30 スイーツゲーム
「お待たせいたしました、マウンテンフルーティーブルーパフェでございます」
俺は、そっとテーブルに置かれた。
この仮想世界はやや、ポップな、アニメたっちな雰囲気で構成されている。
目の前にいる、俺の大好きなアニメのヒロイン中学生は、待ちに待ったと満面の笑みで俺を見つめている。
照れるじゃないか。そんなに見つめないでくれ。
そう、俺はこの瞬間を待っていたんだ。さぁ、たんとめしあがってくれ。
彼女のスプーンが飾られたフルーツ、俺の体にそっと触れ、ツルンと切り取られる。
すくわれたかけらが、彼女へと近づいていくごとに、ズンズンと不思議な期待が高まっていく。
「おいしい」
あぁ、食べてもらえた、喜んでもらえた、おいしいと言ってもらえた、それだけで俺は幸せだった。
スプーンは俺の体を貫いてすくっていく、クリーム、アイス、ムースがまじりあい、かき乱される気持ちよさにぼーっとなっていると、彼女は二口目を口にした。
そうしてまた、幸せを感じた。俺をもっとかき乱し、もっともっと食べてくれ。
ときに優しく、ときに大胆に、ふと紅茶で箸休めをして、ゆっくりと俺は彼女に堪能されていく。
少しずつ、俺は形を失い、へっていくのが寂しい。幸せは永遠には続かないのだ。
そうして俺は食べつくされ、現実へ覚醒した。
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筐体を設置された、アーケードゲーム式で、大掛かりな個室になっているあるゲームが大人気だ。
限定生産のため、そのゲームを遊ぶには長蛇の列を並ばなければならない。
最新技術をふんだんに盛り込んだ、そのゲームは、デザートや食事になって、アニメキャラクターに食べてもらうという、なんとも不思議なゲームである。
食べられて幸せを感じるとかありえない、と懐疑的な意見がとびかいながらも、真偽を確かめたくなる人、もう一度その感動を味わいたいという人と、タイアップしている好きなキャラクターに食べられたいという願いとで、混沌と盛りあがっている。
俺は味わったことのない、食べてもらえて嬉しいという不思議な感覚を胸に噛み締めながら、お店を後にした。
連続で何度も遊ぶことはできず、並び直したら3時間以上はかかるであろう長蛇の列なので、今日もう一度、その感触を確かめることはできない。
そもそも、1回遊ぶのに必要な金額が尋常では無いので、そうそう何日も楽しめるものでもないのだ。
それにしても不思議だった。俺は食べられることに、自分をかき混ぜられることに幸せを感じてしまうだなんて思いもしなかった。
それほどまでに、俺は彼女のことが好きだった、ということなのだろうか。
あぁ、もう一度食べられたい。
そして、もう一度食べ尽くしてほしい。




