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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
16/71

16 美味しい肉

 ゆったりと配置されたテーブル、どの調度品も高級品だろう。

 眼の前に並べられた料理にひとまずの満足を得て、私はナイフとフォークを持ち、肉を切り、口へと運ぶ。レアな焼き加減と、とろける食感がたまらない。


 やはり肉はいい。生きていると感じさせてくれる。


 少し赤みがかった黒のスーツの私は、静かに食事を進めていく。肉、ワイン、肉、ワイン、肉……他は何もいらない。


#


 そんな私も仮想空間のゲームをする。

 私はそこで魔獣となる。

 なかなか、ここまで成長させるのには苦労した。俊敏さ、嗅覚、知覚など、獲物を捉え、食らうための能力の向上をさせてきた。


 舞台は、中世ファンタジーで、水晶などがきらめき、少し機械の発達した都市である。

 40体ほどの悪魔である私達がそこに突如現れ、破壊と殺戮を繰り広げるというのがこのゲームだ。

 カウントが0となる前に、どこに出現するかを選択しておく。


 このゲームは色々な楽しみ方がある。

 基本となるルールは簡単だ、モンスターとして暴れまわり、恐怖を振りまけば良い。

 恐怖を与えれば与えるほどにポイントがもらえる。

 モンスターとなる私達はチームプレーをする必要はない。

 それぞれが思うままに、破壊し、殺し、喰らい、非道を楽しめば良い。


 都市の住民の中には抵抗する傭兵や冒険者、魔術師もいる。

 正義の味方に絶望を与えるのもなかなか楽しい。


 さらに私は、この世界をより楽しむために現実の記憶を封印する。

 そうして完全な魔獣へと私は生まれ変わるのだ。

 虎よりも二回りほど大きな巨体に、頑丈な顎、牙をもつ四足の魔獣は、空こそ飛べないが、地上での俊敏さと破壊力をもつ。

 カウントが0に近づくにつれて、私の人間性も薄れていくような錯覚を覚える。


 さぁ、狩りの時間だ。


#


 街に出現した私は、手近な人間にかぶりつく。すぐには噛み殺さない。

 状況を理解させなければ恐怖のポイントがつかないからな。

 食らいつきながら、左右にゆらして周囲に見せびらかしつつ、牙をめり込ませ肉と骨の砕ける音を聞かせてやる。


「バ、バケモノ!」


 あぁ、美味しい、どうして人間の肉はこんなにもうまいのだろうか。

 屈強な戦士、美しい女性、なにかしら資質をもった者たちはもっとうまい。


 逃げ惑いはじめる頃合いを見計らって、次に飛びかかる。くわえたまま、家の中へ逃げたほうへ、壁を壊すように頭から突っ込む。

 縦横無尽に暴れ、破壊するこの感覚がたまらない。

 やはり、豪快に硬さと力で潰しながら、俊敏さでとらえる私の体はとても良い。

 小細工抜き、火を吹かず、直接食い殺すことが何より心地よい。


 そうしていると、遅れて傭兵たちがやってくる。

 私にとって彼らは邪魔者ではない。美味しい美味しいとっておきの肉だ。


 重装備のいかにも回復役ですよという僧侶から食っていく。そう、私の俊敏さには隊列など何の意味もなさない。

 大きな盾を密集させて横に並ぼうが、飛び越えてしまえば良い。人間は小さいのだ。

 次は、軽装のものから順にたいらげていく。

 焦る必要はない、ゆっくり味わいながら、すぐに死なぬように食べたほうが恐怖ポイントは獲得できるのだ。


 あぁ、うまい、うまい、うまい。

 我慢できずに私は天をあおぎ、咆哮をあげる。


 その声に、またいっそう恐怖ポイントは増えていく。ポイントのためではなく、叫びたかっただけなのだが。


 そうして目につく人間を殺して回ったら、私は都市の外へとでて宴を終了した。


#


「ふぅ」


 現実の私室で、私は考え事をしていた。

 そこから見える街並みは、夜でも点々と明かりがついて綺麗だ。


 ふと思う、この街にあのゲームのような魔獣が突如出現したらどうなるのだろうと。


 警備の人間やロボットもいるが、そうそう簡単に止められるものではないだろう。

 軍も、そうそう早く動くまい。

 なにぶん、そんな状況はこれまで起こったことがないのだから。


 機械、コンピューターが発展し、それによる監視は社会を一段と安全にした。

 そうそう街中で大量殺人など起こすことは難しい。

 魔獣のような人外の力でもなければ、成しえないが、機械を使えばあるいはと考えてしまう。

 それでも、機械を使うがゆえに監視網があり容易ではない。


 ただ、ここ昨今、そういうことを題材にした映画も増えてきた。

 街中での虐殺、人類とコンピューターとの対決、それは普遍的なテーマではあるが、昨今そのたぐいの映画が流行っている。


 食われる側にはなりたくないな。

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