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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
34/71

34 ペット

僕が家に帰ると、大きな声が響く。


「ワン!」


「おかえりなさい」


飼っているペット、黒い犬が吠え、その意思を反映して機械が「おかえりなさい」と発声した。

動物の意志を、脳を解析して、きっとこうだろうという推測で、言語化して伝えてくれる機械である。

その装置は、ヘアバンドのような形状で、スピーカーがついているので、犬に耳が4つついているようにも見えなくもない。


「ただいま」


「ワンワンワン」


「ごはん、あそんで、なでて」


「まったく、しかたがないな」


僕は、部屋にあがってエサを用意し、買ってきた自分の晩御飯を広げる。


コンピューターが発達し、様々なことが機械化され、電子化された世の中で、わざわざ生き物を飼うというのも贅沢だと思う。

朝の散歩、トイレや食事の世話、そのほかいろいろと手間がかかり、お金もかかる。

たまに部屋で悪さをしていて、モノが壊れていたり、汚されているということが起こる。


ただ、そういったことが生きている、ということなのではないかと感じている。


デジタルなペットは、僕の肌に合わなかった。

それは、最初に動物の犬を飼ったせいなのかもしれない。

撫でたり、ボールを投げたりすると、デジタルなペットも反応がある。それはそれで楽しいとは感じた。

ただ、わざわざ手間をかける必要があるのか? と疑問に至ってしまい、何度か試しても、最後には手放すことになった。

デジタルなペットだから手放すのは簡単だった。

仮想空間で飼うペットと同じように、現実で飼うロボットのペットにも愛着がもてなかった。


デジタルなものは、簡単にやり直しができてしまう。

現実は一日一日は単調で同じことの繰り返しのようでも、積み重ねて大きく変わっていく、そして後戻りはできない。

そうしたリアルさ、というものもデジタルペットには感じ取れないのだ。

スイッチ一つで初期化でき、記録しておいた日の状態に戻すことも簡単にできる。


そういった後戻りできない小さな積み重ねと、何をしでかすかわからないというところに、動物としての良さを感じているのだと思う。


コンピューターは綺麗で、人にとても優しい。

汚いものを見る必要がなく、どこまでも美しく、洗練されていて、楽しく過ごすことができる。

だから、どうしても違和感を感じてしまうのだ。


「ワン」


「おかわり」


「わかったわかった」


愛犬の頭をなでながら、エサをつぎたす。


僕は科学を否定しているわけではない。生活には電気を使っているし、仮想現実も使う。今やっているエサも、工場で科学的に作られたものだ。

動物の意志をとらえるという装置だって、科学の進化によるものだ。

あって困らないけれど、でも、科学というのは結局のところは道具なんだと思う。


たとえ、ロボットが予測不能で不可解な行動をとったとしても、それはプログラムの誤りだったりと、人が見逃がしたものでしかない。

その原因は人間にある。


動物はそうではない。

その行動のなにかしらの原因を、行動に対する根幹を、それぞれの個体が意思としてもっている。


そうして、その意思を理解しようとするのが楽しいのである。

意思を言語化できる装置があるといっても、不完全でおおざっぱな翻訳しかできない。

日々、遊んで、エサをやって、寝て、散歩をしているから分かることがある。


人間も、言葉だけでコミュニケーションを完結させているわけではない。


行動で示したり、触れて示したり、生き物同士のコミュニケーションとはそういうことが必要で、だからこそ楽しいのだと思う。


お話のできるAIも、楽しくないわけではない。

一緒に生活を体験するようなAIもある。

ただ、どうしようもない無害さを感じてしまって、僕としてはリアルなものとして認識できないのである。


#


小学5年生のわたしは誕生日プレゼントとして、パパからネコのロボットをもらった。


それはちょっと太っちょで、少しにくたらしい顔に、わたしの好きな水色の、ネコをもとにしたロボットだ。

わたしは嬉しくて、ここ最近はずっと部屋に引きこもってネコさんをながめている。


わたしがさわろうとすると、ネコさんはにげてベットの下や、イスの下に逃げてしまう。

とてももどかしいけれど、それが楽しい。


たまに、さわらせてくれる。


遊んではくれないのかな、と思っていると、勉強をしているときに机の上のまんなかにやってきて寝転がって邪魔をしてきたりする。


そこでわたしは、ネコさんの背中にあごをのせて「にゃー」と、いじわるをするのだが、どいてはくれない。

なでようとすると逃げるのに、こういうときは、逃げないのである。


ネコさんはとても弾力のあるモフモフとした肌触りをしていて、あごをのせ、ほほをあてているのも心地よい。

いっそ、まくら代わりにして寝てしまいたいが、今は勉強をしているのである。

その感触にひたりながら、学校の宿題をすすめる。


しばらくすると家のチャイムが鳴った。


そういえば、ネコさんを見に、友達が来るんだった。

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