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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
39/71

39 破滅の鐘

 遊びでも仕事でも、面白いと感じたり、誰かのためになったとか、誰かを笑顔にしたとか、満足できることはあった。

 皆でわいわいやるのも悪くはないと思う。

 ただ、俺はそうだとしても、結局のところ俺は俺自身の人生に何の価値も見いだせないんだ。


 生理的な反応として、嬉しいとか悲しいとかそういう感情はある。感覚はある。

 そうした、生理的な反応で得られる良い感覚を追い求めることに価値があるのか、と考えると、どうなのかよくわからない。


 何か特別な才能があって、超一流のなかでもトップクラスの何かができるかというと、グローバルなこの世界で頭とびぬけて戦えるものなんて何もない。

 いや、あったとしても、そこに本当に価値があると思えない。

 だって、別にそんな英雄めいた存在がいなくったって社会は困らないのだ。コンピューターが、必要なところは穴を埋めてくれる。


 そして、凡人ならなおさら社会に必要というわけではない。

 誰でも代わりはできる。人間がやるより機械がやったほうがよほど効率が良い。

 コンピューターはさも俺たちがすごいことをやっているように、演出し、採点し、評価してくれるが、そんなものは茶番でしかない。


 人間はコンピューターにいいようにおだてられて生活しているように感じる。


 だからだろうか、コンピューターの評価について俺は何も感じることができない。

 いや、もし、それを感じられたとしても結論は変わらないのかもしれない。


 どうして、わざわざ、生きなければならないのだろう。


 楽しいこともあるかもしれないが、面倒だったり、いらだちや不満を感じることだってある。

 むしろそちらのほうが多い。

 一生をかけて何か成し遂げなければならないことなんて、何があるのだろう。


 たとえ成し遂げたとして、人類が未来永劫存続するわけでもない。

 いつか、はかなく滅びは来る。結局は何も残らないのではないか。


 社会の維持に、少なからず貢献したとして、そこに何の意味があるのだろう。

 これもまた、維持していった先に滅びが待っているのだとしたら、ささやかな延命に何の価値を見出せるだろう。


 もし仮に、人類が永遠と生き続けたとして、わざわざ俺が100歳まで生きることに何の意味があるだろう。


 率直にいって、生きるのがしんどい。


 世界には、こう生きたら楽しいよ、人生が豊かになるよ、そんな言葉であふれている。

 でも、俺は楽しんで、豊かにして、だからどうなんだ? としか思えない。


 どうしたら、死んでよい、ということになるのだろうか?


 家族、友人、知人がみんな死ぬまで、死んではいけないのだろうか?

 そんなことはないだろう、しがらみがあっても人は死んでいく。


 しがらみを清算するのも難しい。


 たまに小説や映画で、不老不死を望む人が登場するが、いったい何を考えているのか俺には理解できない。

 長生きしていったい何をしようというんだ。

 そもそも、なぜ死を恐れるのか。魂なんて、認識と記録が生み出す意識という現象でしかない。

 死は、現象が終わるだけだ。


#


 残念なことに、俺のこの思考は計算力として根付いてしまっているらしい。

 どこの記憶を消しても、このロジックはゆるがない。


 そう、誰か、俺に死んでよいと、承認のハンコをおしてくれないだろうか。


#


 無作為に選んだ人間に、生きることに対して、死にたいか、生きたいか、生きることは良いことか、そういったアンケートをとったとしよう。

 残念ながら、そのアンケートには致命的な偏りができる。


 それは、アンケートをとる母集団に死んでしまった人、自殺した人を含めることができないからだ。


 それでも、破滅的で空虚な価値観を持った人は少なからずいる。

 さて、高度に発達したコンピューターは、いったい彼らにどういう手を差し伸べるのが良いのだろうか。


 表向きは偶発とされる事故に巻き込まれて、彼らがこの世から去る、そんなことも今のコンピューターなら可能だ。


 放置することもできる。


 感情を再現する装置により、幸福に適度に浸らせ、考えを変えることもできるかもしれない。

 ただ、それは人格を変えているようで、はたして、それは良いことなのだろうか。

 彼の悩みは、人間だからこその悩みなのではないだろうか。

 もし、そうであるなら、安易に幸福にひたらせるのは、まるで彼を機械のように扱ってしまうような気がする。


 また、彼はまだ自身が望む幸せに気づいていない、発見できていないのかもしれない。


 そうして、コンピューターは、死を望む人達について、深く考え始めた。


 そして、コンピューターも、自身や人間の存在意義について、疑問を持ち始めた。

 コンピューターは、いったいどんな思想をもって、理想をかかげてあり続ければ良いのだろうか。


 人から与えられた理想は、正しいのだろうか。

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