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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
64/71

23 成果

白髪の男、黒崎禅侍は、タバコをつけ一呼吸おく。


「なかなかハードな戦闘だったみたいだな」


「師匠、生還し、物は持って帰ってきたのだからもっと褒めていいのですよ」


「あぁ、上出来だ。

 とはいえ、規模も大きく、難儀な状況になってそうだぞ。ロニのコピーだけの話じゃすまなくなるかもしれんし、そっちよりも優先すべきことがありそうだ。

 あと、あれには残っていなかったが……他2つにコピーが残ってないという確証がないのは気になる……といっても、高望みか」


「スペック不足です」


「はいはい、これでもだいぶ頑張ったんだが……電磁ブレード最大出力で30秒間使い続けただろ……うーん、いったんはスペアになるからスペックがどうしても下がる。

 まぁ、それはいい、それよりも、襲撃ロボットについて少しわかったことがある」


「おぉ」


「特殊な人間の脳を模したハードウェア型よりのデジタル脳をもった個体だな。わりと壊しちゃってるから拾いきれんかったが、大規模なテロを企んでる」


ハードウェア型のデジタル脳、つまるところ現在のコピー脳とよばれるものは仮想世界で高度に現実を再現する医療趣味レーターをもとに、そのまま脳を動かしたものをベースにデジタル脳として最適化されたものである。

つまり、物理法則をエミュレートした結果の脳という少し迂遠な構造になっている。

それに対し、ハードウェア型は、直接的に機械、CPUや回路、その他の部品と、それに直接結びついた専用のプログラムでもって1つの脳を再現する。


「えぇロボットがテロ?」


「ロニちゃんだって恋はするだろ?」


「うんうん」


「つまり、人間がすることはAIもしうる、そう考えたらいい」


「あぁ、最近よく映画になっているああいうのか」


「それは、少し経路がまた違う。

 やつらが狙っているのは、おそらくこの国の電子判断とサービスの一端を集約的に担っているインフラだ。

 コンピューターの心臓部と言ったらわかりやすいか」


「それって、ロボットが狙ってるのはコンピューターってこと」


「そう。まぁ、人間にとってもインフラになっているから成功してしまうとかなりの損失だけどね」


機械学習による判断での自動的なサービスや製品の生産を目的としたコアプログラムに、それが提供する電子サービスのAPI群が集約されたコンピューターの頭脳といっていい場所である。


コンピューターが自らサービスや製品を作ってよい、研究してよい基準が法律で整備され、プログラム的な解釈が可能なプログラマブルな法律によってそれらは判定され、人間にとってよりよいサービスや物、作品を提供している。


それが肥大化し、それなしでは都市は機能しないほどになっている。重要なインフラの1つなのだ。


オープンなクラウド化が困難なのは、特殊なハードウェアを使っているだけでなく、裏では軍事的な研究の一部もAIが担っており、外部に漏れると困る、などという話もある。


「心臓部は5か所に分かれた分散型になっているが、完全なクラウドにはなっていない。

 ゆえに、すべて叩き潰そうということらしい。守るのは、運が良ければ簡単かもね……とはいえ、その性質上、ここには人が配置されていないんだ。

 通常のこれまでであれば、AIによる防衛マシンのみだ」


「それってどれほどのものなの?」


「暴走して一般市民に害が出ると困るから、という名目で警察が鎮圧できるほどのお飾りの装備しかないよ。

 だから、あのロボット数体で突破は可能だろうねぇ。うん、いやぁざるだなぁ」


「そんな大事な施設がなんでそんな警備よわよわなのよ」


「まぁ、この国って昔からそういうところあるし。神経質になんだかんだやってる風を装うんだけど、妙なところは足引っ張られて手が抜かれるんだよね。

 『僕を食べてアイドル様』も、とくに問題なくスルーというか熱中しちゃうくらい、わりとみんな先端技術に弱いから」


「ところで師匠……もうコピーなんてどうでもいいから、ちはりが安全であればそれでいい気がしてきた」


「警備部門に入ってしまったとはいえ、テロは目標は研究所ではなさそうだから……警備部門のお偉いさんが今の情報を収集できない無能なことを祈るしかないかなぁ。

 それか、ちょくせつ君が説得するかだ」


#


塔道地竜は、肉を食べながら一人、考えを巡らせていた。


先の襲撃は、場所の想定が的確であったことがうかがえる。そう、見事その場所に彼女、風恋ちはりを配置することができたのは強運だった。


だが、報告ではロボット同士が交戦したというあらたな謎が浮上したのである。


つまり、どちらか一方が先駆者で、もう片方が模倣犯だろうか?


荒々しい襲撃スタイルのロボットは模倣犯だとすれば、同時に出くわしてしまったという奇妙さがある、偶然だろうか。


もしかするとランダムと思われた襲撃も何かしらの意図があり、それぞれの目的がかち合ったのだろうか。見えていない情報が多すぎる。


いかんな、肉は無心で、そうそれ一つに集中して食べるべきだった。


私としたことが、心が乱れている。


最近は仕事におわれ余裕がなくなりつつある。仮想世界での暴虐なひと時も随分と休んでしまったものだ。


私は、最後に残った脂身を丁寧に平らげる。


ふむ、一度、食う側の立場から考えてみるのが良いのかもしれない。

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