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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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26 真実

ロニは不揃いなパーツで修繕され、なんとか人型をとれるようになった。


「すまんが、働きすぎて限界だ……あいつはベットで寝かせてあるから……あとはお前が判断し……ろ……」


そういって、師匠は床で眠りについた。ここのところ根詰めて作業をしていたのに、さらに無理をさせてしまった。


しかし、守親にどう話していいだろう。


あぶなげな足取りで、彼の部屋へ向かう。取り急ぎつなげたバランスも無視したつぎはぎのパーツなのである。


ゆっくり、歩いていく。


彼は部屋で呆然としていた。


「守親」


呼んでも、答えはなかった。聞こえてもいないし、きっと見えてもいない。目は何かを追いかけているのかくるくると回っている。


とても、おかしい状態だった。


守親に抱きつくも、状態はかわらない。


ロニは、あらかじめ師匠から聞いていた通り、彼の後頭部のくぼみに手を回し、そこに特定の電磁信号を送る。


すると彼の頭が中央から開かれ、中はきれいな電子回路や装置で満たされていた。


見たくない光景だった。最初から、知ってはいたけれど、見たくない、光景だった。


そのなかの一つの部品をショートして壊す。そっと、頭を閉じた。


彼はロボットなのだ。


そして、今壊したのは、自分を人間だと思い込むための、ロボットとして認識してしまう要素をフィルタリングする部分だ。


右腕を欠損した今、彼はその異常をうまくロボットではないとフィルタリングしきれずエラーの暴走が止まらず、ロボットとしてさえ思考できなくなっていたのである。


それを壊すということはつまり、腕がない現在、彼に、自身をロボットであると強制的に認識させることになる。


代わりの腕を挿げ替えようにも、それはロボットであると認識できなければ、正常には動かない。


他に、どうすることもできなかった。


彼には、人間として、その任務機関までは、存続してもらいたかった。ただの実験だとしても。


どうしてこうなってしまったのだろうか。


そして、だからこそ、私は彼に興味を持ったのだった。


どこかの研究所が作った実験の1つ、ロボットが人間に紛れ込んでもうまく生活できるかどうか。


現在の技術では、記憶消去という便利なものがあるため、当人にそうだと思わせてしまえば、勘違いしたロボットは人間だと思ったまま生活できてしまう。


何らかの事故でもなければ、気づくこともなく、使命を全うするはずだった。


そう、ロボットで、もしかすると同じかもしれないからこそ、時間が開いているときはずっと見守っていたのだ。


その見守っていた間でさえ、彼を助けるには間に合わなかった。


平常時の装備でできることは限られていた。


私が巻き込んだのだろうか?


私が呼び寄せてしまったのだろうか?


「守親ごめん」


#


守親銃而廊は、認識が徐々にはっきりしていくのがわかった。


うつろに宙に見えていた文字列は、見えているのではなく、自分自身の中にあるパラメーターだった。視界に映っているものではなかった。


目の前ではうつむいているロニがいた。


発しているロックデバイスIDが認識できる。世界はいろんな色であふれている。


音も、空間も、何もかもがこれまでと違って見えた。


パラメーターには右腕のエラーが大量に表示されている。そういえば、右腕がなくなったといわれていたんだったか。


「ロニ、ここはどこ?」


「私が、よくお世話しに来てる、師匠の、隠れ家」


周りを見渡すと、外の電波を遮断するような構造になっているらしい、不思議な構造だった。


右腕を見ると、断面には真っ白い包帯がまかれていた。そうか、確かに、腕を失ってしまったようだ。


今生きているのに、腕一本で済んだのだ、そんなに悲しむことだろうか。


「ロニ、ありがとう」


俺は、どうも非現実的なものをずっと感じていた。どうやらそれは正解らしい。


それをずっと、仮想世界の中なのだろうと錯覚していたのだ。


でも、現実は違った、そう、俺はロボットだったのだ。


自分の身体が、どういう構造をしているかさえ、精密に理解してしまえる。


俺に、元の記憶なんてものは存在しなかったのだ。


あの一室で目覚めたとき、初めて俺はきっと起動したのだ。


「守親、ごめん」


「何を謝っているんだ、腕一本、たいしたことないじゃないか。

 俺はロボットなんだ、そうでなくったって今の時代、義手とか何とでもなるじゃないか」


「うん、いろいろ話さないといけないけど、時間がないの……」


「そう、できることはある?」


「守親の、腕は、たぶんあれがつかえるから、作業、手伝って」


#


クリスマスまで残り一週間もないが、事態はもっと急を要するかもしれなかった。

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