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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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27 怒りのゆくえ

ロニは驚いていた、テロに備えた残りの工作を守親に手伝ってもらっているのだが、その精度と速度、そして学習速度は驚異的だ。


昔、師匠が作っていたアンドロイド用の右腕を取り付けた守親は、見る見るうちに作業を終わらせていく。


ハードウェア型の頭脳をもったロボットである彼は、本来の性能を発揮していた。


そう、物理法則をシミュレートした結果の脳の処理ではなく、直接的に電子部品で再現された脳はそれ以上の効率と処理速度を発揮し、記憶は直接的なデジタル記憶に変換可能だったのである。


それは言ってみれば機械と人間のいいとこどりをした頭脳といってもいい。


もともと機械の製造にまつわるアルバイトをしていた経験もあいまって、圧倒的な速さで機材は製造されていく。


そして、ロニは決心していた。あのロボット達を許す気はなかった。


徹底的にあのロボット達を叩き潰し、存在を抹消させるためなら、どんな手段でも使うことにした。


そのため、今はこれまで以上に必要となったパーツをつぎつぎと二人は製造している。


近似する部品は発注し、速達でお取り寄せし、それを改造という方法も使い、必要なすべての機材をそろえていく。


#


軍事武器の工場が襲撃されたことで、世間も上層部もおおわらわだった。


塔道地竜は、次に大きな波が来そうなことを予感していた。そう、武器が奪われたのだ、なぜ奪ったのか、誰だってわかる、使うためだ。


そして、かなり大規模で荒々しい襲撃をした以上、時間が経てばこちらはしっかりと警戒するとそう向こうだって考えるはずだ。


であれば、早急に事態は動く。次になにがおこるのか、どこで起こるのか、悠長に構えている余裕はない。


だが、これは警備部門程度が抱える案件ではもうなくなったように思うのだが、いかんせん、法整備が整っていないものに対する対応はスムーズにいかない。


今現場となっている警備部門がやるしかないという、無理難題な状態になっている。


#


風恋ちはりに、一通のメッセージが届いた。それは非常に長く、めずらしくロニからだった。


そこには、一連の騒動のロニが知っているすべてが書かれており、そして、今後起こるであろうロボット達のテロ活動の襲撃先と推定日時が明記されていた。


私は、やっと得心した。


研究所を襲っていた、そのうちの一人はロニだったのである。理由は、私のコピー脳が密かに保存され、利用されている、そのデータをすべて抹消しようと、なるべくこそこそと襲っていたというのだ。


そして、別の襲撃者であるロボット達のことも書かれていた。


目的はコンピューター施設の母体ともいえる5つの場所の同時破壊。それによる、AIによる自動的な生産、研究、開発、サービス活動の停止である。


私にはそのうちの2つの場所について、警備部へ情報を提供して警備にあたってほしいというものだった。


相手の戦力上限は未知数だが、3体のロボットの推定値から、1個体の脅威度の推定戦力が概算されていた。先の武器施設襲撃から予想して、相手の数は最大でも20体もいないはずだという。


私はその情報をかいつまみ、警備部の上司へと連絡した。


#


平坦な白い凹凸のないプレーンな地面は厚みもあるかどうかわからない。外側に広がる世界は、星々が輝く夜空で、周囲には建物もなければ山もない、100mほど先に地面の端と思われる線が見えている仮想空間だ。


そこに、塔道地竜はしっかりと着込んだスーツ姿で、風恋ちはりと対面していた。


彼女からの情報は非常に有益だった。だが、疑問もある。そして、時間はない。


「とても興味深い内容だが、うがった見方をすると、君の掌の上だったとも考えられないかな?」


「どういうことでしょう?」


「なに、君は被験者となることでいろいろと得るものがあったわけだ。実験は終了したが、欲が出たのではないかね?」


「欲ですか?」


「例えば、最新の技術を知りたかった」


「そのために、研究所を襲っていたと?」


「そうだ、はじめは警備も手薄だったし、君にも知識の多いところだったが、そうではなくなるにつれ荒くなった。

 そこで自ら警備部に入り、内部から情報を持ち出すつもりだった」


「警備部での私の働き方にそのような傾向はありましたか?」


「いや、まったく、見事なものだ」


「困りましたね、真実はそうではないのですが」


「でも実際、君はたずさわった研究の先を知るにいたったわけだ」


「獲得した知見はそうでも、そういう意図ではないのです」


「まぁ、あの荒唐無稽な師範の教練に耐えたというのはよほどの覚悟だったと思う、そう、だからこそ安易な考えではなかったのだと理解している」


「わたしにそこまでの潜入能力がないのはご存じでしょう?」


「そうだ、だが、実験で君はロボットを受け取っていただろう、やらせたのではないか?」


「そのような命令は、一度たりともだしたことはありません」


彼女のその強い否定は、嘘ではないと感じた。また、取り急ぎ解決しなければならないのは彼女が白か黒かではない。こちらは後でゆっくり詰めていくこともできる。


なら、必要なのはテロについての情報が確かかどうかである。今優先するべきはロボット達の襲撃だ。


「なら、君にも警備の矢面に立ってもらうが、かまわないかな」


「はい」


問題ないらしい、それに彼女が嘘の情報をついていたとした場合、それはロボットの襲撃が起こらないか、別のところで発生することになり、彼女は嘘をついたことが露見する。


もし、彼女が嘘をついているとするなら、人生を捨てる気でいるはずだ。今対面している私が、どのような操作能力、権力をもっているか、ある程度知っているだろうから。


嘘をついていったい何の得がある?


ロボット達の真の襲撃先を隠すことだろうか、それもおかしい。そもそも、我々は何もわかっていなかった。襲撃先はおろか、日時の想定すらできていないし、相手の規模もわかっていなかったのである。


彼女は嘘をついていないのだろうか?


それは大いに疑問だが、提出された情報は有効であると判断する。


「わかった、有益な情報を感謝する、あのアクセルバンドを使ってくれてかまわない、君には防衛の先頭を担ってもらう」


「はい、ありがとうございます」

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