17 変わりゆく世界
魂の牢獄というゲームの最新情報でその界隈は賑わっていた。
その新しい機能に、これまで目を向けていなかった層からも注目を浴びている。
このゲームはもともと中世ファンタジーのダンジョンハックRPGにアバターのオート制御と記憶封印イベントという要素の組み合わせで楽しまれた作品だ。
そして次に打ち出された内容は驚きの展開だった。
なんと、ダンジョンクリエイト、ギミッククリエイト、統合クエスト共有モードが搭載されるとあって、業界を含めて騒然としている。
クリエイティブモードが拡張され、ゲームを作って楽しむ層までターゲットされているだけではなく、これまでの制作ノウハウから、最新のクリエイティブエディタが付随するらしい。
しかも、なにも細かく作り込まずともAIによる補完機能によって、荒削りでも本格的なレベルデザインがなされたゲームが作れてしまうということなのだそうだ。
さらに、装飾・ゲームイメージも多彩にでき、これまで中世ファンタジー限定だった世界観は一転し、SFあり、現代あり、古代ありと千変万化できるらしい。
つまり、アクションRPGのすべての客層を鷲掴みにせんがごとく、真・魂の牢獄は制作されているのだそうだ。
それだけではない、なんと総合クエスト共有モードでは、いくつかの世界観が決まったワールドが設けられ、ユーザーが作ったダンジョンを共有し合いつつも、それが地続きでつながり広がるというまさに未知の世界が広がるのだという。
だれしもがメッセージツールで集団メッセージを気軽に共有するように、制作したダンジョンやギミックさえもてがるに共有し、一緒に世界を作り変えていけるようになるらしい。
記憶封印イベントもユーザーがオリジナルを作って開催することができるようになるとのことで、ベータ版の公開をいまかいまかと待っているユーザーでソーシャルメッセージサービスは大盛りあがりだ。
更に恐ろしいのは、この作ったダンジョンやイベントによる収益化も可能となっており、ゲーム業界は一転してしまうのではないかと言われている。
だれもが手軽に作り手にまわり、オーダーメイドを発注し、仕事にまでできる世界が来ようとしている。
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早朝から、あるニュースが盛り上がっている。
研究所の襲撃だけではなく、あるアミューズメント施設が強奪にあい、装置が複数台ぬすまれたのだそうだ。
その装置は『僕を食べてアイドル様』、ニュースではあまりに反響が大きいことから、中毒者が暴走したのではないか、一個人でできることではないなど、番組をにぎやかせていた。
そんなニュースとは縁遠いデジタルな物が少なく、隔離されたあるスラム都市ダンリオンの一角の会議室で、タバコを吸った男は驚愕していた。
「マジ、だったか」
細身の男が言う。
「はい、記憶のコピーについてはわかりませんが、依存性と幸福感の付与は強制されるようです」
「ってことは、まさに電子ドラッグじゃねぇか」
男は、タバコを吸って一呼吸おく。
「やはり、コンピューターはやばいな……例の情報はどうだ?」
「情報によれば、この国の電子頭脳中央部には欠陥があるようで、完全にはクラウド化、分散化はされていないようです」
「どういうことだ?」
「ええと、結論からいうと5箇所の特別な施設に分散して管理しているそうで、全ての施設がダウンすれば、都市のインフラとなっているコンピューターの頭脳部分は機能を停止するそうです。
おそらく、機密情報が多く、オープンなクラウド化はできなかったのでしょうね」
「なるほど、なんとなく分かってきた」
「そのうちの1箇所が明示されています」
「なんだ、全部ぶっつぶせって話じゃないのかよ?」
「いや、たぶんこの情報源は残りをやるつもりなんじゃねぇか?」
「そいつぁいいように使われているようで気に入らねぇな」
「もう少し奪った装置を解析しましょう、示された地点も別方向から裏を取ります」
物騒な話をしている部屋の外では、アナログな薬物中毒者がフラフラとよろめいていた。
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少女はいつも通っていたアナログなカフェの目の前で立ち止まった。
カフェはどうも終業してしまったらしい。張り紙には、店主の体調がかんばしくないと書いてある。アナログなものは、まして人間であれば、いつの時代も変化し、そして終わらせなければならない日が来る。
少女は寂しい感情を胸にいだきながら、「これまでありがとう」とつぶやいた。




