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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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08 幸福依存者

私はこそこそと隠れながらある2人の食事を見守っていた。いつも通り、お昼のランチで、お肉が主体だ。


その食事をしている女性と、同棲とも近い暮らしをしているのだが、ここ最近は状況が変わってしまいそうで緊急事態なのであった。


傷撫(きずなで) 幸子(さちこ)、私は今ある幸せが壊れるかもしれない、そんな恐怖でいっぱいなのだ。


私はとある実験により痛みを受けると幸せを感じるという呪いを受けてしまった。そして、その幸せに私は依存しているのである。


その痛みの供給源である血白あかね様は、現在、男と肉を食べている。最近とくに多くなったのだ。


もしかすると、これは恋愛に発展していて、もう路線は決まっているのかもしれない。


そうするとどうなる?


私に割いてくれる時間はなくなるのではなかろうか。いや、少なくなるならまだしも、この2人が婚約し、同棲するとなると、私は完全に蚊帳の外となってしまう。


つまり、幸せが消える。


それは非常に問題だ。


たまに肉料理に誘う変わった男性の話題があがったことはあった。なんでも、勤め先の会社関係で知り合った警備やセキュリティを専門にする部署のお偉いさんらしい。


血白様は、恋愛などのような関係には興味がなさそうだったのであるが、どうもそれが変わりつつあるような気がしてならない。


あっている回数が格段に増えた。


でも、私が疎かにされているかというとそうでもない。いや、ここ最近は本当に幸せにお相手してくれるようになった。


これはどういうことだろう。


整理すると、男との会食回数は上がった、私への対応が良くなった、つまり彼女はあの男と幸せで余裕ができつつあるということではないだろうか。


愛のおすそ分けかもしれない。


そうすると、ますます問題だ。幸せを享受している場合ではなかった。


しかし2人の間に割って入る理由もなければ、チャンスだってありそうもない。私は、いったいどうすればいいのだろう。


#


とあるアミューズメント施設『僕を食べてアイドル様』は今日も長打の列だった。なんでも仮想空間で済ませてしまえる現在において珍しい現象である。


そのメインのゲームというか装置は、仮想空間でアイスクリームになって、ピックアップされたアイドルに食べてもらって幸せになろうという何とも頭のおかしな装置である。


だが、体験した人ならわかるのだ、そう、食べられることがどれほど幸せであるかということを。


しかも1回遊ぶにしては値段が高い。どこかのアイドルのコンサートチケットだって3枚買えるその価格にも驚きだが、今では通いつめている人がいて、装置の台数も順次追加される予定なのだというから不思議なものだ。


誰が信じるだろう。食べられて嬉しいだなんて。


風恋ちはりは、熱気を帯びた長蛇の列を見て、いつも気になりながらも、どこか抵抗を感じていた。


なんでも都合の良い話など、存在しないだろうと。


あの実験に出会う前なら、私ものこのこと並んでいたかもしれない。今でも、新しいことへの挑戦は大切だと思う。


だが、致命的な失敗というものは、後にも先にもどうしようもないのである。


人を殺してしまったのなら、それは誰であっても、たとえ自分のコピーであってもその失敗はその後の人生にずっと残ってしまう。


自分には才能があるとか、能力があって選ばれたとか、そういう状況であってさえ、科学の悪魔のささやきは人間をとらえ食らってしまうように思う。


現在の仮想空間では、痛みなどの痛覚、触覚、皮膚感覚、嗅覚、味覚、視覚、聴覚と全ての感覚が再現されている。


そして、公表されていないが、計算力を付与する研究が進んでいる、そのはずだ。


とすると、幸福感を体感できるというのは何かしら怪しい最先端技術が関わっているのではないだろうか。


はたして、そんなことは可能なのだろうか。


計算力という抽象化したものを付与できるのなら、感情という抽象化されたものを与えることも、もしかすると可能なのかもしれない。


その反対の実例を私は知っているではないか。恐怖を与えるという実験で白髪になって人間恐怖症になってしまった男がいたのだった。


とすると、このアミューズメントは幸福依存者を増やそうとする危ないところということになる。


依存度についても調整できるのだとしたら、本当に危ない商売ではないだろうか。


依存度はどちらかというと計算力の付与に近い気がしてしまう。


コンピューターの反乱が描かれる映像作品はたくさんあるが、いつの間にか人間を幸福の沼に浸してしまい、戦争なんておこらずに人類は滅びるのかもしれない。

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