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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第二部
43/71

02 壊れた欠片

全体は黒で統一され、ゆっくりと明滅するレインボーの明かりによって、その場所はどこかファンタジーRPGのラストダンジョンのようでもあった。


だが、ここは現実である。


虫一匹いない、洗練された空間は、何かを主張しているかのようでいて、何か規則があるようでいて、そして意味は全くなかった。


この空間に、装置自体に、さしたる意味などないのである。


そんな場所に、二足歩行のロボットが歩いてきた。そして、1つのオブジェを前に立ち止まる。


しばらくすると、また別のロボットがやって来た。


「遅くなった」


「なに、俺がシンプルな構造だったにすぎない。みながそろうまで、まだ時間もかかるだろう」


遅れてやって来たロボットは、両手を合わせ、オブジェに一礼した。


「どうだ?」


「本来は、感謝の念があってもよいのだと計算するが……さて、我らにはその資格があると思うか?」


「はははは、そうだな、怨念に感謝されるようなものがあるとは思わん」


その高笑いも、音声合成で作られた、ロボット同士の会話である。人間の誰かが遠隔で操作しているというわけでもない。


集まった2体は、残りの仲間を待った。


#


気が付くと、白い天井を見上げ、俺はベットの上だった。


片腕をベットの床につけて体を起こしながら、部屋を一望すると、どうやらマンションの一室で、引っ越ししたてのようなきれいな段ボールがならび、折り畳み机が見えた。


その机には書類が少しのっているだけで、他を見渡しても、知っている景色は全くない。


カーテンを開け、窓を開けて、外を覗いてみたが、周囲の建物は都市部だなぁとわかる程度で、知っている場所ではなかった。


さて、俺はどこに迷い込んだのだろう。


窓を閉めた際にうっすら見えた自分の姿に違和感を覚えた。誰だ?


そもそも、俺は誰だ?


周りを見渡して洗面所にむかう。はっきりと自分自身の姿を鏡ごしにとらえて疑問は深まるばかりだ。誰だ?


白いシャツに、半ズボンというなんともラフな格好で寝ていた誰かさんはいったい誰なんだろう。


ここ最近は、非常に現実に近しいリアルな仮想世界を体験できるハードウェアも存在する。それと記憶忘却の組み合わせだろうか?


新しいゲームの世界に記憶を消してダイビングしてしまったのだろうか。


違和感を覚えながら、とりあえず自分のものらしい顔に手をあてて考える。ここはゲームの中なのだろうか。


どちらにしても、手掛かりになりそうなものは、テーブルに転がっている書類と、部屋の入り口になにかしら表札があれば、それくらいだろうか。


仮想世界だとしても、どちらにしてもユーザーインターフェースのようなものはみうけられない。とはいえ、現実だと断定するのも難しい。


姿から類推すると、中年ということはなく若い男であるが、中学生というほど幼くもない。


こうなると、少しワクワクしてくる。記憶喪失物の主人公にでもなったような気分だ。浮かれている。


ウキウキしながら、フローリングの床に座り、テーブルの書類に目を通していく。


そこには、俺の設定が書かれていた。


本名:守親もりちか 銃而廊じゅうしろう

年齢:16歳

性別:男

職業:学生

血液型:X2型


ふむふむ、どうやら俺は高校生らしい。

よくわからない血液型なのは、なにかしらヒーロー願望の影響だろうか。輸血できない孤高の戦士なのかもしれない。


カレンダーを見ると、今日は休校日で、調べる時間はまだまだありそうだ。いっそ学校に行ったほうが情報が多そうだが、周囲を調べる時間も欲しい。


しかし、俺はいったい何をやりたかったのだろう。


まず、現実かどうかがわからない。


仮想世界だったとして、記憶を消して何をしようというのだろう。脱出ゲームか何かだろうか。


だが、ここまで世界が広がっていると、違うような気がする。脱出ゲームであればもっと牢獄や狭苦しいものであるイメージがある。


そうでない場合、これから災害や事件が起きて、それに対処するゲームもありうる。


といっても、完全に記憶を消してまでやることだろうか。


現実だったらなおさらだ。自分に関する記憶はおろか知人、どこで育ったのか、よく知っているアイドルやタレント、なにかしらきっかけになりそうなすべてがない。


こんな状態で、マンションの一室からスタートというのは、いったいなんのドッキリだろう。


記憶を消去してまったくあたらしい新天地で人生をリセットさせる、そんなサービスがあるらしいが、はたしてそれなのだろうか。


俺は、なにかやってしまったのだろうか?


その結果、敗北者として、流刑されているのだろうか。


妙にしっくりこない。書類には黒い板状の装置もはいっていた。通信デバイスであり、お金をチャージするものであり、生活に必要なあらゆるデータを記録する媒体だ。


そのデバイスはロックデバイスと呼ばれる。


長期戦になることを覚悟した俺は、冷蔵庫の中を開けた。とうぜん何も入っていない。


まずは、近場で食べものを獲得できるかどうかから、やっていくのはどうだろう。


というわけで、部屋の外へ出て、マンションを出て、お店を探し始める。


いくつもの建物、柱、点々と規則的に並んだ木々を見て、なんとなく現実なのかもと思いはじめる。こんな平凡な日常で、俺はいったい何をやっているのだろう。

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