25 ロボットの私
少女のロボットになってしまった私は。
元の私である彼女と奇妙な同居生活をしている。
四六時中一緒にいると、彼女を拘束しているみたいなので、ここ最近はやることを作って距離をあけるようにした。
家事をできるように勉強。
自身をメンテナンスするための勉強。
ロボットとしての簡単な仕事。
家事のための買い物。
といったように、意識的に家の外へ出た。
メンテナンスの勉強として、仮想空間の学校を使ったので、身体的な問題はなかった。
ただ、自分を構成しているパーツの中には極秘でブラックボックス化されたものもある。
当然、実験の職員からそれらの情報をえることもできない。
覚えることが膨大だが、極秘パーツは解析や代替えを考え無くてはならない。1人でメンテナンスできるようになるにはかなり時間がかかりそうだ。
個人や法人が作った便利ロボットに、仕事をマッチングするという仕組みがあり、それをつかって仕事を見つけることにした。
宅配や掃除、介護、子守などいろいろ見つかった。
少しずつでよいと思うので、彼女に頼らずできることを増やそうと思う。
まだ、実験中であるため彼女との脳の統合、同期は定期的に行っている。
実験終了後は、どうするか、考えておかないといけない。
統合を続けるのかどうか。
統合は、私達を縛っているような気がしてならない。
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私は、人間嫌いでロボットに世話をまかせている世捨て人の金持ちと合うことになった。
私がロボットだから合うことができたわけだ。
町外れで捨てられた病院の地下を居住空間にしているらしい。
扉の前までいくと、自動的に扉が開いた。
「よ、ようこそ」
「どうも、はじめまして」
男は白髪、ヒゲがのびっぱなしで、かなりうさんくさい。
かなりジロジロと私を見てくる。もしかして、とんでもない人のところへ来てしまったのかもしれない。
世の中にはロボットを愛する不思議な人達がいるらしい。
「大丈夫……だな、入れ」
ひとまず、私は中に入る。
「メシをちゃんと作ってくれれば、それでいい。掃除とか、できそうなことがあったらやってくれ」
「わかりました」
私はひとまず、ここ最近得意になったパスタとサラダを作ることにした。
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俺は、家事が一通りできるなら、どんなロボットでもよかった。
ただ総合的に、いろいろできるとなると、どうしても人型になり仕事を依頼するのも高価だった。
人に頼むほうが安上がりになりそうな値段ばかりだ。
そんななかで、かなり安く雇える人型ロボットがいたので、試してみることにした。
安いということは理由があるはずだ。
例えば、会話がすごく単調だったり、できる料理が限られていたり、なにかしら欠陥があるはずだ。
それでも、使い物になるか、試してみたくなった。
やってきたロボットをみて違和感をおぼえた。
その違和感に、少し恐怖も混じっていた。
欠陥品どころではない、使われている部品は特注品ばかりだ。
科学の先端の一品。こんな、ガラクタの寄せ集めにいるのはとても場違いだ。
どうして、あんな安値なんだろうと不思議に思いながらも、ロボットならいいかと、とりあえず料理をしてもらうことにする。
「なぁ、君は趣味はあるのか?」
さて、どういう返答があるだろう。そもそもロボットに趣味なんてあるはずがない。
擬似的な仮想の生活空間を与えられていて、そこで趣味を持っているということもあるが、そこまで高度な取り組みをなされているのか興味があった。
「えーっと、その、仮想世界のゲームです」
「なるほど」
つまり、仮想世界のゲームにbotとして参加しているということなのだろう。面白いことをさせているな。
「どういうゲームなんだ?」
「"魂の牢獄" っていう、ダンジョンハックゲームです。強いんですよ、私」
「お、おぅ」
「他にも、お猿さんになって、人間にいたずらするゲームとかもやっています」
ロボット、AIが仮想空間のゲームを遊ぶのは、確かにできなくはないが、どうも俺の想定を遥かに超えている気がする。
わざわざ複数のゲームをやらせるとはどういうことなのだろう?
「お兄さんは、ゲームされないんですか?」
返答だけでなく、質問も返してくる。この質問は仕事をするために必要なものではない。
とすると、このAIは個人が作っているにしてはかなり高度なことをさせている。
「仮想であれ、他人をみるのが嫌なんだ」
そして、ロボットのくせに言葉をえらぶような妙な間をとりやがる。
「じゃぁ、お兄さんはどういうことが楽しいんです?」
「ん、そう……だな……」
今の俺は一体何を楽しめるのだろう。
人を騙し、盗み、楽しんできた悪さはすべて恐怖に変わってしまった。
俺はいびつな天井を見上げて考える。
「ないな」
しばらくして、ロボットは答える。
「その、それじゃ一緒に料理を作ってみませんか? 一緒にやると、楽しいですよ」




