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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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13 面談

風恋ちはりは、セキュリティ意識の高そうな窓のないビルに入っていった。


ほどほどの30階ほどありそうなビルであったため、私はてっきりエレベーターは登るものだと思っていたら、案内人に従って進んでいくのは地下だった。


エレベーターは地下へ通りていき、しばらく進んで止まった。何階であるかの表示はない。バーミンに警備会社を紹介してもらったのだが、いきなりそんな場所に案内されるとは思っていなかったのでドキドキしている。


よくよく考えれば、私は生身の肉体が危険な状態になるというケースをこれまで考慮していなかったかもしれない。迂闊さを反省しつつ、案内された部屋の扉が開かれた。


そこには、無地で無機質な白い部屋に、白い机が1つと椅子が数個置かれた、あらゆる無駄をとりはらった殺風景な部屋だった。


奥で待っていたのは1人の男性だった。


「ようこそ、私は警備部門の主任、塔道地竜です。どうぞよろしく」


その男はオールバックで、キリッとしたスーツを着こなした、身長の高い男だった。少し見上げる格好になる。


「はい、風恋ちはりです」


「これは面接ではありますが、ほぼほぼあなたの希望に沿う挑戦はできるでしょう。

 実地テストは受けていただきますし、ご希望にそいにくい点としてはめぐり合わせの運はどうしようもないということです」


「運ですか?」


どうやら、警備員として参画すること自体にはOKがもらえるようだ。それはラッキーである。


「そう、彼からおおよその話は聞いていますし、かなりのアバター操作技術をお持ちだ。

 とはいえ、現場で主体的には自らの体を使うという点であなたは思い通りに動けないでしょうし、

 本来は運悪くというべきですが、運良く襲撃の現場に立ち会えるかはわかりません」


それは正しい。ジョギングもここ最近始めたばかりでたいした距離は走れないくらいの体力だ。もともと体を動かす趣味はしていなかった。そして、警備につくことができたとして、彼の言う通り、思い通りになるとは限らない。そもそも、襲撃の意図がまだわかっていないのである。


「そうですね」


「あと、勤務時間が襲撃を想定した時間帯のため夜勤になってしまいますから、あまり女性向けの仕事ではありません」


「どういうことですか?」


「お肌が荒れてしまいますから」


「まぁそういうことは」


生活リズムが変わるのは仕方がない。私の優先順位はいったいどうなっているのだろう。好奇心だろうか。


「また、遭遇した場合はかなり危険が伴うことを覚悟してください。

 手足がなくなるかもしれませんし、いきなり頭が吹っ飛ぶこともあり得るのが残念ながら、本来はおそらく一警備部門の管轄外の業務なのですよ」


「管轄外ですか?」


「そう、どこも押し付けあったり、隠匿していたりで、本来動くべき部署が動けてない状況なので、非常に危険なのです」


「覚悟はしているつもりです」


本当にそうだろうか?人間の身で、怪我を負う、欠損する、そんな可能性を理解して、納得して、今この場に立てているだろうか。


たぶん、今は見えを張っているだけだと思う。本当にその現場になってどうなるかは未知数だと思う。


ただ、もしそうなら、ロボットとしてではなく、コピー脳のソフトウェアとしてでもなく、この肉体で死を感じられるというのは、少し興味があった。


「では、利害は一致しているものとします。

 あなたにはいくつか受けてもらう試験があります。身体テスト、および、装備についての細かい話は別室の担当のものから聞いてください」


「はい」


「なにか疑問はありませんか?」


「主任は研究所の騒動にまつわる全体像をどう考えていますか?」


大した質問をするつもりはなかったし、返答も期待していなかった。ともすると、一番答えを知りたそうな立ち位置の人ではないだろうか。


「そうですね、これはきっと始まりでさえないのでしょう。私はそう感じています」


予想外の返答だった。


「どういうことですか?」


「報告や類推では、ロボット、AIが主犯であろうということになっていますが、人間が機械を使っているだけとも考えられます。

 こうしたグレーな状況から、より深刻な、なんらかしら人類への驚異は気づかぬうちに大きくなってしまうかもしれません。

 法整備や行政は技術の進展と比較するとどうしても遅くなってしまいますからね、うかうかしていると技術にくわれて人間は滅んでしまうかもしれませんね」


それは少し、私に近しい考えだ。もしかすると、私についての事前情報から、私に心象が良い答えを提示しているだけなのかもしれないが。それとも、日頃からそんな非日常的なことを考えているのだろうか。


「興味深いですね。そうであるなら、何も知らずに飲み込まれるより、この目で見届けたいと思います」


#


エレベーターは閉じ上がっていく。残った部屋に秘書が入ってきた。オールバックの男は告げる。


「君は女性の勘というものを信じるかい?」


「体験したことはありませんね」


「感覚的なものなのだそうだが、デジタルなものに長年触れているとああいう彼女のような不安感というのも正しいのかもしれないな」


「現場に派遣させるのはリスキーかと思いますが。遠隔のほうが適任かと」


「ふむ、難しいところだ。今の所、交戦時に電波障害のような装置は使われていないが、そう遠くないだろう。彼女には現場で戦ってもらえる力を持ってもらったほうがいい」


「高く買っておられるのですね」


「君には話しただろう、例の研究の遺産らしいからな。これ以上の駒はないよ」

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