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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
17/71

17 気楽な生き方

 僕と彼女は分かれることになった。


 いったい僕が何をしたというのだろう。喧嘩したときのことを覚えていないという、それだけで非常識扱いされ、別れを突きつけられた。


 そんな、めんどうな女だとは思っていなかったが、僕が理解していなかっただけなのだろう。


 だいたい、嫌なことがあったら忘れて何が悪いと言うんだ。

 わざわざ心を悪い状態にしておくなんて不健康極まりない。

 そうすることで、喧嘩をした後だってすんなり仲直りできたんだ。喧嘩した記憶を消すことでね。


 いちいち、なんでもかんでも覚えていなければならないというのは、今の時代では愚かなことだと思うんだよ。

 ただ、今回のことはちょっと面倒だな、今日のことを忘れただけだとつじつまが合わなくなる。

 振られてしまったからな。


#


 私は彼と別れた。


 たまに彼が、嫌なときの記憶を消していたことは気づいていた。知っていた。

 話が噛み合わない時があったのだ。


 だけど、ここまでひどいとは思わなかったのだ。

 なんだろう、つきあっている、といっても結局はそのていどということなんだろうか?


 私は、辛いことがあっても、なんでも忘れていいとは思わない。

 良いことも悪いこともふくめて、記憶を積み重ねて人は成長していくんだと思う。

 記憶を消すことを悪いとも言い切らないが、それでも限度というものがある。


 記憶の削除は計算力まではおよばない。

 とはいえ、記憶が積み重なるからこそ、計算力とか感情につながっていくんだと思う。

 仮にも今後、ずっと付き合っていく相手との記憶をポンスカ消すというのは、どういうことだろう。


 そうした、いきさつと不満を友達にぶつけた。


「2人の思い出を消してるとかありえない」


「でしょう」


「もうさ、そんなヤツのこと早く忘れたほうがいいんじゃない?

 記憶を消してでもさ」


「あー、そっか、でも、いいのかな?」


「いいんだって、どうせあいつとはもう関わらないんでしょ?」


「うーん、そうかなー」


 たしかに、もう関わらない。

 なら、彼に関わるものはすべて捨てるか。記憶もろとも。


「うん、そうする」


「そうそう、それがいいって」


#


 俺は酒は飲まない。そのかわり、嫌なことがあったら記憶を封印してパーッっと遊ぶ。

 酒を使って気分を良くしたところで、記憶が残っていては一時しのぎなのだ。


 だから、仕事に失敗したり、日常で嫌なことがあっても、だいたい忘れて生きていくことができる。


 とはいえ、大事な人間関係での記憶を消してしまうと上手くいかない。

 人間関係の構築というのは、つまるところは話をしたり、一緒に行動した記憶が柱になっているからだ。


 どうすればいいかというと、嫌な記憶は、必要ではないときは封印しておくのが良い。

 場所や時間帯など、自分自身にモードのようなものを設定してもいい。

 そうやって、どの記憶を開放しているか、選択ができるようにすると人生は生きやすくなる。


 もちろん、仕事一筋で一人暮らしみたいなのはダメだ。

 モードの変更が難しいからな。

 最低でも3つのモードは欲しい。


 俺の場合は、家庭のモード、仕事のモード、趣味のモードの3つだ。

 いっそ3人に分裂したほうがいいんじゃないかって思う人もいるだろう。

 だが、それでは人間は上手く回らない。

 モードを切り替えるというのは非常に重要なことだ。

 1つのモードで頭をずっと働かせ続けると、心が腐って鬱になる。

 ほどよいバランスで3つほどのモードを切り替えて人生をおくるくらいがちょうどいい。


 どんなことも順調で幸せが続くばかりじゃない。

 いくつものモードを持っておくことで、安息できる時間を確保するわけだ。


 だから、仕事しかしてないやつには趣味や家庭を無理にでも作らせる。

 勉強しかしていないやつは遊びに誘う。

 遊んでばかりのやつには仕事を押し付ける。


 ただ、最近はそんなことを言う必要もなくなってきた。不思議なものだ。

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