するが、それを無視し、3号は側面のロケットを全て撃ち放ち、不要となったパーツをパージする。
8つのロケットは小型のロケットをそれぞれ4つ内蔵し、さらに分割されて建物へと向かっていく。
その先で、二体のロボットが大きく跳躍し、尋常ではない速さでもって、重火器でロケットの雨を打ち抜き無効化していく。
それは二体のロニだった。うしろには、もう3体が狙撃によってナインズを牽制する。
そう、私はそもそもコピーなのだから、コピーすることは可能だったのだ。
だが、私にとって、同じロボットの私を作ることは、なによりも忌避する行為であった。しかし、それよりも怒りが上回った。
この戦場には5人の私がいる。しかも、私も含め脳の処理速度を10倍に加速することができ、そしてアクセルバンドの応用で、各個体には中心となる1つの脳のほかに9つの脳が付随し、連携し、高速で的確な判断と、身体制御行うことができるのだった。
たかだか、2体のロボットあいてにロニは負ける気はしなかった。
残りの場所にもロニが5人配置されており、その結果は同様となるだろう。
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5つのうち、4つの地点は襲撃から守られた。つまり、勝利したのである。
鉄くずとなったナインズをこれでもかと粉砕したロニは、他のロニ達も集め、白髪の男が運転する大型トラックでその場から離脱した。




