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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
14/71

14 分裂する私

 私のもとに実験への協力をもとめる招待状が届いた。

 報酬の金額は破格。

 さらに、成功した場合に受け取れる内容は、現実ではなく仮想空間で受け取るものではないか? と勘違いしそうなものだった。


 成功報酬は、私の記憶を持った機械仕掛けの人型ロボットである。

 データ収集を条件に、実験施設が存続する間はメンテナンスもしてくれるらしい。


 さて、どうしてそんな話が私に舞い込んできたのかというと

 遊んでいる "魂の牢獄" というゲーム、そこでの私の活動が実験に適している、ということらしい。

 ソロで活躍していた私には、多様な仮想空間に単独で挑戦する技術があると判断されたらしい。


 ひとまず、仮想空間の共有空間で話だけでも聞くことにした。


#


 実験は、まずデジタル上で私の脳をシミュレートし、仮想空間で行動できるかを確認し、仮想空間で、私と立ち会うこと。

 私の脳のコピーが現実の人型ロボットを動かすこと。そこに私が立ち会うこと。

 複数の私の脳のコピーを仮想空間で行動させた後、私の脳に統合すること。

 それらが可能であれば、私の脳のコピーを複数作り、いくつかのゲームを遊ばせ、私へと統合する。


 この実験の目的は、統合時に向上する計算力と脳の構成を記録、蓄積し、蓄積したデータに基づいて、記憶の操作を行い、任意の誰かの計算力を直接向上させることらしい。

 簡単にいうと、記憶操作によって、他者に計算力を付与させる技術の発明である。


 今はまだ、元が同じ脳でも統合することが安定せず、まずはその研究がしたいのだという。


 もし、実験が成功すれば、私はもっと上手くゲームを遊ぶことができるようになるのかもしれない。

 ただ、そのために、自分の脳をコピーしたロボットが付属することに不気味さを感じる。


 このロボットも1つの実験らしい。確実に成果が欲しいのは計算力の付与で、こちらは失敗前提の実験なのだそうだ。

 どうしてそんな不気味な実験をしたがるのだろう。


 同じ記憶を持ったロボットと私、はたして、どうなるのだろうか。


#


 私は研究施設へと足を運んだ。

 記憶を読み取るための装置につながれる。そうして、そのまま私は仮想世界へと意識をうつした。


 監視カメラのような高く部屋の角にあるような位置から、私は自分のアバターを見下ろしていた。

 見下ろしているアバターは私が動かすわけではない。

 私の記憶をコピーし、脳をシミュレートしたものがアバターを動かすのだろう。


 灰色のなにもない立方体の内側の空間が、時間が止まったように、すべてが静止していた。


 しばらくして、獣人の少女はかるくジャンプをしたり、体を動かしはじめた。

 自分の手を見つめたり、何度も繰り返した回避モーション、攻撃モーションと、1つ1つ確認していく。


 そうして


「すいません、私ってコピーなんですか?」


 獣人の少女は、あっけらかんと叫んだ。声が妙に高い気がする。

 実験施設の職員は答える。


「はい、なにか違和感は感じませんか?」


「えーっと、はい、違和感はとくにないです」


「それでは、仮想世界で対面してもらいます」


 そうして、私の意識は切り替わり、目の前には私がよく知るアバター、つまり私がいる。

 先程から動いてた少女である。


 こうして私は、もうひとりの私と出会った。


「うーん、あなたが本物ということになるの?」


「うん」


 私は、コピーの私が発する声に違和感を覚えつつ、試してみたかったことをもちかけた。


「「戦ってみない?」」


 二人の誘いは重なった。同じ記憶をお互いに持っているだろうことが少し理解できた。


 そうして、1対1の試合がはじまる。

 一挙手一投足、すべて知っている動きに、驚きと確かな手応えを感じながら、いくつもの技を試していく。


 それは新鮮だった。彼女がいれば、もっと強くなれる、そんな気がした。


 しばらくして試合を終える。


「もういいですよ」


 はたして、その発言はどちらのものだったのだろう。


「わかりました、それでは次の段階にすすみます」


#


 私の意識は、気がつくと研究室だった。


 そうして私は、私を見つけた。現実の、私が、目の前にいた。


 さっきまで、仮想空間で私は私と戦った。つまり、あちらが本物なのか。

 仮想空間でコピーかどうか、答えを聞いても、まったくそんな気はしなかった。

 でも、さすがにこれは致命的だった。


 うつむいて自身の体を見れば、あからさまなロボットで、さっきまでの、コピーなんて嘘なんじゃないかという思いを見事に砕かれた。


 幸いなことに涙は出なかった、そういう機能はないらしい。


「気分はどうですか?」


 職員が私に聞く。良いはずがなかった。


「私は、コピー?」


 私の声は、のども口も使わず、スピーカーから発せられた。それがまた、自身がロボットなのだということをつきつける。


「私もね、今のあなたの気持ちがわかるかもしれません」


「どうして?」


 職員は、優しい顔で答える。


「私も被検体となり、脳をコピーし、ロボットへ接続し、私と対面しました。

 そして、私はそのロボットの記憶と記憶を統合したので、まぁ、わかりますよ」


 そうか、私がなにも実験の最初というわけではないのか。

 ある程度の記憶の統合技術が発達するほどに、実験は行われていた。

 だけど、それは何の救いにもならない。


 私は、声をかけた職員を見つめる。

 いったい、どういう心境でこの人は研究を続けているのだろう、続けられるのだろう。


 人ではなくなってしまうという衝撃を受けても、前に進みたいなにかがあるのだろうか?


「わたしは、どうなるの?」


 言うまでもない、今日の実験はここまで、終了すれば電源がおとされる。デジタルな存在となった私は、電源のオフと同時に意識もろとも消えるのだ。

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