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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
59/71

18 警備員

黒い会議室、そこは仮想空間である。塔道地竜は現実の姿、その他大勢はモノリスの姿で、塔道をかこむようにまばらに浮遊している。


「塔道くん、警備部門にはかなりの投資をしているのだが、まだ足りないというのかね」


「恐れながら、急に人手を増やすというのは難しいのです」


そう、AIに転移していった警備セキュリティ部門に、いきなり生身の人材が必要とされても、なかなか厳しいところがあった。


今回の事件では中核となっているAIも隠蔽に加担している恐れがあったし、もしくは機能不全にされていた。


よって、人材が必要なのであったが、そう簡単に人が集まるわけはなかった。


「表沙汰になっていないものも含めれば、もう二桁を超えておるのだぞ……そうそう悠長に座してはおれんのだ」


「わかっております」


とはいえ、塔道は混乱していた。


襲撃先があるていど予想できる、そう考えていた。色々と手を回して獲得した情報から、風恋ちはりにまつわる何かがキーになっている、そういう感触であった。


だが、全く違う場所でも襲撃は起こりはじめた。


「当初の襲撃犯の傾向とはややことなるものが最近は散見されております」


「模倣犯だというのか?」


「そんなこと、簡単にできるわけがない」


「いや、最近は荒っぽい犯行も増えてきた。確かにそうなのかもしれん」


「つきまして、当初想定されていた系統に目標をしぼりたく」


「ほかを見過ごせというのか?」


「恐れ入ります」


塔道は、重鎮ともなるとなかなか頭が固くなるものだと思うが、表情は一切変えず、淡々と告げる。


「ランダムな襲撃から守るには、警備部では荷が重いかと」


「それであれば、見過ごしつつも襲撃を防いだという成果を期待する」


「ありがとうございます」


#


風恋ちはりは初の警備実務で、同僚に紹介された。


なかなか筋肉質の男性が2人とスラッとしつつもどこかヤンチャそうな女性が1人だ。


警備では、パワードスーツが支給され、各自はそれを身に着けている。AIには頼れないが、対ロボットを想定して、可能な限り機械も導入するという体制らしい。


「それにしても、ちはりちゃんはよく7日も師範の教練に耐えたよね」


「あぁ、俺は3日でねをあげたぞ」


「最近はあの教練やってないらしいよ」


「え?」


筋肉質で背の高い男性は三頼さんらい 鉄夏てつなつ。3日でねをあげたというやや細マッチョの彼は石畳 レン(いしだたみ れん)。


最後の女性は平丘ひらおか 香奈かな。だれもが腕っぷしは立ちそうなメンツで、私1人、どうも場違いな気がする。


「よろしくおねがいします」


「おう」


「あんまり気を使わなくてもいいよ……というか、なんでこんなご時世に警備部なんて」


平丘さんから、至極もっともな指摘だった。後で調べて分かったのだが、襲撃事件のあと、負傷者が出てからというもの、退職者が続出しているらしい。


「まぁこんな危ない仕事やるなら、風俗のほうが安全だわなぁ」


石畳さんは茶化すように言う。


「いまどきそういうのも仮想世界が主流なのよね……」


「あはははは……」


どうなんだろう、馴染めるだろうか。


その後、警備経路の巡回から襲撃されたときの分担などの話や実地でのテストをさせられた。


その日の警備の夜は何事もなくすぎていく。


最近は、研究所だけではなくアミューズメント施設も狙われたというニュースがあった。もしかすると、警備部へ入ったのは早合点だったのかもしれない。


#


ややオカルティックで奇術師めいた衣装のアバターで活動する、陰謀論を解説したり世界の裏を暴くマジッフィー・キャサウェイの秘密映像は今日も世間をにぎわせた。


仮想世界の風俗、男性向けのキャバクラのなんとも珍妙な裏事情がマジッフィーのハッキング技術によって暴露されてしまったのだ。


その事実なんと本当にお相手している女性は存在するのか?AIではないのか?そんな細かい事実が統計的データで数値化されて表示されてしまったのだ。


驚くことに、なんと実は中の人が男性であるという比率が63%で、稼ぎのトップ10の8割も男性だったのである。


阿鼻叫喚の地獄絵図とも言えるこの状況に驚いている人が多いと思いきや、ほそぼそとソーシャルメッセンジャーでは、昔からそういうのあるくない?、と冷静に見つめる自称有識者がまぎれていた。


AIでも、まだまだ蹂躙されきっていない分野があるらしい。

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