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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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11 誰もが見たがる深淵

廃病院でロニはロボットでありながら、泣いていた、涙は出ないが声は出る。


「師匠、まじ鬼畜!人でなし!」


「だーかーらー、俺はダメな人間なんだから、頑張って受け入れようなんて思わなくていいの」


「でも、師匠は私の師匠なの」


「まったく、めんどくさいロボットだなぁ」


黒崎禅侍の悪行のおおよそを聞いて、ロニは絶望していた、こんな無慈悲なことをしていいのかと。


醜悪で、裏切りがあって醜くて、そんな世界があってよいのかと。


傘をかけてくれた、あの怯えた男はどこに行ったのだろう。


黒崎は困った表情でロニの頭をなでる。


「なぁ、こんな極悪人が生きてていいんだから、もっと胸張って生きてていんだよ」


「変な慰めかたしないで下さい。

 でも、私、便利だなって思ってるだけじゃダメだったんだなとは思ったの。

 それになおさら、ちゃんと全部教えてもらいますからね」


「なんだ、怖くなったんじゃないのかよ」


「止める力を得るにも、蛇の道は蛇です」


「真面目だなぁ」


「師匠はいいかげんすぎるんです」


廃病院の一室は、いつのまにかこぎれいな施設へとかわっていた。小さなコンテナがいくつも並んでいる。


配置された小さな機材群も、整然と並べられつつあった。


#


バーミンは仮想世界で湖面を歩いていた。空はオレンジがかり、すこし誇張された雲はややアニメテイストで、見知らぬ衛生が2つほどゆっくりと回っている。


珍しい人からの呼び出しだった。ゲーム外で会うのは初めてかもしれない。といっても、仮想世界ではあるのだが、やはりそれでも珍しい。


歩くたびに波紋が広がり、そこから光の泡が溢れ広がっては消えていく。


何歩歩いただろうか、待ち人が出現した。


その姿はいつものゲームの獣人の少女の姿だ。


「ごめん、まった?」


「いやいや、それにしてもどうしたの?俺に相談、それもわざわざプライベート空間ってのはめずらしいね」


「突拍子もない話かもしれないんだけど……バーミンは映画とか好き?」


「そうだなぁ、どちらかというと仮想世界でなにかしている方が多くて、メジャーなものを数点くらいかなぁ」


「最近ね、ロボットと人間が争う映画がたくさんでてきてるの」


「流行ってるみたいだねぇ。昔からある、定番ではあるけれど、映像作品をさがすと、新作はそういうので溢れているね。

 映画を作ってるのは主にAIだろうから、人間ウケが良いのかもね」


「そうね、でも、もしかすると試されてたりしない?」


「試されてる?」


「そう、ああいう映画がでると、私だったらこうするとか、現実だったらこうだ、とか、いろいろ反論するレビュワーさんもいるじゃない」


「あぁ……つまりチャリーはあの映画を小さな予行演習だと考えているの」


「うん。現実、研究所を点々と襲っているのはロボットだ、という噂もあるの」


「俺だったら、ちゃんと準備を整えてから、一点突破でひっくりがえすかな。

 今だったら仮想世界のゲームと称して、人間vsコンピューターをシミュレートして蓄積しておいて、そこからだと思うけど、そういうゲームは見当たらない。

 どちらかというと、敵も味方も人間が主体であることが多くて、もしそんな話があるとしても、段階をすっ飛ばしている気がする」


「でも、この目で確かめたいの。研究所の襲撃自体は本当に起こっていることだから」


「そういわれても、俺にできることなんてたかが知れてるよ」


「バーミンってさ、顔広いんじゃない?警備会社に知り合いいない?」


「物騒なこと考えるねぇ、さすが怒涛の名がつくだけはあるよ。確かに、いろんな知り合いはいるけど……え?どこできづくの?」


「女の勘」


「この話って誰かにした?」


「一人目だよ」


「えぇ……」


「ふふふふふ」


「まぁいいや、わかったあたってみる」


「ありがとう」


「あーあ、でも残念だなぁ、チャリーからデートのお話かと思ったんだけど、映画の話とかもでたしちょっと勘違いしちゃったなー」


「お食事だったら付き合うし、今回のお礼として、私が費用全部持ってもいいわ」


「よし、いろいろあたってみるから少し待ってくれ」


「はーい」


嬉しそうに笑う獣人少女は、湖面が放つ泡の光できれいに輝いていた。


#


風恋ちはりは晩御飯を食べていた。ロニもテーブルに座っている。


「どう、上手くなったもんでしょ」


「そうね昔はてんで何もできなかったのに。そういえばロボットだと味覚ってどう扱ってるの?」


「いろんな電子機器に接続できるから。人間の味覚と嗅覚はなくても、代替えのパラメーターはあるのよ。

 そういえば『僕を食べてアイドル様』っ行ったことある?」


「ううん、胡散臭いから」


「正解、絶対にやめといたほうがいいから」


「なにか知ってるの?」


「うん、ちゃんとは言えないけど」


「そうなんだー」


「世の中、悪いことをしている人はたくさんいるみたい」


ちはりはお水をごくりと飲むと、食器を片付けはじめる。


食器を所定の場所に設置していくだけだ。それが終わればあとは自動で洗ってくれる。


ブーンと食器お洗う音がなりはじめた。

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