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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
26/71

26 白恐怖症

 僕のことを馬鹿だっていうやつもいるかも知れない。

 大げさにそれっぽく振る舞っていれば、高い評価がもらえて、簡単にお金が稼げたんだ。


 痛覚のレベル、感度は最初は低く設定していたんだよ。

 だけど、慣れてくると、もっとちゃんとしたほうがいいかなって、そう思うっていうかさ。

 そうしているうちに、仮想世界で痛みを感じることに抵抗がなくなっていったんだ。

 そのほうが、それらしく振る舞えるし、都合が良かったんだ。


#


 仮想世界でお金儲けができて、そのときに嫌なことがあっても、簡単に忘れることができる。


 昔の人は言っただろ、嫌なことを進んでしなさいって。


 コンピューターの発展により、数値化できることはなんでもゲームになって仕事になった。

 そうした中で、悪いことを楽しいと感じてしまう人がいる。

 そうして、仮想世界のゲームの中だからと、悪さをできるゲームが作られた。


 僕は、別にそのプレーヤーになったというわけじゃないよ。


 逆だ。


 僕は、その悪に蹂躙されるキャラクターになったんだ。

 コンピューターであるNPCがやればいいものを、わざわざ人にやらせるんだよ。面白いだろ?


 恐怖を感じているであろうと、演技し、それらしく振る舞えば振る舞うほどに、高い評価がされ、お金がもらえるんだ。


 さいしょはね、これほど簡単にお金が手に入るものはないと思った。

 賭け事と違って、痛みっていうのは確実に感じるからね、それをただ、痛いって普通につらそうにすればいいだけなんだもん。


 これほど手軽で美味しい話はないと思ったんだ。


 被害者になるといっても、いろいろあるよ。

 殺人鬼が街中で暴れまわるとか、巨大怪獣が暴れる世界、拷問をするゲームといろいろ。


 血を見たら、悲鳴をあげて逃げまどえばいいんだ、簡単でしょ?


 そうして、僕のアバターが切られたり、破壊されたりしたら、痛い、助けてって、ちゃんと言うんだ。

 反応のしかたもいろいろあるよ。

 助けて欲しがったり、痛がったり、逃げたり、抵抗したり、神様にお祈りしたり、他の人のやられかたを見たり映画を見て研究するんだ。


 設定として、家族がいたり、友人がいる場合は、守ったり、見捨てたり、そのあたりは臨機応変にやったよ。

 お金をもらっているプロだからね。


 そうやって調子に乗っていたんだと思う。


 あと、見えも貼っていたかな。

 お金を持ってると、モテるし、裕福そうなイメージをもたれるのが楽しくってさ。


 お金を皆の前でパーッと使うことが気持ちよかったんだ。


 痛いことを繰り返すのは辛くないかって?

 記憶を削除できるからね、装置で簡単に忘れられたんだよ。

 辛いのを少し我慢していれば、その記憶は消えてお金だけが手に入るんだ。まるで魔法や錬金術みたいだろ。


#


 気がついたら、食事のときに手が震えるようになったんだ。


 サラダを食べようとフォークを持っていたんだと思う。

 でも、その時は理由がわからなくて、何か重いものでも持って疲れたかな、そんなふうに思ってたんだ。


 それが続いて、周りがいろいろ言うのがうっとうしくて、それを隠すために、食事は1人でとったり、パンとか、手で食べられるものに限定するようになっていった。


 手で直接食べるとか、ゼリー系の飲むものなら問題がないっていうのは、いろいろ試して気がついたんだ。

 フォークやナイフはだめだった。カレーライスはスプーンだから大丈夫。

 でも、しだいにお箸でも手が震えるようになって、本当に困ったよ。


 そうだね、お箸がダメになったころあいに、鉛筆やボールペンでも手が震えるようになったんだ。

 刃物を見るだけで気分が悪くなってさ、ハサミとかカッターナイフも見ているだけで吐き気がしたんだ。

 映画も見れなくなった。


 しだいに僕の部屋からいろんな物が消えていったよ。


 キーホルダーの人形とか、ああいうのも、犬っぽいとか、魔物めいたものを恐ろしいと思うようになってさ。

 そうそう、パトカーや救急車のサイレンの音を聞くだけで、逃げ出したくなるようになった。


 そうやって現実に支障をきたして、他人に強引に医者にいかされるまで僕は壊れつづけたんだ。


 記憶を消しても、魂は覚えているんだね。

 もう、白い服を着た女性を見るだけで僕は、嘔吐してへたりこんでしまうまでになっていたんだ。


 全て忘れているはずなのに、覚えているんだ。

 白い女が、ナイフで、のこぎりで、チェーンソーで、僕をズタズタに切り裂く光景がイメージできてしまう。

 足を切られ、指を切られ、腕を切られ、細かく細かくすり潰されていく。

 その映像がずっと僕のなかで再生され続けるんだ。

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