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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
2/71

02 もっと赤く赤く

 カウントダウンがはじまる

 何度も繰り返していることは知っている。だが、それだけだ

 この先で私が体験する感動がどんなものか、その記憶は封印してきた


 その手応えの期待は刻々と高まっていく

 カウントが0になるまで、私はこの世界には存在しない


 突如として私は現れる、その瞬間までのわずかな時間もまた楽しい


 私は白い髪に白いワンピースの仮想世界のアバターで、人通りの多いショッピングモールに少し浮いて立っている

 周囲からはまだ見えない。ゲームがはじまるまでの待機空間で、カウント0を待っている。


 外は、服、軽食、お菓子、おもちゃなどのお店が並んで、子供から大人まで、学生達も楽しそうに歩いている

 なんの不幸もない幸せ一面の世界が広がっている


 とても尊い


 私は歪んでいるのかもしれない


#


 カウントが0となった瞬間に、私は感じた手の重みのそれを起動させて頭上に掲げた

 ドルルルゥルンという大きな音を撒き散らせたチェーンソーに、周囲の人々は不思議な表情になった


 ぽかんとした表情がとても心地よい

 これから起こることがまるで理解できていないという無垢な反応に口を歪ませながらチェーンソーをデタラメに一振りする


 3人ほど巻き込んで、傷が深く入り、まさにその場所から血が吹き出し、そして悲鳴が連鎖していく


 私が世界の中心となり、私の暴力が純白を、私が、私がやった


 本当にリアルで、きざんだとおりに傷ができ、そこから出血するこのデジタル空間が与えてくれる臨場感は見事だと思う

 だからこそ、私ははまったのだろう


 悲鳴にあわせて一歩進んでもう一振りしつつ標的をさだめる

 目が合った中年の男性の目が揺れたのがわかる、非情に良い、私がそうさせたのだ


 返り血で、白のワンピースが赤く染まっていくのも良い、だから白は好きだ

 残念ながら服のテクスチャの色を徐々に赤黒くしているのであって、染み込んでいる感触まではない

 血の表現は擬似的でゲーム的であるものの、想像をふくらませるには十分だった


 私は完全な白の世界に、ペタクタと赤を塗りたくっていく

 ワンピースだけではない、このあたり一面を真っ赤にしてしまいたい


 目の端で、大きく動いた人をとらえた

 反転して逃げようとしている

 次の狙いは、その女性にしよう

 狙い通り切り伏せたとき、きっと私はもっと赤くなれるに違いない


 いつのまにか私は笑っていた

 ゲームエリアから人がいなくなるまで、私は商店街を赤い血で塗りたくっていく


#


 このゲームを遊んでいることを私は誰にも話したことはない

 このタイトルや、血なまぐさいゲームの話題にまずのっかることもしない

 私の部屋に友人を招いても、知られることはないだろう


 私にとって、とても大切なことで、傷一つ付けられたくない、なんの干渉もされたくないのだ


 小さい頃、せっかく積み上げた積み木を崩されて非情に悲しかった思い出がある

 たぶん、私はされて嫌なことと、やって楽しいことが一致してしまう


 きっかけは、なんだったのだろうか

 そう、罰ゲームだった

 ふわっとしていて、大人しく振る舞う私は、くじ運悪く殺戮者になるゲームをさせられた


 それが始まりだ。記憶を封印しているので、そのときのゲーム内容は思い出せない

 たぶん、感動している心を必死に押しとどめて、気持ち悪いとよそおったのかもしれない


 世の中は珍妙なコンテンツがあふれている

 誰にも迷惑をかけないのなら、珍妙なものが好きでも構わないのだと思う

 別に社会運動をしているわけでも、布教活動をしているわけでもない


 私は生まれてくる時代を間違えたのだろうか

 戦国乱世の時代に男としてうまれたらよかったのかもしれない

 でも、一方的な蹂躙というのは、このゲームだからできるのかもしれない

 現実ではないから実現でき、最初の感動をなんども体験できる


 この時代に生まれてきてよかった


#


 血の海の真ん中で、いくつかの数字が提示されていくのが見える

 ゲームは終了し、結果の表示がなされている


 結果の数値には、キル数、血の量、が表示される。

 その他に、条件を満たしていると与えられる称号がいくつか表示されている。


 いちいち覚えなくても、後で記録を見ることができるので、ログアウトしてから吟味しよう


 途中からは何も考えていなかった

 ただ、感覚的な手応えをもとめて一振りし、感動し、一振りし、感激し、一振りし、笑っていたのである。

 怒涛の充実感が、他のことをまったくどうでも良いことのように感じさせてくれる。


 結果よりも、やったそのときに感じる何かがとても重要なんだと思う。


 だから、結果はどうでもよかった。

 そもそも、より良い結果をのぞむなら記憶を封印する必要はない。


 結果の画面では、数値結果の隣に、ニュース番組ふうのスクリーンが表示された。

 凶悪犯が商店街の人々を次々に殺害という、なんとも非現実的なニュースだ。

 その映像が終わるのを待たず、私はログアウトした


#


 ゲームからログアウトすると、封印していた記憶も蘇ってくる

 本当に便利な時代になった


 なんども最初の感動を体験できるというのは、本当に素晴らしく、こうして今日も1日に満足というハンコを押せるのだ。


 明日も頑張ろう。

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