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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
31/71

31 迷走を見つめて

 私は、ロボットの分身が出かけるのを見送って1人、居間で空を見上げていた。


 科学技術は人間の対応力を超えて発展しているような気がする。

 私はついていけない。

 私の脳をコピーした、少女サイズのマネキンめいたロボットと、どう向き合っていいかわからなくなっていた。


 仮想世界なら、2人で、いや、たくさんのコピー達とでさえ一丸となって夢をおうことができた。

 目標を設定し "魂の牢獄" で伝説のパーティーを創り上げることだってできたわけだ。

 そのパーティーはイベントの参加回数は2回とごくわずかで、実験終了とともに解散となった。


 もう、私はコピー達を使って沢山のゲームをいっせいに遊んで、その経験を私に統合するということはできない。


 あっという間だったと思う。


 そして、ロボットの彼女と新しい生活が残った。

 彼女はほんとうに料理や家事、こまかいことをいろいろやってくれる。だが、そうしなければ存在意義がないから、楽しくてやっているわけではないのである。


 だから、見ていてつらい気持ちになるのだ。


#


 彼女は法律上は物であり、私の所有物である。人権などはもちろん、戸籍もない。

 学校や講習を受けるために、実験の職員さんからもらった仮想の身分証明みたいなものはあるが、それはデジタル上でのあるていどの保証に過ぎない。


 私は彼女を物として扱う気はなかった。

 ロボットとして扱うつもりはないが、現状は家政婦さんロボットとして扱っているに等しい。

 仮想世界であれば、条件はコピーであれオリジナルであれ変わらなかった。現実はそうではない。


 彼女は私のような本当の肉体を持てない。

 その分、他の周辺機械との連携は早く、身体能力も高い。

 機械であるがゆえに、古くなってもパーツを取り替えて維持していくことができる。私よりも、長生きしてしまうのではないだろうか。


 彼女は、いったいどれだけ長く生きるのだろう。


 電子的に再現される魂はどれほどの時間、存り続けることができるのだろうか。

 むしろ、どういうとき、死をむかえて良いとなるのだろう。

 在り続けることができるとき、どこで、何をなせば、死んで良いとなるのだろう。

 彼女は、ずっと迷いながら生き続けることになるのではないだろうか。


 朽ち果てることのない肉体ゆえに、いつ死んでよいかわからない。定められない。


 そもそも、何をやったらよいのかが分かっていない。

 何をしたいのかもわからない。

 彼女は今、私に縛られ生きている。


 私が死んだとき、やっと彼女は自分の人生をはじめられるのだろうか。

 それとも、また誰かが所有者になり、付き従うのだろうか。

 たぶん、所有者に付き従うことはないだろう。私だから、彼女は世話をしてくれるのだ。


 でも、それは好意からなされる行動ではない。

 私達は、仲良くないのかもしれない。


 もし、彼女のためを思うのなら、私は人間の肉体を持っているからこそできることに進むべきなのかもしれない。

 結婚をし、子供をつくり、母となる、そんな道は、どういうふうに進んだらそうなるのだろう。

 ゲームのように、試しに死んで見るような、失敗前提で異性とつきあうことは気が進まない。

 だからといって、その場その場を全力で完璧に、と思うと身動きが取れなくなる。


 そもそも、私はどういった異性が好みなんだろう。


#


 彼女が料理などをしてくれるおかげで、時間に余裕ができた私は、はやっている映画をいくつも見ていた。


 妙に、機械と人間の関係をテーマにするものも多く、私の個人的な事情で、それらはあまり楽しめなかった。

 同じ記憶をもちながら心をかよわせることができない私としては、見ていてはがゆくなる。


 それでも、アクションシーンとか、サスペンスめいたところで面白いと感じるところはあった。

 ロボットやヒーローだからできるアクションとかを見ていると、現実でやれたらと憧れる気持ちはあったりするのだ。

 仮にも私は "魂の牢獄" ではソロで有名なベテランプレーヤーなのだから、仮想世界のゲームでできることが現実でできたらいいのにと考えることは多い。


 そうは思うも、ロボットになってまでかなえたい夢ではない。

 私は人間でいたいのだ。

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