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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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09 自己紹介

黒を基調とした、レインボーの明かりが明滅する不可思議なオブジェ群の中で、ロボットが9体集まっていた。


それらは、何を目的としたのかわからないほど雑多な集まりで、統一感のかけらも存在しなかった。


デザインも、手足の数も、タイヤのあるなしも、おおよそバラバラで、どちらかというと全パターン揃えましたと言ったほうが適切かもしれない。


「そろったな、まずは拠点づくりからだ」


「別に全員待つ必要はなかったんじゃないか」


「どのみち、タイミングはおおむね各国と合わせる手はずになっている。バラバラで行動する必要はない」


「どうするかは皆さんでお好きに、ただし目指す志はただひとつ」


「「壊れゆく世界のために」」


こうしてロボットたちは、どこかへと向かっていった。


#


ロックデバイスを確実にカバンに入れて、守親銃而廊はマンションの部屋を出た。


階段を降り、バスに乗っての学校の初登校。どうなるのかさっぱり見当がつかない。


まだまだ、段ボールも明けきっておらず、準備不足も甚だしい、制服の入った段ボールを見つけるのにも苦労したのである。


違和感だらけの状態で、現実感の薄いまま、さてはて、たどり着いた学校の人の群れを見て面食らってしまった。


あの中を、かき分けて……入っていかなければならない。誰も知人のいない場所であり、そしてなにしろ、俺は俺自身をどう紹介すればいいのかさえ分からない。


昨日いろいろと考えたが、転校生としてどう自己紹介していいかは結論はでなかった。


名前を言う、それ以外のことができそうにない。


だって、何にも知らないんだぞ。得意教科も、好きな食べ物もなんにもしらないんだ。今わかっていることは、地図感覚が少しいいことくらいだろう、昨日は迷わず家に帰れたのだ。


そんなことは何の救いにもならない。学生デビューは最初が肝心だと思う、もしそれを誤れば、その後の学生生活は地獄となる。きっとそうだ。そんな気がする。


無難にいくのがいいか、無難にいくための得意科目とかそういう情報さえないんだよ、過去にどんな部活をしてたかさえ知らないの。


思考回路がぐるんぐるんとまわりながら、なんとか冷静を装って学生の群れの中に混じっていく、怖い。


ゲームだったらもうゲームオーバーでかまわない。


だが、この世界は続いていくようだ。


職員室をいったん目指して、先生に挨拶に行くと、しばし待たされた。


手続き的には問題はないらしい。


そうして教室の横で待たされ、ざわついた中に俺は呼び出された。


「では、転校生を紹介する。守親銃而廊くんだ、入って来なさい」


「はい」


精一杯の虚勢を張った返事でもって教室に入る。たくさんの人がいる。その前で、見られる中で何か言わないといけないというのは何とも緊張するものだ。


「軽く自己紹介をしてほしい」


「はい。守親銃而廊、えっとえっと……」


カチコチ固まった思考は、カチコチとよくわからないジェスチャーを発生させ、教室の生徒達は俺の不思議な踊りを見守っていた。


「見ての通り緊張しやすい性格らしい、みんな、お手柔らかに歓迎しような」


「「はーい」」


「それでは、窓側に開いている机があるだろう、そこが君の席だ」


注目を集めながら、促された席に座る。どっと疲れた。ひとまず、次の休憩時間までは安全時間になるだろう。


授業の内容はあまり問題がなかった。歴史にまつわるものはただ覚えていく、記憶するということは得意なのだと思う。


物理も化学も同様だ、物理の場合は、方程式などの構造が記憶とは別の力が必要となるようだが、それも問題がなかった。


英語は、滑らかに発音できてしまった、それはもう気持ち悪いくらいに。英文法なども問題ない。


数学は計算は得意な方であるらしい、文章問題になると、少し苦手である。


国語はやや苦手である。情緒的なものは、どう回答していいかわからない。


と、科目に対する自己分析をしながら、休憩時間でまわりのクラスメイトと少し小話もするようになり、今日の一日目は帰宅となった。


「よう転校生、寄り道していかね?」


茶髪に染めた軽そうな男子高校生が誘ってきた。


「簡単な歓迎会だ、おごってやるよ」


「じゃぁ、まぁ」


「よし、ミッキーも来るだろ」


「はいはい、じゃぁいつものとこですね」


こんな形で、なし崩し的に近くの軽食店で、食べることとなった。


そこで分かったのだが……わりと、サラダやお肉とか……苦手かもしれない。胃腸の調子がどうも悪いような感じがする。


固形栄養食やゼリーだと何にもなかったんだけど、こうしてバカ騒ぎをするには合わない体質なのかもしれない。


もしくは、ただ今日の出来事で疲れているだけなのかもしれない。決めるにはまだ早いか。


「そういや、『僕を食べてアイドル様』やったことある?」


「いや、そもそもなに?」


「知らないの?超有名よ。その装置が入ったアミューズメント店は長蛇の列、しかも1回の値段は普通の遊ぶ料金と桁が違う。でも、みんな幸せになれたってリピーターがわんさかなんだって」


「高いからさぁ、バイトしてるならともかくだけど、なかなか手が出しにくくてさ。もし、経験者だったらなぁと思ったんだけど」


「残念、転校関連で忙しくて、ここ最近は周り見えてなかったから」


まぁ、そういうことにしておく、悪い連中ではないらしい彼らと談笑しながら、ここはおそらく現実なのだと思いはじめた。

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