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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
35/71

35 レンタルボディ

筋肉質の顔の良い何でもできる芸能人の男性がいた。

あるときは、カーレーサー

あるときは、アスリート

あるときは、歌手

あるときは、ダンサー

あるときは、俳優

あるときは、アナウンサー

あるときは、建築家

あるときは、書道家

あるときは、ピアニスト

あるときは、料理人

あるときは、格闘家

あるときは、射撃の名手


どれも超一流にこなすその芸能人は、一躍、注目をあびた。

まるで映画に登場する主人公のような彼は3か月とたたずに消えた。


事件に巻き込まれたとか、何かの陰謀だ、出る杭は打たれる、と様々なウワサが飛び交っていたが、時間とともに人々から忘れられていった。


#


私を見て、だれもが日本人だと考えるだろうが、私はイギリス人である。

その仕掛けは簡単だ、日本人の中年男性を捕まえて、今はその体を借りているのである。


私はイギリスの諜報員である。


仮想世界のアバターを操作する技術を利用することで、現実の他人の人体を動かすことも可能なのだ。


体の持ち主は、仮想世界でゆっくりしてもらっている。

体を返すさいには、彼には私のことは全て忘れてもらうことになる。


電子的な技術によって多くのことが達成される現代において、人体というのは非常に重要なカギになる。

遺伝子、脳、この2つはなかなか偽造できない。

顔は整形でいくらでも変えられる。声も手術により対処できる。指紋も偽造できる。


そもそも、顔は整形などせずとも、他人に成りすます精巧なマスクをつくることは容易い。


しかし、遺伝子と脳はそうはいかない。

特に、脳を調べられるというのは、諜報員としては致命的なミスである。何せ他国に知られてはいけない秘密の多くを抱えているのだから、脳を検査されるわけにはいかないのだ。


その点、他人の肉体を借りるこの方法は、そういったリスクが少ない。


私は彼がいつもするように「やぁ」と声をかけ、彼のように日常をおくる。

彼の肉体を借りる前から、ずっと彼を観察して得られた情報と、彼の記憶から抽出させてもらった情報がもとになっている。


彼は脳科学にまつわる実験の研究者である。さすがに、長い時間、主要な研究員になりかわるのは難しい。

そこで、簡単な作業をわりふられる人間で、施設への出入りが可能で、そこそこの自由が認められた人間として、彼を選定した。

仮想空間で彼がしていた活動は、彼としてふるまうbotにやらせる。


私の任務は、秘匿されている技術の確認と、危険と指定された技術の抹消である。

私が今行っている、他人の肉体を借りる技術も、抹消対象の技術の1つである。


施設へ入るのは簡単だ。

脳を読み取る装置が、自動的に本人だと判定してくれる。操作をしているのは私だとはわからずに。

彼として私は堂々と施設へ入る。


実験は多岐にわたる。

その中で、成果が出そうな注目すべきは3つ。


1つは、自身と同じ記憶をもった脳を仮想で再現する技術

1つは、1つ目で分裂させた脳を1つに統合する技術

1つは、以上2つを利用し、他者に計算力を付与する技術


これらは様々なことに利用できるだろう。

例えば、偉人の脳をコピーしておけば、優秀な頭脳を永久に保管し利用できる。

計算力の付与技術は、簡単に諜報員を作り上げることもできるかもしれない。日本語を学ぶのには苦労したのだ。


課題は、これらの技術をどうやって持ち帰るか、である。

技術を覚えて帰るのは容易ではない。

機材の設計図も必要だが、それを作るための環境もまた必要なのだ。

簡単な方法は、成果である装置を2つほど持ち帰ることだ。後は技術者が分解なりなんなりして調べればいい。

だが、できるなら資料も持ち帰ったほうが良いし、できれば人間を連れ帰ったほうが良い。

しかし、本人を連れ帰る必要はないのかもしれない。


この研究所の研究者の脳のコピーを持ち帰られればよいのではないだろうか。


#


数ヶ月ほど前のことだ。

私はある男性芸能人を抹殺した。


そもそも、カーレーサーから射撃まで何でもこなす超人がいたわけではなかった。

その肉体の本人は、ただ体を鍛えることが趣味の男でしかない。

彼は、カーレーサーをやるときは、本職のカーレーサーに体を貸し、格闘家をやるときは、本職の格闘家に体を貸していたにすぎない。


彼自身の能力ではなく、体を本職の人に貸して、やってもらっていたのである。


これは、組織的な活動で、彼は首謀者ではなかった。

彼とその組織の構成員は、必要があれば抹殺し、そこまでの必要がなければ記憶を消し、任務は完了している。


他人に肉体を貸すという技術をどこから仕入れたのかはわからなかったが、その技術が公になることは防げた。

だが、その技術はイギリス由来のものではないことが確認できている。


どこかで、別の人達が発明したのだろう。

この技術は見過ごすことができない。簡単に大量殺戮できる兵器のボタンが押せる大統領になりかわってしまえるのだから。

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