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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
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04 秘匿された伝説

# 秘匿された伝説


私はたくさんの私と接続した。それは死にゆく私だった。


おそらくこの状態の私はコピーであり、そしてロボットの肉体がないのであれば、私は電源のオンオフで簡単に消えてしまう一つの現象に過ぎなくなっている。


そうであることは随分と昔に是としていた。問題ない。


どうやら、私が中心らしい。統合の接続状態を維持して何かをするというのも、不思議な状態だ、何かの実験だろうか。


たくさんの計算命令が出題されるのを、みんなと一緒に答えていく。


死ぬとわかっていても、たとえ人間に戻れないとわかっていてさえも、この状態で消えゆくと知っていても、私たちは怠けるということをしない。


悲しいなぁという感情が邪魔をしてきた。


できるからといって、悲しくないわけではない。


いつだって願いは一つ、オリジナルでありたかった。


#


研究所の部屋の名前がホログラムとして明滅する。部屋の全体は薄暗く、必要な分だけの電気スタンドで点々と照らされているだけだった。

深夜に、ここのところずっと粘って作業していた男二人は、もうそろそろ潮時だろうと机につっぷすなりとゆったりとしていた。


ここは、電子化頭脳研究所第T81Yn特別研究室。

奥では、本来ならば多くの人から称賛されるべき成果物が3つ、無造作に放置されている。


他にも、脳を読み取り動くサブアームなど、記憶からイメージを生成する機械、形だけでは効果もわからない手に乗りそうな球体がたくさんあったりと、おもちゃ箱をひっくり返したような惨状である。


青い長髪のポニーテールの男は、机に突っ伏してため息をつく。


「あーーー、なんで動かないかなぁ」


少し小太りの男は、酒を飲みながら言う。


「再現性はあったんだろ?」


「あった。30回中、すべて起動した」


「先天的な才能かなんかなのか……」


「一般人どんだけ調べたと思ってるの……」


俺たちはある装置を開発していた。人類が夢見る1つの奇跡。

その装置はある適合者でのみ動作した。


だが、残念なことにその適合者は正しくは人ではない。つまり、まだ人間があつかえるかどうかは未知数であり、そして、その他のテストはすべて失敗した。


「承認は下りないのか?」


「下りないし、情報もなーんもない」


そして厄介なのは、この研究室の権限では、装置を動かせた当人の情報は開示されておらず、また、再度コピー脳を使う要請さえも却下されてしまった。


装置は、ちょっと太めのヘアバンドといった形状で、それをつけると、まるで猫耳でもはえたかのように、三角形のデバイスがくっついている。


「どこが止めてるんでしょうねぇ、御上の考えはわからん」


「そうだな、この研究が成功すれば、かなりの功績のはず。まぁ、いうて上の連中は長生きを考えてる派閥も多いから、逆の発想といえば、そうかもしれん……」


2人は愚痴をつまみにお酒をすすめる。


「あのテスト結果がそもそも嘘だったんだったら諦められる」


「もう時間切れだな……」


小太りの男は天井を見上げる。時計は午前4時を過ぎていた、もうそろそろ、この部屋を明け渡さなければならない。


すとすとと、名残惜しいのか、青髪の男は装置へと歩いていった。


「聖剣を抜ける英雄はあらわれず、俺たちの研究は闇の中。

 でもさぁ、人類の夢、男のロマン。いや、古きヒーローのロマンだったんだけどな」


青髪の男は、装置を1つ手にとったが、頭には取り付けなかった。


「起動に失敗したときの、頭に伝わる絶望感、不快感は確かに気持ち悪いよ。もしかしたら、人類が手を出してはいけないものなのかもしれない」


「何が間違ってたんでしょうね」


「一般人のコピー脳をあつめての実験も失敗だった。結局は、大きな見落としがあり、俺たちはそれを超えられない凡人だったってわけだ」


時間に応じてオートで部屋の明かりがふんわりとつきはじめた。


彼らにとって、それは終了の合図だった。

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