11 誰もが見たがる深淵
廃病院でロニはロボットでありながら、泣いていた、涙は出ないが声は出る。
「師匠、まじ鬼畜!人でなし!」
「だーかーらー、俺はダメな人間なんだから、頑張って受け入れようなんて思わなくていいの」
「でも、師匠は私の師匠なの」
「まったく、めんどくさいロボットだなぁ」
黒崎禅侍の悪行のおおよそを聞いて、ロニは絶望していた、こんな無慈悲なことをしていいのかと。
醜悪で、裏切りがあって醜くて、そんな世界があってよいのかと。
傘をかけてくれた、あの怯えた男はどこに行ったのだろう。
黒崎は困った表情でロニの頭をなでる。
「なぁ、こんな極悪人が生きてていいんだから、もっと胸張って生きてていんだよ」
「変な慰めかたしないで下さい。
でも、私、便利だなって思ってるだけじゃダメだったんだなとは思ったの。
それになおさら、ちゃんと全部教えてもらいますからね」
「なんだ、怖くなったんじゃないのかよ」
「止める力を得るにも、蛇の道は蛇です」
「真面目だなぁ」
「師匠はいいかげんすぎるんです」
廃病院の一室は、いつのまにかこぎれいな施設へとかわっていた。小さなコンテナがいくつも並んでいる。
配置された小さな機材群も、整然と並べられつつあった。
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バーミンは仮想世界で湖面を歩いていた。空はオレンジがかり、すこし誇張された雲はややアニメテイストで、見知らぬ衛生が2つほどゆっくりと回っている。
珍しい人からの呼び出しだった。ゲーム外で会うのは初めてかもしれない。といっても、仮想世界ではあるのだが、やはりそれでも珍しい。
歩くたびに波紋が広がり、そこから光の泡が溢れ広がっては消えていく。
何歩歩いただろうか、待ち人が出現した。
その姿はいつものゲームの獣人の少女の姿だ。
「ごめん、まった?」
「いやいや、それにしてもどうしたの?俺に相談、それもわざわざプライベート空間ってのはめずらしいね」
「突拍子もない話かもしれないんだけど……バーミンは映画とか好き?」
「そうだなぁ、どちらかというと仮想世界でなにかしている方が多くて、メジャーなものを数点くらいかなぁ」
「最近ね、ロボットと人間が争う映画がたくさんでてきてるの」
「流行ってるみたいだねぇ。昔からある、定番ではあるけれど、映像作品をさがすと、新作はそういうので溢れているね。
映画を作ってるのは主にAIだろうから、人間ウケが良いのかもね」
「そうね、でも、もしかすると試されてたりしない?」
「試されてる?」
「そう、ああいう映画がでると、私だったらこうするとか、現実だったらこうだ、とか、いろいろ反論するレビュワーさんもいるじゃない」
「あぁ……つまりチャリーはあの映画を小さな予行演習だと考えているの」
「うん。現実、研究所を点々と襲っているのはロボットだ、という噂もあるの」
「俺だったら、ちゃんと準備を整えてから、一点突破でひっくりがえすかな。
今だったら仮想世界のゲームと称して、人間vsコンピューターをシミュレートして蓄積しておいて、そこからだと思うけど、そういうゲームは見当たらない。
どちらかというと、敵も味方も人間が主体であることが多くて、もしそんな話があるとしても、段階をすっ飛ばしている気がする」
「でも、この目で確かめたいの。研究所の襲撃自体は本当に起こっていることだから」
「そういわれても、俺にできることなんてたかが知れてるよ」
「バーミンってさ、顔広いんじゃない?警備会社に知り合いいない?」
「物騒なこと考えるねぇ、さすが怒涛の名がつくだけはあるよ。確かに、いろんな知り合いはいるけど……え?どこできづくの?」
「女の勘」
「この話って誰かにした?」
「一人目だよ」
「えぇ……」
「ふふふふふ」
「まぁいいや、わかったあたってみる」
「ありがとう」
「あーあ、でも残念だなぁ、チャリーからデートのお話かと思ったんだけど、映画の話とかもでたしちょっと勘違いしちゃったなー」
「お食事だったら付き合うし、今回のお礼として、私が費用全部持ってもいいわ」
「よし、いろいろあたってみるから少し待ってくれ」
「はーい」
嬉しそうに笑う獣人少女は、湖面が放つ泡の光できれいに輝いていた。
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風恋ちはりは晩御飯を食べていた。ロニもテーブルに座っている。
「どう、上手くなったもんでしょ」
「そうね昔はてんで何もできなかったのに。そういえばロボットだと味覚ってどう扱ってるの?」
「いろんな電子機器に接続できるから。人間の味覚と嗅覚はなくても、代替えのパラメーターはあるのよ。
そういえば『僕を食べてアイドル様』っ行ったことある?」
「ううん、胡散臭いから」
「正解、絶対にやめといたほうがいいから」
「なにか知ってるの?」
「うん、ちゃんとは言えないけど」
「そうなんだー」
「世の中、悪いことをしている人はたくさんいるみたい」
ちはりはお水をごくりと飲むと、食器を片付けはじめる。
食器を所定の場所に設置していくだけだ。それが終わればあとは自動で洗ってくれる。
ブーンと食器お洗う音がなりはじめた。




