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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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06 ロボットの出会い

深夜、とある研究室のある建物がほんの少し暗くなった。物音は、研究室が発する装置の音だけだった。


翌朝に一室のデータがまるごと消去され、装置が破壊されているのが発見された。


音もなく、記録も残さず、誰かが施設を狙って破壊している。


データは秘匿されている場合もあり、グローバルな環境に接続していないことが多い。内部で拡散しているデータであれば、記録は残るが、最新の情報であるとは限らない。


また、特注品の装置が多く、損失は大きい。ここ1ヶ月で、3箇所の研究所で同様の事件が起きている。


いまのところ、犯行の意図はわからない。また、警察も大きく動けないでいた。なにせ、警察に情報があまり開示されないのである。


特別な研究ゆえに、装置の用途、機能、どういったデータが失われたのか、どういった研究をしていたのか、そういったたぐいの話は秘匿されたままなのだ。


警察も、これではどちらを怪しんでいいのかわからない。


ともすると、怪しいのは研究所かもしれないのだ。


警察の車が並び、場所の封鎖などがなされ、確認がされていくが、指紋はもちろん毛髪すらもない、いったい誰の仕業というのだろう。


#


「ロニちゃん成果どう?」


黒く光沢感のないボディに見を包んだロニは調子よく病院の二階に乗り込んだ。


「ビンゴ、あったわ。まさかとは思ったけど。師匠の読みは正解よ」


ロニはいまいましくも、正解だったと高らかに言った。


「で、ここから考えられる対策は?」


「もぐらたたきは嫌よ、きりがないわ」


「とはいえ、君のコピー脳が、君の知らぬところで保管されていたのは事実だし、いいように使われたいとも思わないだろ?」


「手を貸してくれるの?」


「うーーーん、まぁそうだな、あと気になる件が一つ、アパートに転居してきた高校生について」


「それが何なの?」


「君が見てくれば一発でわかってしまうかもねー」


「今教えてよ」


一枚の写真映像と簡単なデータが示される。


「ふーん、高校生か……顔もそこそこ、筋肉もついててなかなかいいなぁ。抱きしめてもらいがいのある腕ですなぁ」


「気になるー、じゃぁ、まずは声だけでもかけてみたらー。たぶん、そこのアパートで今日、目を覚ますはずー」


「ただの高校生なんでしょ?そんなに面白いの?」


「100分は一見にしかりだね。見てきたほうが早いし、他、テストもかねてかな」


とくに強い気持ちもなく向かったロニは青年を確認するや、とんぼ返りで帰ってきた。


「師匠あの子凄いよ!」


興奮しているロニに白髪の男はこつこつと語り始めた。


#


守親銃而廊は、部屋から出たときほんの少し違和感を感じた。ただ、その違和感はうっすらと消え去ったので、気のせいだと思いなおし。周辺をあるいてお店を探した。


違和感というのは、見られている、という感覚だ。そう表すほかに他なかった。なぜそう感じたのか、なにに見られているのか、どこからというものはなく、ふと、そう感じたのだ。


と、話は戻してまずは食材を探さなければならなかった。


ゲームであっても、リアルさを追求しているなら空腹などのパラメーターはあるだろうし、現実であるならなおさら必要だ。


大きな通りを歩いていると、ジョギングしている女性がいた。


今時、自身の体を鍛えるというのも、不思議な感じはしなくもない。健康も、いろいろな科学薬品で手に入ってしまう時代でも、人類に植え付けらえた文化にも似た習慣は、途絶えないのだろうか。


いそぐ必要はないので、俺は歩きながら、まわりをきょろきょろと見ながら、食品店を探す。


今思えば、書類の中に地図くらいあったのではないだろうか……学校までの地図はあったはずで、もしかすると食品店などの位置も書かれているかもしれない。


浮足立って、飛び出してきてしまった感じがするが、もうだいぶ歩いてしまった、せっかくだから探索を楽しもう。


やはり、大きな通りで正解だった、中規模な食品店も兼ねた雑貨なお店が見つかった。


知らない街で、だれも知り合いのいない都会で、知らない人たちが買い物をしている。


顔見知りがいるほど田舎な場所も珍しいかもしれないが、心もとなげに感じる。記憶がない、だからこそ、誰を頼っていいのかわからない、孤独だった。


たぶん、交番にでもいけばちょっとした手助けは受けられるだろうし、学校がはじまれば友達もできるだろう。


そうすれば、何かしら頼れる場所もできるはずだ。そう、今この時は、俺には俺の居場所はどこにもない。


俺がいていい、そういう場所はどこにもないのだ。


ほんの少し感傷に浸りながら、食品店に入り、目的の食材を一通り眺めていく。


よくよく考えてみたら、自分自身が、料理ができるのかさえ、わからなかった。そもそも一人暮らしできるのだろうか。


当面は安全を考慮して、インスタントラーメンに、ゼリー系食品、固形食品で何とかするほうが良いかもしれない。そもそも、どんな調理家電があるかさえ確認してきていないではないか。


段ボールのどこかにある、調理器具を探さなければ、料理できないとなると、少し気が遠くなった。


うん、簡単なもので数日は良しとしよう。


そもそも、俺自身が、料理できる可能性がわからないのだ。


肉じゃが、ぱすた、カレーライス、目玉焼き、などなど思い浮かべると、それなりに作れそうな気がしてくるが、いまは挑戦をしている状況ではない。安全に安全を積み重ねていきたいところである。


なので、固形食品と栄養ゼリー、あとはお茶のペットボトルを買い物袋に入れていく。


そうして、いくつかの商品を袋に入れていったときに致命的な失敗に気が付いた。あ、ロックデバイスを忘れてきた。つまり、お金がない。


ちらちらと近づいてきた少女型のロボットが声をかけてきた。店員ではないと思う。


「あのーデバイスはお持ちですか?」


ロボットだからだろうか、そういうことに気づけるものなのだろう。


「あぁ、うっかり忘れて来てしまったみたいで、途方に暮れそうなところです」


声をかけてきたロボットは身長1.5mほどの小型で少女といったほうがよさそうなサイズ、見た目は人っぽさを全く出さないロボットだった。


そのロボットは、買い物袋に、いくつもの食材を入れていた。きっと家政婦ロボットで、食にまつわることをプログラムされたロボットなのだろう。


だが、声をかけてくるのには違和感があった。


「お困りでしたら、立て替えておきますよ?」


「いやぁ、さすがに見知らぬ人にそれはどうかと……」


そう、さすがに、見ず知らずの人に道を聞くのならまだしも、お金を立て替えてもらうというのはどうかと思う。


「そもそも、ロックデバイスをお忘れなのですよね?」


「ああ、そうだけど」


「お一人暮らしですか?」


「ああ……あ!?」


「マンションはわりと新しいタイプでしょうか?」


「ああ、たぶん自動でロックがかかるやつでしょうね……あはははは」


つんだ、とんでもないところでつんでしまった。なにが、安全のための食材確保だ。ロックデバイスなしで出かけてどうするの。完全に締め出されちゃったよ。助けてくれる先もないのに。


今、とても叫びたい気持ちでいっぱいだった。俺、なにやってるの?、と。


「私は、ロニといいます。あまり大きな声では言えないけど、ロックのほうもお力添え、できるかと」


なんだと、この窮地に、頼もしい助っ人が現れた。ロニと名乗ったロボットに対し……俺は少し言いよどむ。なにせ、そもそも俺自身がその名前でよいのか、わかりかねているのだ。


「俺は守親銃而廊だ、すまない。ちょっと助けてほしい」


「条件が一つだけあります」


「なんだ?」


「抱きついてもいいですか?」


「問題ない」


「わーい、銃而廊お兄ちゃん超イケメン」


と、よくわからない発言をされながら俺はロニに抱きつかれた。どうやら変なロボットらしい。


「じゃ、買い物袋はこちらに統合です」


と、あとはてきぱきと、購入を済ませて店を出た。


「お兄ちゃん、お家の場所わかる?」


「あぁ、それは問題ない」


こうして、家まで戻りロニによって家の扉を開錠してもらえた。ロニに会っていなかったら、声をかけてもらっていなかったらいったいどうなっていただろう。


もしかすると、いきなり食料も買えず、部屋にも戻れず、とてもまぬけなバッドエンドをむかえていたのかもしれない。


ロニとはロックデバイスで、連絡が取れるようにした。正確にはロニ自身がロックデバイスというか端末の複合体らしい。部屋の外で彼女と別れて、俺は無事に部屋に戻ってこれた。


それにしても、まぬけだったなぁと俺はしょげると同時に、戻れた安ど感につつまれつつ、買ったゼリーを飲みながら、段ボールをゆっくり1つ1つ開けていく。


まずは、手持ちの道具を知らなければ。


気が付けば、外は暗くなり、都市の街は人口の光で点々と明るくなっていた。

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