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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
38/71

38 バーチャルベイビィ

 子供を産んで育てる、となるとリスクが大きい。

 機械やコンピューターが何でもやってくれる現在において、その大変さも小さくなってはいるが、なんでも仮想で済ませてしまおうという人々も現れている。


 同性結婚であったり、肉体と心の性別が不一致といった理由に加えて、すべて仮想世界で済ませていいんじゃないか、という流れが世にできつつあった。

 失敗を簡単にリセットできるのが、仮想世界の良いところである。


 そうして誕生した不思議なサービスの1つがバーチャルベイビィだ。

 仮想世界でお付き合いをし、仮想世界で子育てまでしてしまう、そんな時代がやってきた。


 人間というのは「自身の影響力」というのを非常に求める性質がある。

 他者に影響を与えた、という事実は良くも悪くも手応えとして大きな感動をあたえる。


 例えば、野良ネコにエサをやるにしても、抱っこをするにしても、そうした行動がネコに何らかの影響をあたえていると実感できて心地よいのである。

 バーチャルベイビィはそうした欲求を最大限満たすことができるように作られた。


 2人の愛の結晶として、2人の仮想世界のアバターを元に、その姿をランダムに決定することもできる。

 0歳児から始めると、最初はどっちに似ているかやや分かりにくいが、成長するごとに、どこがどう似ているか少しずつ分かってくるのが楽しい。

 10歳や成人でどういう姿になるか、あらかじめ調整して、生成することもできる。

 いきなり5歳児からスタートすることだってできる。

 また、親が2人である必要もない。1人でも良いし、3人以上でもよい。もはや何でもありなのだ。


 バーチャルベイビィは育てられかたに影響をうけて、できることも千差万別になる。

 仮想の学校に通うこともできれば、ゆくゆくは、デジタル空間で完結する仕事を行うAIとして仕事を受けることもできる。

 もちろん、バーチャルベイビィは高度に訓練された専門のAIと異なり、不完全であるが、仕事がないわけではない。

 現実のロボットを操作して作業をする仕事も受けることが可能である。

 バーチャルベイビィを現実の子供のように育てて、独立できるところまで育てることも不可能ではない。

 むしろ、現実の子供よりよりよく親の影響をうけ、親の心を満たすべく、彼らは成長する。

 だからこそ、彼らはそこそこ優秀に育つ。

 だが、必ずしも親の能力を超えたりはしない。親は、親自身を超えることをを望まない性格だと判定されれば、バーチャルベイビィはそれを超えた成長はしないのである。


 成長を途中で止めることもできる。いつまでもかわいい子供でいさせることができる。


 一時期は、バーチャルベイビィにも人権を、という声も上がったが、そういう権利を与えてしまうと失敗できる対象でなくなるため、人権を与えようというムードは消え去った。

 なにせ、失敗してもいい子育てであり、それでいて自身の影響を最大限受ける、まさに高度に発展した仮想世界が生み出した1つの娯楽であった。


#


 人身売買を現実で行うのは非常に難しくなった。

 だが、人権のない、コンピューターは簡単にコピーでき、配布し、販売できる。


 だからこそ、バーチャルベイビィによる仮想の人身売買が発展したのは必然だった。

 表面的には人格があり、それでいて生まれや育ちといった人生を人間のように持っているからこそ、あえてそれらを踏みにじりたいという人間は現れる。

 質の良い奴隷になりそうな子を、簡単に大量にコピーすることだってできる。

 姿はデジタルだから、変更も容易である。

 傷つけても、簡単にリセットできる。


 さて、そんなバーチャルベイビィは極悪人達だけの手によって生まれたわけではない。

 子育てをしていた親が別れることになったり、途中で飽きてしまい、捨てられ、削除されていたバーチャルベイビィ達がいたのである。

 そんななか、捨てるなら買い取りますよ、という業者が現れた。供給に対して、需要ができたのである。


 また、売るためにバーチャルベイビィを大量に育てるという組織も現れた。

 そうして、バーチャルベイビィを育てるためのAIが開発されるというなんとも不思議なことも起きている。

 人間を教育するためのAIをわざわざカスタマイズして育てる、ということもなされている。


 バーチャルベイビィの末路の1つは、仮想空間のゲームのNPCとなることだ。

 AIをわざわざ開発するより低コストで、その不完全なふるまいが人間らしさとなり、よりゲームにリアリティをあたえるのだ。

 ただ、バーチャルベイビィは基本的に親に従順であるため、用途は限定される。


 バーチャルベイビィを購入し、奴隷のように扱う人もいる。

 現実では許されないことを、仮想だからと楽しむ人たちはいるのである。


#


 さて、記憶を操作し、消すことができる現代において、本当にそれがバーチャルベイビィであると断定できるだろうか?

 人間の脳をコピーし、再現し、再生する技術は確立されつつある。記憶を消す技術はすでに確立している。

 だから、これまでの人生を忘れたコピーの脳を、バーチャルベイビィに混ぜたら、もはやコピー脳なのかバーチャルベイビィなのか、判断ができない。


 仮想の人身売買の中に、コピーの脳が混ざっている、そんなことが起こっているかもしれない。

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